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いま聞きたいQ&A

米国株への投資について、留意すべきポイントを教えてください。(前編)

米国株の上昇をけん引するハイテク成長銘柄に陰りや死角がないかはチェックしておきたいところ。成長が期待できて足元の業績も堅調な大手IT銘柄は投資先として好ましいと考える人もいれば、2000年のITバブルと重ねて今後「金利上昇の影響は避けられない」と指摘する人もいるようです。

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さまざまな形で進行する米国株のシェア拡大

2021年末から今年(2022年)の初めにかけて、金融関連のニュースで「米国株の独り勝ち」という表現をよく目にしました。昨年の1年間における主要な株価指数の騰落率をみると、米国ではS&P500種株価指数が26.8%、ナスダック総合株価指数が21.3%、ダウ工業株30種平均が18.7%、それぞれ上昇しています。

他の先進国では日経平均株価が4.9%、TOPIX(東証株価指数)が10.3%、英国FTSE100種総合株価指数が14.3%、ドイツ株価指数(DAX)が15.7%の上昇といった具合です。確かにS&P500とナスダックの上昇ぶりが際立っていること、さらには日本株が相対的に伸び悩んだことが分かります。

S&P500とナスダックの上昇をけん引するのは、両指数に採用されているほんの一握りの超大型株です。具体的には、GAFAM{グーグル(運営会社はアルファベット)、アップル、メタ(旧フェイスブック)、アマゾン・ドット・コム、マイクロソフト}と呼ばれる巨大IT企業に、電気自動車メーカーのテスラを加えた6銘柄が中心。例えばS&P500では、今年初めの時点で構成銘柄全体(500銘柄)に占める6銘柄の時価総額シェアが25%を超えています。

ちなみに6銘柄のうち、ダウ平均に採用されているのはアップルとマイクロソフトのみ。ダウ平均の上昇率がS&P500やナスダックに比べて若干見劣りするのは、これら成長期待が特に高い銘柄群から受ける恩恵の差によるものと考えていいでしょう。

世界株における米国株のシェア拡大も進んでいます。先進国から新興国までの株式を広範にカバーし、グローバルな株式投資の連動対象として最も多く利用されているMSCIの「オール・カントリー・ワールド・インデックス(ACWI)」では、米国株の時価総額シェアが21年11月末に過去最高の61.5%に達しました。MSCIより銘柄数が多い「FTSEグローバル・オールキャップ・インデックス」でも、米国株のシェアが59.9%と同様の傾向を示しています。

もう一つ注目すべきシェア拡大として、日本の個人投資家による米国株への投資偏重が挙げられます。日本の公募投資信託で21年に資金純流入額(流入から流出を引いた値)が多かった上位10本のうち、6本は米国株に投資するタイプの投信でした。あるネット証券では、投資の初心者が多い若年層だけでみると、個別株の約定件数は米国株が日本株を上回っているそうです。

成長銘柄にとって金利上昇が試金石となる?

こうした現状を踏まえると、日本の個人が今後の米国株投資において留意すべきポイントは、さしあたって3点あると考えられます。

  • (1)米国株の上昇をけん引するハイテク成長銘柄に陰りや死角はないのか。
  • (2)米国株のシェアが拡大するなか、世界株への分散投資をどのように実践するか。
  • (3)米国株への投資は長期的な資産運用の柱と位置づけてよいのか。

(1)については、専門家の間でも意見が大きく割れているもようです。FRB(米連邦準備理事会)による早期利上げや保有資産の圧縮が現実味を帯びるなかで、今年1月7日には米国の長期金利が一時1.8%台と、20年1月下旬以来の水準まで上昇しました。金利が上がると、PER(株価収益率)が高い銘柄は理論株価を計算する際の割引率や株式益回りなどの観点から、株価の割高さが正当化されにくくなります

例えば前述したGAFAMのうち、メタ以外はいずれもPERが30倍を超え、米国株の平均値(20倍程度)を上回っています。この点に関して強気派の専門家からは、「期待先行で買われてPERが100倍を超えているような銘柄と、キャッシュフローをしっかり稼ぐアップルやマイクロソフトのような銘柄は異なる」といった声が聞かれます。緩和縮小で投資環境が悪化する今後は、成長期待があって足元の業績も堅調な大手IT銘柄がむしろ投資先として好まれるという見立てです。

一方、慎重派からはこんな指摘も出ています。「GAFAMはきちんと利益を稼いでいるから大丈夫という見方も多いが、2000年のITバブル時にもマイクロソフトやインテルは利益を上げていた」。GAFAMのPERはITバブル当時のハイテク株と同水準に切り上がっており、金利上昇の影響は避けられないというわけです。

08年のリーマン・ショック以降、長引く金融緩和によるカネ余りで債券利回りが歴史的な低水準に落ち込み、市場では大げさにいえば「株式しか買うものがない」状況が続いてきました。さらに新型コロナウイルス禍では大規模な財政出動まで動員され、株安リスクが低く抑え込まれてきた格好といえます。このように、企業と投資家の双方にとって有益だった「ボーナスステージ」が、いま転機を迎えつつあることは確かでしょう

成長銘柄には市場がすでに織り込んだ高い期待に対して、それを裏切らないだけの成長を続けるという、シビアな結果が求められます。規模が大きくなるほど成長率は鈍化してハードルは高まるため、時価総額が大きなGAFAMやテスラにとって、今後はこれまで以上に業績が重要なファクターになりそうです。

次回は引き続き、上記(2)と(3)のポイントについて検証します。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。