いま聞きたいQ&A

ROE(自己資本利益率)向上は、その背景を知ることが大切

ROEは自動車の「燃費」と同じように、各企業の収益力というスペックを表します。企業がROEを高める方法は大きく分けて2つありますが、ROEを継続的に高めていくには純利益を増やすことが重要です。そのための施策がなされているのか、個人投資家はROE向上の背景を知るように心がけたいところです。

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Q.株式投資においてROEの水準が重視されるのはなぜですか?

ROE(自己資本利益率)は企業の収益力を測るのに有用な財務指標で、「当期純利益÷自己資本×100」という計算式によって求められます。当期純利益とは、企業が1年間の事業活動によって得た利益から、仕入れ代金や人件費などのコストと、法人税などの税金をすべて差し引いた金額のこと。自己資本とは、株主が出資によって企業に託した資本と、企業が上げた利益の蓄積を合計したもので、いわば企業が返済不要で自由に使える金額を指します。

ROEの水準は、企業が自己資本をどれだけ効率的に使って利益を稼いでいるかを表します。これは自動車の「燃費」に例えると分かりやすいかもしれません。自動車を購入するにあたって、ブランドやデザインなどの好みを度外視した場合、元手(購入金額)が同じならば、誰しも少ない燃料で長い距離を走れる高燃費の車を選びたくなるものです。株式投資においても元手(投資金額)が同じならば、利益を多く出してくれる企業の方に、より大きな魅力を感じることでしょう。

実際にROEの水準が高い企業ほど、あるいはROE向上への意識が高い企業ほど、投資家の評価も高まる傾向にあります。2024年12月に「トヨタ自動車が20%をROEの目標に掲げる」とのニュースが伝わった際には、株価が2日間で10%超も上昇しました。ちなみに2025年3月期における同社のROEは、連結決算ベースで13.59%となっています。

日本企業がROE向上に本気で取り組むようになったのは、2014年に経済産業省が「伊藤レポート」をまとめたことがきっかけです。このレポートは現・一橋大学CFO教育研究センター長の伊藤邦雄氏を座長とする研究会が、日本企業の低収益性を改善するための指針を示したもので、ROEについては8%を上回る水準が望ましいと指摘しました。

2023年には東京証券取引所が日本企業に「株価や資本効率を意識した経営」を要請し、株価指標のひとつであるPBR(株価純資産倍率)の改善を強く求めました。PBRは「株価÷1株当たり純資産」という計算式で算出され、純資産という企業価値をどれぐらい上回って投資家が企業の将来性を評価し、投資しているかを示す数値といえます。

株式市場ではROEが8%を超えると、「ROEが高まるほどPBRも上昇する」という相関関係が見られることが分かっています。逆にいえばROEが8%以下の場合には、例えばある企業がROEを5%から7%に向上させても、その企業の将来性を投資家が評価するとは限らないことになります。その意味では、企業が投資家から「将来性が期待できるまっとうな投資先」と見なされるための出発点がROE8%超えと言えるのかもしれません。

企業がROEを高めるための2つの方法

日本企業のROEはここ10年ほどで全体的に向上してきましたが、それでも平均ROEは9%程度であり、米国主要企業の20%近くに比べると見劣りするのが現実です。

企業がROEを高める方法は大きく分けて2つあります。ひとつは売り上げを伸ばしたりコストを削減したりして、ROEの計算式の分子に当たる当期純利益を増やすことです。ただし、この方法では瞬間風速的にROEが高まっても、すぐにまた下がってしまうケースが考えられます。

例えば当期純利益7億円、自己資本100億円の企業があったとして、当期純利益を10億円まで増やすと、ROEは7%から10%に高まります。10億円という当期純利益のすべてを企業が内部留保した場合、翌年にはその分が自己資本に加算されます。翌年の当期純利益が同じく10億円だったとしても、自己資本は110億円に増えているため、ROEは「10億円÷110億円×100=9%」と下がってしまうのです。翌年もROEを10%に維持しようと思ったら、10億円ではなく11億円の当期純利益が求められます。

このように、ROEを継続的に高めるためには当期純利益を増やし続ける必要がありますが、もうひとつの方法を使えば比較的容易にROEを向上させることができます。それは計算式の分母に当たる自己資本を小さくすることです。

利益として蓄積したお金を株主に配当として還元したり、自社株を買い取ったりすることで自己資本は縮小します。ここ数年、日本企業の増配や自社株買いが増えているのは、ROEやPBRを向上させるという意志を投資家にアピールする狙いが大きいと考えられます。

ただし、こうした取り組みが「財務テクニック」と呼ばれることからも分かるように、その効果はあくまでも一時的なものに過ぎません。ROEの継続的な向上を目指して企業が注力すべきは、やはりひとつ目の当期純利益を増やす方法でしょう。

自己資本を研究開発や設備・人材などへの新規投資に有効活用し、中長期的に収益性を高めた結果としてROEも向上するというのが、本来のあるべき姿だと思います。場合によっては低収益の事業を思い切って手放し、自らが強みを持つ事業に集中することも重要です。

個人投資家は企業のROE向上が何によってもたらされたのか、その背景を知ることが大切です。例えばROEに及ぼす影響が大きい数値項目のひとつに売上高当期純利益率(%)があります。これは「当期純利益÷売上高×100」という計算式で算出され、利幅の大きい製品やサービスの販売拡大、コスト削減などによって改善されます。

東証プライム上場企業において、2025年3月期の売上高当期純利益率は6.4%となり、08年3月期以降では最高を記録しました。業種別では製造業が5.5%、非製造業が7.3%となっています。企業のROE向上について評価に迷った際は、売上高当期純利益率に注目してみるといいかもしれません。(チームENGINE 代表・小島淳)

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