いま聞きたいQ&A

株式の最低投資金額が低下し、2つの分散が容易になる

欧米に比べて日本では株式を購入する際に必要な最低金額が高く、若年層などの間で日本株投資が進まない要因のひとつと言われています。東京証券取引所の要請によって、今後は株式分割を通じた最低投資金額の低下が期待されますが、現状でも低めの金額で購入できる銘柄が意外とあることは、ぜひ知っておきたいところです。

メインビジュアル

Q.個人にとって株式の最低投資金額が下がるメリットは何ですか?

東証は今年(2025年)4月、投資家が株式を購入する際に必要な最低金額を10万円程度に引き下げるよう、日本の全上場企業に要請すると正式発表しました。これは東証が24年10月~11月に実施した約1万人の個人投資家アンケートにおいて、各銘柄の最低投資金額は10万円程度が望ましいとの回答が最も多かったことを踏まえたものです。

日本株には「100株単位」で売買するルールがあり、例えば株価が3000円の銘柄では最低投資金額が30万円となります。今年3月末時点で最低投資金額の中央値をみると、東証に上場している銘柄全体では約13万円、プライム市場の上場銘柄に限れば約20万円に達していました。

欧米では「1株単位」で株式の売買が可能です。米国S&P500種株価指数の構成銘柄では最低投資金額の中央値が約1.8万円なので、日本株の10分の1程度の金額で購入できることになります。ちなみにドイツやフランスでは中央値が1万円を下回り、オーストラリアでは数百円程度となっています。

東証は現在、上場規程で最低投資金額50万円未満を努力義務として定めていますが、今回の発表により10万円程度を意識した株式分割を上場企業に求めていくことになります。

過去にも東証は同様の対策に動いてきました。22年10月には東証を傘下に持つJPX(日本取引所グループ)がホームページ上で最低投資金額100万円超の企業名を公表し、株式分割を呼びかけるという異例の措置を実施。その効果からか、22年に96件どまりだった株式分割の発表は23年に162件、24年には211件と急増した経緯があります。

23年にはNTTが25分割の大規模な株式分割を行い、最低投資金額が従来の40万円程度から一気に1万円台にまで下がって、株主の年齢層が大きく若返ることとなりました。今後、こうした株式分割の動きが多くの企業に広がれば、投資金額が高すぎるために日本株を敬遠してきた若年層や投資の初心者などが、新NISA(少額投資非課税制度)を通じて本格的に日本株投資に乗り出すことも期待できます。

新NISAを活用して日本株投資を考える個人にとって、最低投資金額が下がることには大きく2つのメリットがあります。ひとつは、より自由度の高い「銘柄分散」が可能になる点です。

新NISAの成長投資枠では年間の投資上限金額が240万円なので、現実問題として最低投資金額が240万円を超える銘柄には投資できません。例えば今年(2025年)6月3日時点で該当するのは、最低投資金額が最も高いセンサー大手のキーエンス(594万7000円)や、ユニクロのファーストリテイリング(481万9000円)、日本銀行(250万1000円)など8社があります。

また、ダイキン工業の最低投資金額は164万2500円、ニトリホールディングスは同142万3500円なので、これらを同時に購入することはできません。ほとんどの銘柄を10万円台で購入できるようになれば、最大で年間10~20銘柄程度への分散投資が可能となります。これまで物理的に投資できなかった銘柄を含めて、自分が本当に望む形で複数の業種や銘柄を組み合わせた日本株ポートフォリオ(資産構成割合)がつくれるようになるわけです。

2つ目のメリットは、特定の銘柄を年に複数回、少しずつ購入していく「時間分散」が可能になる点です。前述したダイキン工業やニトリホールディングスのように最低投資金額が120万円を超える銘柄については、新NISAの成長投資枠で年に1回しか購入できません。仮にこれら2銘柄の最低投資金額が年間を通じて10万円を切っていれば、両者を毎月100株ずつ12回に分けて購入することも可能になります。

現状でも低めの金額で購入できる銘柄は意外とある

実は、こうした分散投資を実践するのは現状でも不可能ではありません。例えば時価総額が1兆円を超える「大型株」のうち、今年6月3日時点で最低投資金額が20万円未満の銘柄には以下のようなものがあります。

  • ●アサヒグループホールディングス(食料品):18万9700円
  • ●TDK(電気機器):15万800円
  • ●アステラス製薬(医薬品):14万2800円
  • ●ホンダ(自動車):14万2350円
  • ●ユニ・チャーム(衛生用品):11万3350円
  • ●野村ホールディングス(証券業)::8万7650円
  • ●ENEOSホールディングス(石油元売り):6万9650円
  • ●NTT(通信サービス):1万5890円

これらのいくつかを組み合わせることで業種分散も時間分散も可能になります。一方、長期の視点でみると、時価総額が相対的に小さい「中小型株」のリターンは大型株を上回りやすいと言われています。日本株ポートフォリオの一部には、中小型株を組み込むという選択肢もありそうです。

東証が規模別株価指数を算出するにあたって「小型株」に分類している銘柄のうち、知名度が比較的高く、今年6月3日時点で最低投資金額が20万円未満のものを挙げてみます。

  • ●スター精密(精密部品):17万2300円
  • ●アスクル(オフィス用品):15万2300円
  • ●象印マホービン(電気機器):13万3200円
  • ●ラウンドワン(レジャー施設):12万5900円
  • ●ゼンリン(住宅地図):11万4700円
  • ●壱番屋(カレーチェーン):9万300円
  • ●レオパレス21(不動産業):6万5300円

小型株のなかでも、けっこう業種を選べることが分かります。もちろん、実際に投資する場合は収益性や成長性などを十分に吟味する必要がありますが、少し目を凝らして調べてみれば、なじみ深い銘柄や興味をそそられる銘柄が意外と低めの金額で購入できることに気付くかもしれません。(チームENGINE 代表・小島淳)

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。