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いま聞きたいQ&A

ゴーイングコンサーン、GC注記、ベイルインについて、それぞれ意味を教えてください。

「ゴーイング・コンサーン(Going Concern=GC)」は「継続企業の前提」という意味。経営状態が悪化した際、企業は決算短信等に「GC注記」として記載する義務があります。企業の信用リスクを測る上でぜひチェックしたい記載です。また、金融機関の経営破綻時に持ち分に応じた損失を債権者負担させる「ベイルイン」にもこの用語は登場します。

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企業存続に黄信号が灯ったことを経営者が公表する

「ゴーイング・コンサーン(Going Concern=GC)」とは、会計制度が企業をどのような存在として定義づけるかを表す言葉で、「継続企業の前提」という意味で使われるのが一般的です。

会計制度では企業を「将来にわたって永続的に存在するもの」と定義しています。そうした大前提があるからこそ、企業が決算において在庫を取得時の評価額で計上したり、購入した設備を減価償却するなどの長期的視点に立った会計処理が可能になるのです。

一方で現実に目を向けると、企業は日常的にさまざまな経営リスクにさらされていて、将来にわたる継続性が保証されているわけではありません。そのため、例えば債務超過や巨額の損害賠償負担など、継続企業としての前提を揺るがすような事態が生じた場合には、その内容および解消や改善に向けた対応策を財務諸表に記載することが企業経営者に義務づけられています。

これはいわば企業の存続に黄信号が灯ったことを、企業経営者が自らの責任として公表するもので、「継続企業の前提に関する注記(GC注記)」と呼ばれています。私たち一般個人がニュースなどを通じてゴーイング・コンサーンという言葉を目にする機会としては、このGC注記が最も多いのではないでしょうか。

東京商工リサーチの調査データによると、2019年3月期決算を発表した上場企業2417社のうち、同期の決算短信でGC注記を記載した企業は21社ありました。また、GC注記より深刻度は低いものの、経営リスクが生じた場合に注意喚起する「継続企業の前提に関する重要事象」を記載した企業は37社にのぼりました。

一例をあげると、液晶パネル大手のジャパンディスプレイ(東証1部)は直前の第3四半期までは重要事象の記載でしたが、期末に最終損益が5年連続の赤字になったことを受けて、初めてGC注記の記載に踏み切りました。同社はその後、19年9月の中間期決算では1016億円の債務超過となり、引き続き決算短信にGC注記を記載したほか、不適切会計の疑いで19年12月には特別調査委員会を設置しています。

東京商工リサーチによれば、10年~19年に倒産した上場企業30社のうち28社までが、直近の決算においてGC注記か重要事象を記載していたとのことです。リーマン・ショックの影響を受けた08年をピークに、上場企業の倒産数は減少傾向にありますが、投資家が企業の信用リスクを測るうえでGC注記などのシグナルに改めて注目する価値は高いといえそうです

金融機関の経営破綻時に納税者負担を回避する方法

「ベイルイン(Bail-in)」とは、銀行などの金融機関が経営に行き詰まったり経営破綻した場合に、持ち分に応じた損失を債権者に負担させる仕組みのことです。

かつては銀行が経営危機に陥ると、政府が公的資金(税金)を用いて救済する「ベイルアウト(Bail-out)」という手法がとられていました。しかし、銀行が発生させた損失を、銀行の経営に能動的には関与していない納税者が負担することに批判が集中したため、現在では納税者負担を回避する方法としてベイルインの適用が国際的なコンセンサス(合意事項)となっています。

具体的には金融機関の経営危機や経営破綻に際して、特定の債券を対象とした株式への転換や元本削減が実施されます。こうして債権者(債券の保有者)に損失の一部を負担させることで、金融機関の負債を減らすのが狙いです。各金融機関は平時から通常の社債とは別に、ベイルイン時に投資家の損失負担を可能とする債券を発行し、万一の場合に備えることとなります。

実はこのベイルインにも、前述したゴーイング・コンサーンという言葉が関係しています。ベイルインには概念上、金融機関の事業継続を前提とした「ゴーイング・コンサーン・ベース」と、実質破綻を前提とした「ゴーン・コンサーン(Gone Concern)・ベース」の2種類があります

前者は金融機関の自己資本比率が一定の基準を下回った時点で債券の株式転換や元本削減が行われるもので、そのような契約条項を含んだ債券は「CoCo債(偶発転換社債)」と呼ばれます。投資家にとっては、金融機関が存続中にもかかわらず強制的な株式転換や元本カットのリスクがあって条件として不利なため、一般的な社債などに比べて利回りが高めに設定されています。発行は欧州の金融機関が中心です。

後者は司法手続きや金融当局の認定により金融機関が実質破綻とみなされた時点で、債券の株式転換や元本削減が行われるものです。破綻の影響がとくに懸念される大手金融機関に対しては、日米欧などの金融当局で構成するFSB(金融安定理事会)がベイルインに関する新規制を制定して資本の積み増しを求めています。新規制の対象となった世界の大手金融機関は、持ち株会社を通じて「TLAC債(総損失吸収力債)」と呼ばれる債券の発行を進めています。TLAC債には、日本や英国のように持株会社を通じて発行する国と、持株会社以外の発行を認めている国があります。

現時点での国内債としては、CoCo債(AT1債)やTLAC債は機関投資家向けのホールセール債のみとなっていますが、国内で扱う外貨建てTLAC債は邦銀発行を含めて個人投資家に流通しており、投資が可能となっています。

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