1. いま聞きたいQ&A
Q

「ゴーイング・コンサーン」とは何ですか?

今回のご質問は企業会計の本質的な分野に関するものです。ここでは企業会計のおおもとにあたる部分を説明してゆきます。少しむずかしい内容になるかもしれませんが、できるだけ平易に述べるつもりですのでしっかりついてきてください。

企業が経済的な活動を行ってゆくには様々な利害関係者が登場します。そこでは取引先はもちろん、債権者、投資家、従業員、税務署、監督官庁、これらすべてが企業の利害関係者となります。企業はこのような利害関係者に対して、正しい判断と意思決定ができるように、企業の経済活動を定期的に報告しなければなりません。そのための記録、伝達、手続きの手段が企業会計です。

企業会計は――より狭い範囲に限定して「財務会計」と呼びます――外部の利害関係者に対して、企業の資本と損益を正確に計算して報告するという役割を持っています。つまり財務会計に託されている最もたいせつな任務とは、「企業の経営成績を明らかにすること(=損益)」と、「企業の財政状態を明らかにすること(=資本)」のふたつにまたがっています。

近年、財務会計が特に重要なものとなった背景には、(1)株式会社が出現したこと、(2)企業の所有と経営が分離されたこと、(3)証券市場が発達して株式の売出・発行が容易になったこと、があるとされています。

(1)と(2)に関して、株主は企業に対して資金を提供するだけで、企業の運営(経営)は経営者にゆだねます。企業の経営を任された経営者は、株主に対して経営の責任を明確にし、活動の良し悪しに対する評価・承認を株主から得なければなりません。その際に財務会計に基づいた報告を用います。

また(3)に関しては、企業の損益や収益力を正確に報告して、株主と債権者、あるいは現在の株主と将来の株主とが不公平にならないように配慮しなければなりません。一例を挙げれば、利益の分配(配当)は、稼ぎ出した利益の中からだけでなされるべきものであって、株主から預かった資本を利益の分配と称して配当に回すことは許されません。正しい利益分配を行っているという証明書としても財務会計が利用されます。

そこで財務会計の作成手順、開示方法には、どの国でも法律によって明確なルールが定められています。日本では商法による会計と証券取引法による会計があります。大きく分けて、商法は主に出資者、債権者の保護を、証券取引法は投資家の保護を念頭に置いていると言われます。


法律によって定められる財務会計の作成手順、開示方法は、それらよりもさらに前段階にあって企業会計の考え方全体をおおっている大原則、基礎的事項、暗黙の了解事項、思想というものに支配されます。それが「会計公準」と「会計原則」というものです。これらを図示すると次のようになります。(<図1>)

冒頭のご質問にありました「ゴーイング・コンサーン」とは、この「会計公準」に属する考え方のひとつです。会計公準とは、企業会計上の大原則や暗黙の同意事項としてあらゆる会計上の概念を規制するもので、会計規則や基準を打ち立てる際の基本構造を形作る骨格です。今日、会計公準として考えられているものとして、

  • (1) 企業実体の公準
  • (2) 継続企業の公準(ゴーイング・コンサーン)
  • (3) 貨幣的評価の公準

の3つがあります。

「ゴーイング・コンサーン(going concern)」とは、(2)の「継続企業の公準」のことです。企業というものは永遠に継続するもの(going concern)であって、企業会計の対象となる企業は継続して存在しているものを前提にする、という基本思想です。

中世の冒険商人の時代、企業というものは航海のたびに資金や人が集められ、ひとつの航海が終われば成果を分配して解散することが普通に行われていました。継続企業(ゴーイング・コンサーン)とはこれに相対する概念で、会計上における企業の評価は解散を前提にしないで行うことになります。

したがって「継続企業の公準」の公準から導き出される会計原則や規則は、企業のすべての存続期間を人為的に一定の会計期間に区切って(通常は1年間)、その期間内に行われた経営活動や財務情報を外部の利害関係者に伝達・報告する、というものになります。

解散を前提としていないために、たとえば貸借対照表に記入される建物や機械類の評価額は、決算日の売却価額(時価)ではなく、購入したときの価額(取得原価)から減価償却費を差し引いた額で記入されるというルールが導き出されます。本来は売却処分価格を持たない無形固定資産(特許権、のれん代)に、会計上では資産価値を持たせているのも企業が継続するという前提に基づいています。

つけ加えて説明しますと(1)の「企業実体の公準」とは、企業の活動が会計的に記録・計算・報告されるためには、企業という会計単位がまず前提にある、という考え方です。企業は出資者から独立した存在であって、株主の集合体ではありません。ひとつの企業がひとつの会計単位になり、会計上の判断は株主とは独立して企業の立場から行うことが求められる、というものです。

また(3)の「貨幣的評価の公準」とは、企業の会計上の記録・計算・報告にはすべて貨幣額によって行われるという考え方です。土地や建物、在庫など、企業の資産や資本はすべて貨幣価値に換算されて貸借対照表に記載される額が決定されるという前提です。

今回のご質問から少し主旨がそれますが、ライブドア事件では自社株の売却益が子会社や投資事業組合を通じて、ライブドアの売上や利益として計上されていたのではないかという疑いがもたれています。これが事実ならば今回の一件は、資本取引と損益取引を明確に区別した企業会計原則の根本部分に触れる問題を含んでいます。財務会計は、企業が企業として存立する際の本質的な部分であるために、勉強してゆくには非常に奥の深い分野だと痛感します。


参考 「財務会計論」飯野利夫、同文館

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。

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