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いま聞きたいQ&A

ROEやROAが意味するところについて、改めて分かりやすく教えてください

いずれも財務指標のひとつです。「ROE(自己資本利益率)」は、企業が自己資本を使って利益を得ているかを表すもの。「ROA(総資産利益率)」は借入金を含めた全ての経営資源を使ってどれだけ利益をあげているかを表す指標です。ROEに比べるとより広い視点から企業の稼ぐ力を測るモノサシといえます。

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事業の収益性を示すROAの向上が新たな目標に

「ROE」(自己資本利益率)と「ROA」(総資産利益率)は、いずれも財務指標のひとつで、企業の稼ぐ力を測るモノサシとして重要視されています。それぞれ以下のような計算式によって求められます。

  • ●売上高純利益率(%)=純利益÷売上高
  • ●総資産回転率(回)=売上高÷総資産
  • ●財務レバレッジ(倍)=総資産÷自己資本

自己資本とは、株主が投じた資本と企業があげた利益の蓄積を合計したもので、株主にとっては企業の経営資源のなかで「自らの持ち分」にあたるものです。ROEは、その自己資本を企業がどれだけ効率的に使って利益を稼いでいるかを表すものであり、企業が株主の投資という期待にどこまで利益成長で応えているかを示す指標といえるでしょう。

一方の総資産には、株主の持ち分である自己資本だけでなく、銀行からの借入金など他人資本も使って企業が過去に積み上げてきた工場や店舗、在庫、現金などの資産も含まれます。これらすべての経営資源を活用して、企業がどれだけ効率的に利益をあげているかを表す指標がROAであり、ROEに比べるとより広い視点から企業の稼ぐ力を測るモノサシといえます

政府が音頭を取って進める日本の企業統治改革では、これまで大企業を中心にROEの向上が強く求められてきました。東証1部上場企業の平均ROEは約8%と、この十数年で大幅に改善されてきましたが、欧米企業の10%超が当たり前という水準からみるとまだまだ見劣りするからです。ところが、政府が今年(2017年)6月に公表した新たな成長戦略では、大企業のROA(現状で2%台)を25年までに欧米企業並み(4%台)まで引き上げることが目標として掲げられています。

上記の計算式を見れば分かるとおり、ROAに負債の活用度合いを示す財務レバレッジを掛けるとROEになります。苦労して利益を増やさなくても、例えば負債を増やすことによって財務レバレッジの分子になる総資産を大きくしたり、自社株買いや増配によって分母の自己資本を減らすなど、いわゆる財務テクニックを駆使することでもROEは改善できるわけです。だからROEの数値はそれほど当てにならないという意見もありますが、実は現在、日本企業の財務レバレッジは海外企業とほぼ同じ水準です。

それならば、日本企業のROEが相対的に低いのはそもそも事業の収益性が低いこと、すなわちROAの低さに根本の原因があるのではないか。ROEだけを目標にすると、低収益という最大の問題をカムフラージュしてしまう恐れがあり、むしろROAという事業全体の収益力に照準を合わせるべき――という問題意識が今回の政府決定につながった模様です。

財務指標が悪化している理由の検証こそが重要

ROEにしてもROAにしても、企業がこれらの財務指標をひとつの目標として効率的な経営を目指すことに何ら異存はありません。ただし、ROEやROAの水準が株式投資の判断材料として投資家から必要以上に重視され、高ROEや高ROAの企業ばかりに注目が集まるという風潮にはいささか疑問を感じます

企業がビジネス拡大や将来の利益成長を目指して先行投資を行う時期には、さまざまな諸経費がかかります。例えば工場新設ひとつをとっても、土地の購入費から工場の建設費、機械設備の減価償却費、新規雇用者の人件費などが新たな費用として発生し、社債発行や銀行借り入れによって資金を調達した場合には継続的に元利金を支払う必要が出てきます。

最新の工場設備がフル稼働するまでの数年間は先行投資の負担がかかり続けることになるわけで、企業の財務内容は悪化するのがなかば当然といえるでしょう。純利益が減少し、負債が増えた分だけ総資産は増加することもあり得ます。すると、何が起きるでしょうか。前述した売上高純利益率は分子の純利益が減ることによって下がり、総資産回転率も分母の総資産が増えることによって下がります。つまり、ROEもROAも低くなるわけです。

事業の収益性に着目して財務指標を重視する投資家は一般に、ある時点で多数の企業のROEやROAを横並びにして比較します。このやり方だと、たとえ先行投資によってROEやROAが一時的に下がっている企業でも、資本効率の悪い経営という評価が下されて、投資の対象から外されることになりかねません。それは投資判断として妥当なのでしょうか

単純に財務指標が悪いというだけで軽視され、その企業の株価が下がっているのならば、将来的に先行投資が利益回収につながることを見越して、割安な現時点で買うという判断こそが合理的と考えられます。すなわち、企業の財務指標が悪化している理由を検証することが重要なわけですが、なぜか一部の市場関係者を除くと、そのような話を表立ってする人がほとんど見られません。

次回はこの話題をもう少し膨らませて、現在の「投資」という行為の全体的なあり方について、その意味するところを考えてみたいと思います。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。