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いま聞きたいQ&A

世界的な投資の潮流について、どのように考えればいいですか?

米国市場で合理的バブルの崩壊が迫っている?

投資の世界には「合理的バブル」と呼ばれる現象があります。ある金融資産の価値(価格)がさまざまな経済的条件から割り出される理論価値を超えている場合に、それを多くの投資家が認識しているにもかかわらず、「自分は必ず売り抜けられる」と皆が思っている状態のことです。資産価値の上昇がある程度長く続くと、投資家のなかでは「理論価値を上回る資産価値の上昇はあり得る」といった、いわば自らの投資行為を正当化する心理が働きやすくなるそうです。

さしずめ現在の米国市場などは、その典型といえるかもしれません。代表的な株価指数であるダウ工業株30種平均は今年(2017年)8月2日に初めて2万2,000ドルの大台を超え、S&P500種株価指数も同じく8月7日に終値ベースで初めて2,480ポイントを記録しました。8年もの長期にわたって上昇が続く米国株については以前から割高感が指摘されており、最近では「いつ下げ基調に転じるか」という不安を抱えながら購入する投資家も増えている模様です。

米国株以上にバブルの警戒が高まっているのが、米国ハイ・イールド債(信用力が低い代わりに利回りが高い債券)です。米国ハイ・イールド債と米国債の利回り差は、08年のリーマン・ショック後に平均17ポイントまで広がっていましたが、現状では同3.5ポイント程度まで縮小しています。投資家はもともとリスクが高いと分かっている債券を、以前よりも期待リターンが相当に低いのを覚悟で購入しているわけです。

このほか、米国債や米国REIT(不動産投資信託)もバブルが指摘されています。それらが本当にバブルかどうかはさておき、いずれにも共通するのは、08年以降に日米欧の中央銀行が金融緩和を拡大するなかで上昇相場が長く続いてきたということ。一般論としては、相場上昇の何割かの部分は金融緩和による世界的なカネ余りと投資家の利回り追求がもたらしたものと考えるのが妥当でしょう。

ここにきて米欧が金融緩和の縮小へ動き始めたことに加えて、米国の景気拡大期が終盤にさしかかったとの見方もあり、近い将来にいずれの相場も調整局面に入る、すなわちバブルがはじけるのではないかと懸念されているわけです。米国で各種の資産価格が下落に転じた場合、日本の株式や債券にも影響が及ぶことはまず避けられません。専門家の間では世界的な相場の転機に備えるために、今のうちから現金の比率を高めて保有資産全体のリスクを抑制したり、相対的にリスクの低い資産に投資マネーをシフトさせるべきといった声が多く聞かれます。

リスク管理といいながら相場転がしに走る投資家たち

振り返るとリーマン・ショック以降、投資の世界では時々の経済環境に合わせてリスクのオン・オフを機敏に切り替え、必要以上のリスクを回避あるいは管理しながら少しでも高いリターンを狙うという投資スタイルが主流を占めるようになりました。しかしながら実情は、本来的な意味でのリスク管理とはほど遠いものになっています。

多くの投資家が実践しているのは、リスクオン時には「これから上昇しそうな投資対象となる相場探し」に奔走し、リスクオフ時にはそこから一時的に資金を引き上げる、その繰り返しにすぎないのではないでしょうか。米国で株式などのリスク資産とともに国債(安全資産)でもバブルが指摘されているのは、米国市場がリスクオン・オフ双方の資金について受け皿になっているからと見ることもできます。

世界的にいわゆるパッシブ運用が隆盛を誇るようになったのも、悪くいえば「相場転がし」のような投資が増えた結果と考えれば、なるほど合点がいきます。パッシブ運用の対象となる各種のインデックス(指数)は市場平均を表し、ある意味で相場そのものに他なりません。投信やETF(上場投資信託)が多種多様なインデックスを扱うようになったおかげで、投資家は低コストで世界中のさまざまな相場を物色することが可能になったわけです。

このような投資では売買のタイミングによって成否が大きく左右され、各相場の上昇・下落を通じて勝者と敗者が比較的はっきりと分かれやすくなります。FX(外国為替証拠金取引)と同様に、限りなくギャンブル(投機)に近い投資のあり方といえるでしょう。最近では割高な資産から割安な資産へ投資マネーをシフトする手段として、アクティブ運用に改めて注目する専門家も見かけますが、これから上昇しそうな相場や銘柄を物色するという意味合いが強いのならば、こちらもやはり相場転がしと大差ないような気がします。

むしろアクティブ運用の本分は、前回紹介したような個別企業を対象とした財務分析と、それに基づく中長期の経営予測にあると思うのですが、それを非効率と考えて徹底しないアクティブ投資家が増えているのだとしたら、何とも残念なことです。コスト分だけパッシブ運用に負けやすいなどと嘆く前に、世界的な相場の転機にこそ本領を発揮してほしいところですが、もはや無理な注文なのでしょうか。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。