ROEの推移は結果論でしか語れない
あなたがこれから10年、20年といった長期で個別株に投資する場合、その企業に何を求めるでしょうか。投資家の立場で素直に考えると、自分が株式を売却するときまでに、できるだけ高い株価を実現してキャピタルゲイン(売買益)を増やし、できるだけ多くの配当を払ってほしいというのが本音だと思います。
こうした投資家にとってのリターンは、基本的に企業が稼ぎ出す利益によってもたらされます。つまり、長期の株式投資においては、将来にわたって継続的に稼ぐ力がある企業を選ぶことが大きなポイントになるわけです。
機関投資家などプロの間では、株式投資によって得られるリターンの“源泉”はEPS(1株あたり利益)であるといわれています。EPSは企業の財務指標のひとつで、通常は【EPS=純利益÷発行済み株式数】という計算式で求めますが、【EPS=BPS(1株あたり純資産)×ROE(自己資本利益率)】という式で表すことも可能です。
この式が意味しているのは、企業が投資家から預かった自己資本(BPS)をいわば活用し、そこから生み出される利益がEPSであるということです。理論的にはROEが向上すればするほど、企業のEPSすなわち投資家にとってのリターンの源泉を生み出す力が大きくなると考えられます。
ROEが向上すると、投資家にもたらされる“実際のリターン”も大きくなるのでしょうか。現在の日経平均株価に採用されている225銘柄のうち、1986年8月から継続して有効なデータのある177銘柄を対象に、今年(2013年)8月までの過去27年間にわたって平均ROEと株価騰落率を比較したところ、両者には明確な相関性があることが分かりました。例えば、平均ROEが5%未満だった21社では株価騰落率の平均値がマイナス28%、平均ROEが9%台だった11社では同平均値がプラス184%といった具合です。
一見すると、ROEが高い企業さえ選んでおけば、長期的に十分な投資成果が期待できるように感じられますが、ことはそう簡単ではありません。前述した分析データの平均ROEはあくまでも「結果論」であり、私たちが実際に株式を購入する時点では、その企業の将来的なROEが分からないからです。2~3年後ならいざ知らず、この先10~20年にわたってROEの推移を予測することなど、プロの投資家でもまず不可能でしょう。
一般生活者の立場から企業の必要性を問う
企業が継続して稼ぐ力について、もっとシンプルに捉える方法もあります。例えば、過去に10回以上継続して配当総額を増やしてきたような「連続増配企業」には、その裏付けとして高い利益創出力や成長性があると考えられます。実際にこうした企業では配当が多いことはもちろん、長期的な株価騰落率も堅調な銘柄が目立ちます。
配当総額が多い銘柄では、たとえ株価が下がっていても、株価騰落率に配当総額を加味したトータルリターン(投資収益率)で見るとプラスというケースもあります。今後いつまでも増配が続くという保証はありませんが、長期で安定したリターンを期待する投資家にとっては、ひとつの選択肢として検討に値するのではないでしょうか。
まったく異なるアプローチもあります。それはいわば、投資家ではなく一般生活者としての立場から企業を眺め、世の中に必要と考えられる企業に投資するという方法です。そもそも企業の存在意義とは、人々が望む(喜ぶ)商品やサービスを提供することであり、利益はその結果にすぎません。それならば、利益水準や成長性の高さだけではなく、事業内容や企業理念などに着目して長期投資を行うことも、あながち的外れではないことになります。
一部の日本株投信では、「なくなったら困る企業に長期投資する」ことを運用方針のひとつとして掲げています。以前紹介したように、環境・社会・企業統治という3つの切り口を考慮して投資銘柄を選ぶ「ESG投資」も機関投資家の間で広がってきました。
そうした例も参考に、自分がサポーターとして応援したい企業を選び、長期で支えていくような投資のあり方が、もっと増えてもいいような気がします。商品やサービスの身近さや技術力の高さ、社会的役割の大きさなど、目の付けどころはいろいろあります。私たち一人ひとりの眼力が純粋に問われるという点で、これこそ個人投資家ならではの投資スタンスといえるかもしれません。