株主にとっての利回りのようなもの
ROE(Return On Equity=自己資本利益率)は、株主が出資した資本に対して、企業が一定期間にどれだけの利益を上げているかを示す指標で、以下のような計算式によって算出されます。
●ROE(単位:%)=当期純利益÷自己資本額×100
あるいは
1株あたり純利益(EPS)÷1株あたり自己資本(BPS)×100
(EPS=予想連結純利益÷発行済み株式数)
(BPS=自己資本÷発行済み株式数)
自己資本額とは簡単に言えば、企業の総資産から負債を引いた金額のことです。これは株主が最初に出資した金額と、企業がその後、社内に蓄えた利益を合計した金額であり、株主が企業に預けた(託した)資産の総計にあたります。ROEは、その株主資産がどれだけ多くの利益を生み出すことができるか、すなわち株主資産がどれほど高い成長力をもつかを表すものであり、いわば株主にとっての利回りのようなものと考えることができます。
例えば、ある企業において1株あたり自己資本が1万円で、1株あたり純利益の30%を配当に回す(内部留保率70%)方針だとしましょう。いまROEが10%だとすると、これは自己資本の10%の利益を生み出せることを意味するので、1株あたり純利益は1万円の10%にあたる1,000円です。そこから300円の配当を引いた700円が内部留保として残り、次の年には最初の1万円にその700円を加えた10,700円が1株あたり自己資本となります。このようにして、1株あたりの自己資本と純利益、配当金のいずれもが毎年7%ずつ増えていきます。
同じ企業でROEが20%に高まると、どうなるでしょうか。1株あたり純利益は1万円の20%にあたる2,000円、配当はその30%の600円、内部留保は1,400円なので、翌年の1株あたり自己資本は11,400円となります。ROEが2倍に高まると、自己資本や配当の成長率も2倍の毎年14%まで高まることになるわけです。
株価の動きには、その時どきの経済環境や投資家のさまざまな思惑がからむため、ROEが示す企業の利益成長力は、短期的には必ずしも株価に反映されるとは限りません。しかし長期的には、株価変動による値上がり益と配当収入を合わせた株式投資のトータルリターン(年率平均)が、ROEの年平均値に収束していくことが実証されています。こうしたことから、ROEはこれまで企業経営の効率性を測る物差しとしてはもちろん、株式投資における重要な投資指標としても用いられてきました。
株レバレッジ経営がROEを高める
一方で、ROEに関して注意しなければならない点もあります。実は、ROEを高めるための手っ取り早い方法が2つあるのです。ひとつは、余剰資金を配当や自社株買いに回すことにより、前述した計算式の分母にあたる自己資本額を減らすこと。もうひとつは、負債を膨らませて収益が出る新事業に投資したり、企業を買収するなどして、自己資本額を増やさずに利益だけを増やすことです。つまり、意図的に自己資本比率を低くすることで、ROEの数値を高めることができるわけです。
極端ですが、一例をあげてみましょう。いま総資産が1,000万円で負債が250万円、自己資本(純資産)が750万円の企業があるとします。自己資本比率は75%です。この企業が総資産をすべて使って単価10万円の商品を100個仕入れ、それを11万円で売って100万円の利益を上げたとすると、ROEは【100万円÷750万円×100=13.3%】となります。同じ企業が負債を1,000万円増やして1,250万円にすると、総資産は2,000万円で、自己資本比率は37.5%まで低下します。以前と同じように、総資産をすべて使って単価10万円の商品を200個仕入れ、それを11万円で売って200万円の利益を上げたとすると、ROEは【200万円÷750万円×100=26.7%】まで高まります。
外国人投資家や外資系投資ファンドからの要請もあって、ここ数年は日本企業のあいだでもこうした外部からの資金調達が多い、いわゆる「高レバレッジ(負債依存)経営」を、資本政策として積極的に採用する動きが広まりました。しかし、金融危機によって多くの企業が資金調達に苦しむ事態に陥るなか、レバレッジ経営を見直す気運が高まり、キャッシュ(手元資金)の重要性とともに、ROEの中身も改めて問われるようになってきました。
もちろん、売り上げが伸びるなかで大規模な投資も必要な急成長企業のように、外部からの資金調達がどうしても避けられない場合もあるでしょう。その企業では結果として、ROEが高くなる可能性もあります。そのようなケースを除くと、ROEについては今後、利益成長を軸とした資産効率の追求という本来の意味合いが、より強く意識されていくように思われます。「高ROE=良い経営」という企業の「ROE信仰」が薄れる半面、投資指標としてのROEの信憑性はかえって高まることになるのかもしれません。