1. いま聞きたいQ&A
Q

国債の増発は、日本経済にどのような影響を与えるでしょうか?(前編)

国債価格の下落が「悪い金利上昇」を招く

日本の国債増発、ひいては国の借金の増加について、将来的な影響を危惧する声が高まってきました。まずはその増加ぶりを、いくつか数字で確認してみましょう。

日本では2009年度の新規国債発行額が53兆4,550億円に達する見込みです。同年度の税収は38兆円を下回る見通しで、新規国債発行額が税収を上回るのは実に63年ぶりのぶりの出来事。同時に、歳入総額に占める国債発行額の割合(国債依存度)は初めて50%を超えることとなります。新規国債と借換債を合わせた国債の市中発行額は2002年度以降、毎年100兆円を超えており、2009年度も140兆円規模となりそうです。

2009年度末には、国と地方を合わせた長期債務残高が過去最大の825兆円に上ると見られています。これは対GDP(国内総生産)比で171%にあたり、主要国のなかでは断トツに高い数字です。IMF(国際通貨基金)では、この対GDP比が2014年にはさらに245.6%まで上昇すると予測しています。ちなみに、2001年末に国債のデフォルト(債務不履行)を宣言したアルゼンチンの公的債務残高は、当時の対GDP比で54%にすぎませんでした。

2009年12月25日に民主党政権が発表した2010年度予算案においても、税収見込みが37兆円程度なのに対して一般会計総額(支出総額)は92兆円超と、大幅な赤字です。新規国債発行額は44兆3,030億円に抑えたものの、それでも従来と同様に、財政が国債頼みであることに変わりはありません。

今後も国債の発行が増え続けると、やがて国債の需給バランスが崩れて、国債価格が下落(利回りは上昇)する可能性があります。その結果、長期金利が上昇し、企業の借り入れ金利や住宅ローン金利も上昇して、景気に悪影響を及ぼすことになります。財政が悪化するなかで金利が上昇する、いわゆる「悪い金利上昇」が起こると、国債の利払い費が増えて、さらに財政が悪化するという悪循環にも陥りかねません。

いずれは国内で国債を消化し切れなくなる?

借金まみれの状態でも、日本がこれまで経済破綻の憂き目に遭わずに済んだのは、国債の強力かつ安定的な買い手が存在したからです。日本では2008年末時点で、国債の93%を国内の金融機関や個人が消化(購入)しています。欧米の主要国では国債の海外投資家保有率が30~50%と高く、それらに比べると日本の借金はずいぶん意味合いが違うことが分かります。

日本の借金を「家計」に例えて考えてみましょう。お金のやりくりが下手で無駄づかいも多い母親が、毎年のように家計を赤字にしていますが、父親や子どもたちにはそれぞれ十分な稼ぎも貯蓄もあり、家計の赤字分を埋めています。つまり、母親(日本国)は家族(日本国民)からお金を借りているだけであり、他人(外国)から借金をしているわけではないのです。

実際に、日本は財政赤字が続いてはいるものの、いまだに経常黒字国です。米国や英国のように、財政赤字と経常赤字の「双子の赤字」に苦しんでいるわけではありません。さらに日本には1,400兆円と言われる個人金融資産が控えており、国債の消化余地はまだ大きいと考えられます。

ただ、ここにきて懸念材料も出てきました。日本の家計貯蓄率は1990年代初めの15%から、2000年に10%を割り込んで以降、ほぼ一貫して低下し、2008年には2.7%まで落ち込んでいます。これは稼ぎ手である現役世代が減ると同時に、預貯金を取り崩して生活資金に充てる高齢者が増えたためです。

少子高齢化の進行によって、例えばこの先、日本が経常赤字国に転落したり、個人金融資産の大幅な減少に見舞われるようなことがあった場合、国債の新たな買い手が必要になるかもしれません。候補としては外国人投資家や、日本銀行による購入が挙げられますが、いずれも金利上昇やインフレを招く要因になりかねず、あまり歓迎できるものではないでしょう。

要は国債という借金に依存した財政運営から早く脱却することが肝要なわけですが、これがまた一筋縄ではいかないのが、悩ましいところです。一方で、このままではハイパーインフレやキャピタルフライト(資産の国外逃避)さえも起こりかねない、といった見方もありますが、それも極論すぎるような気がしてなりません。次回も引き続き、国債や日本経済の将来について、もう少し違う角度から考えてみたいと思います。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。

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