欠損金とは?債務超過とはどう違うのですか?
企業の損失が利益を上回った場合、財務会計ではこれを赤字、税務会計では欠損金と呼んでいます。欠損金は次の年まで繰り越せますが、翌年以降も利益が出ずに貸借対照表の繰越欠損金が積み上がると、債務超過の状態に。債務超過になると銀行からの融資が受けづらい、上場廃止になるなどのデメリットが生じます。
今回は会計制度のご質問ですね。
欠損金(けっそんきん)とは税法上の用語で、「税務上の赤字」を指します。
企業会計には、株式市場でも普通に使われている「財務会計」と、法人税の計算の基礎となる「税務会計」のふたつの会計制度があります。「財務会計」は、その年度の企業の経営の内容を示すもので、株主や取引先、財務省、金融機関などの利害関係者に対して作成するものです。
これに対して「税務会計」は、文字通り企業が支払うべき法人税を計算するために作成するもので、計算の基礎になる利益や損失の取り扱いが「財務会計」とは微妙に異なっています。
両者の違いは、次の算式に端的に表われています。
「財務会計」:企業利益=収益-費用
「税務会計」:所得金額=益金-損金
「財務会計」では、通常、企業の利益は(収益-費用)で計算されます。これが「税務会計」になると、法人税の課税対象の基礎となる所得金額は(益金-損金)で計算され、収益は益金に、費用は損金に呼び名が変わります。「税務会計」は「財務会計」を基礎として作成されるため、益金の金額は収益の金額とさほど変わらず、損金も費用とほとんど同じなのですが、そこにはわずかですが違いが生じてきます。
一例をあげれば、A社がB社から配当を受け取った場合、「財務会計」では収益になりますが、「税務会計」では益金になりません(これを「受取配当金の益金不算入」といいます)。損金も同様で、たとえば企業が保有する資産に評価損が発生した場合、「財務会計」では費用になりますが、「税務会計」では損金になりません(これを「資産の評価損の損金不算入」といいます)。その結果、財務会計上の利益と税法上の所得金額には差額が生じてきます。
このようなふたつの会計制度が作成されていることを前提とした上で、企業の損失が利益を上回った場合、「財務会計」ではこれを一般に赤字(あかじ)と呼び、「税務会計」では欠損金(けっそんきん)と呼んでいます。赤字の金額と欠損金の金額は必ずしも同じ額にはなりません。
「税務会計」上、企業がある年に欠損金を出した場合、その欠損金は次の期に持ち越すことができます。そして翌年以降、7年間にわたって毎年の益金と相殺して納税することが認められます(この制度が適用されるには、青色申告書を提出するなど適切な会計帳簿を作成している企業だけに限られます)。
ある年に▲4000万円の欠損金を出した企業があるとします。この企業は翌年以降に▲4000万円の欠損金を繰り越すことができるため、次の年に3000万円の利益を出しても法人税はゼロです(3000万円-4000万円=▲1000万円、所得金額はマイナスなので法人税はゼロ)。そのまた次の年に3000万円の利益を出した時、繰り越した欠損金(繰越欠損金、または繰越損失)の▲1000万円を差し引いた2000万円に対して法人税がかかります。
繰り越した欠損金は、翌年の貸借対照表に計上されます。欠損金を出した年がその年の1年だけで、翌年の利益ですぐに解消できればいいのですが、赤字が何年も続くようだと貸借対照表の繰越欠損金(繰越損失)の額はどんどん積み上がってゆきます。ある年に▲4000万円の欠損金を出した企業が、次の年も続けて▲2000万円の欠損金を出した場合、繰越損失は(▲4000万円+▲2000万円=▲6000万円)に膨らみます。
そして繰り越した欠損金が何年間も積み上がってゆくと(つまり何年間も続けて赤字を出していると)、いつかは繰越損失の総額が、資本金と法定準備金の合計額を上回ってしまうことになります。この状態を「債務超過」と呼びます。
貸借対照表で見れば、このケースでは資産よりも負債のほうが多い状態になっており、まさに債務が資産を超過しているわけです。株主の持ち分である純資産(株主資本)はマイナスに転落し、株主の価値はゼロ以下になってしまいます。企業の財務内容は完全に不安定な状態になり、こうなると企業の存続そのものが危うくなります。
このような状態では銀行からの融資は受けにくくなります。まともな取引先は相手にしてくれません。東京証券取引所の基準では、債務超過の状態が2年間続くと上場廃止になってしまうため、株式市場でも投資対象とは認められなくなります。企業の先行きは非常に暗いものになります。その企業は、スポンサーを探して第三者割当増資などを行い資本勘定を厚くするか、減資を行って債務超過の状態から脱出しなければなりません。何よりも、赤字を出し続けている本業部分の立て直しを急がなければならないのは言うまでもありません。