Q.「地政学リスク」とは? 日本や世界にどんな影響をもたらすのか
【この記事でわかること】
- 「地政学リスク」とは何か――紛争などが世界経済に広がる理由
- 原油高が私たちの生活に与える影響
- 為替や株価はどう動く?
米国・イスラエルとイランの軍事衝突は、経済的インパクトの大きさからみて、地政学リスクの典型例と言うことができます。具体的にどのような影響が日本や世界にもたらすのか、「社会」と「金融」という2つの側面から検証してみます。
経済のグローバル化が進むなか、影響が瞬時に広がる
世界の特定の地域で紛争やテロなどが発生し、政治的・社会的な緊張が高まることで、当該地域はもちろん、他の地域にも経済的な影響が及ぶリスクを「地政学リスク」と呼びます。
経済のグローバル化が進む今日では、地政学リスクはより大きくなりやすくなっています。経済・産業活動が国境を越えて活発化し、国同士の経済的な結びつきが強まるなか、それが紛争などによって分断されると、影響が瞬時に広がっていくからです。
今年(2026年)2月28日には、米国とイスラエルがイランを攻撃して軍事衝突に発展しました。イランも報復措置として中東諸国にある米軍施設などを攻撃したほか、ホルムズ海峡の事実上の封鎖にも踏み切っています。
ホルムズ海峡は中東から原油を海上輸送する際の要衝です。そこが封鎖されれば、世界への原油供給は大幅に制限されます。
国際的な原油価格の指標である米国の「WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)原油先物」は、今年2月下旬の1バレル当たり65ドル程度から、3月9日には一時119ドル台まで急騰しました。
社会への影響:ホルムズ海峡の封鎖が食料危機に発展する恐れも
日本は原油輸入量の約95%を中東諸国に依存しています。その大半がホルムズ海峡を経由するため、封鎖の影響を特に大きく受ける国のひとつです。もともと円安によって輸入品価格は上昇傾向にありましたが、そこに原油そのものの価格上昇も加わって、いわばダブルパンチを食らった格好です。
原油を精製する過程では、ガソリンや航空燃料をはじめ、プラスチックや塗料の原料となるナフサ(粗製ガソリン)など、数多くの重要な石油製品がつくられます。
日本政府は原油高に対応して、レギュラーガソリンの店頭価格を1リットル170円程度に抑えるため、今年3月中旬から石油元売り会社に「ガソリン補助金」の支給を始めました。
ナフサの供給不安を受けて、国内ではナフサを用いる食品包装などの値上げが相次いでいます。塗装用シンナーの調達が難しくなるなど、ナフサ由来の一部の素材については不足感が強まっています。
欧州では深刻な航空燃料不足から、大手航空会社の間で欠航や減便が目立ち始めました。東南アジアではフィリピンが一部の政府機関に週4日勤務を要請するなど、国民に石油節約を促す動きが相次いでいます。
食料危機への懸念も高まってきました。食料生産に欠かせない尿素やアンモニアなどの肥料は、輸出量の約3分の1を中東諸国が占めています。世界食糧計画(WFP)では軍事衝突が長引いた場合、世界で新たに4500万人が食料不足に陥る恐れがあると分析しています。
金融への影響:トランプ米大統領の発言に翻弄される株式市場
日本が原油を輸入するにあたっては、代金として支払うドルを調達するために円を売る必要があります。それによってさらに円安が進むという悪循環も危惧されます。
実際に、今年4月30日には一時1ドル160円台後半まで円安・ドル高が進みました。政府と日銀は過度な円安進行を抑えるため、2024年7月以来となる大規模な「円買い・ドル売り」の為替介入を行っています。
原油高は日本企業のコスト増や国内景気の減速につながるため、日本株にとっては基本的にマイナス要因と考えられます。ただし、日経平均株価は今年3月に過去最大の月間下落幅を記録したものの、4月は逆に過去最大の月間上昇幅を記録。同月27日には終値で初の6万円台に乗せました。
トランプ米大統領の発言によって原油相場が大きく上下しています。それに合わせて日本や米国の株式相場も乱高下を繰り返しているのが実情です。
米国とイランは戦闘終結に向けた交渉を進めていますが、その着地点が明確になるまで、株式市場ではボラティリティ(変動率)の高い状態が続くかもしれません。(チームENGINE 代表・小島淳)