1. いま聞きたいQ&A
Q

現在進んでいる円安について、どのように考えればいいですか?(後編)

「悪い円安」という見方には慎重論も

円安はさらに加速しています。今年(2022年)4月28日には、円・ドル為替レートが20年ぶりに1ドル131円台を記録しました。そんななか、市場関係者の間では円安が日本経済にもたらすメリットが薄れる一方で、反対にデメリットが目立つようになったという指摘が多く聞かれます。

ただし、結局は私たちがどのような経済的視点に重きを置くかによって、円安への評価は変わっくるのではないでしょうか

かつては円安が日本経済にとってプラスに働くというのが定説でした。円安が進むと、輸出企業が外貨で得た代金を円に交換する際に、より多くの円を手にすることができます。その分だけ自社製品を値下げして、輸出を伸ばすことも可能だったため、国際競争力の強化につながったのです。最近は日本企業が生産拠点を海外に移すケースが増えたことで、輸出という側面からみた円安メリットは確かに小さくなってきています。

海外旅行などで日本を訪れる外国人にとって、円安は両替所で外貨を交換する際に得られる円が増えることを意味します。すなわち円安になると、いわゆるインバウンド(訪日外国人)需要の増加が見込めるわけですが、新型コロナウイルス禍で訪日外国人が激減した今日では、そうした効果も期待できません。

一方、円安のデメリットとして代表的なのが輸入価格の上昇です。日本では現在、エネルギーや原材料の価格高騰に円安が重なって国内物価の上昇に拍車がかかり、家計にとっても企業にとっても負担が増えつつあります。

政府は4月26日の関係閣僚会議において、石油元売りへの補助金拡充や生活困窮者への現金給付を柱とする物価上昇対策を決定しました。鈴木俊一財務相は、日本企業が原材料費の高騰を製品の販売価格に転嫁できていないことや、賃上げが不十分であることを指摘したうえで、為替の現状について「良い円安とはいえない」との見解を示しています。

専門家のなかには、こうした「悪い円安」という見方に慎重論を唱える人もいます。例えば、コロナ禍以前に増加していたインバウンド需要は、一定の円買い要因(円高要因)にもなっていました。それがコロナ禍によって一気に消失したわけで、その影響を加味せずに今回の円安が日本経済に悪影響を及ぼすレベルと断じるのは早計すぎるという意見です。

円安には、外貨建ての資産価値を押し上げる効果もあります。国家の盛衰を表すとされる国際収支発展段階説に照らし合わせると、貿易赤字が常態化しつつある日本の現状は「未成熟の債権国」から、「成熟した債権国」に移行したと見ることができます

成熟した債権国には、海外からの利子や配当で貿易赤字を賄って経常黒字を保つという特徴があるので、円安によって外貨建ての資産価値が高まることはプラスに働くとも考えられます。

日銀が4月1日に発表した全国企業短期経済観測調査(短観)によると、日本企業が想定する22年度の円相場は「1ドル=111円93銭」でした。そこから現状では20円程度も円安が進んでおり、外需型の製造業などを中心に、日本企業は輸出増と外貨建て資産の価値向上で利益が増加するとの見方が多くなっています。企業の業績面でみる限り、円安メリットを享受するケースも決して少なくないことが分かります。

矛盾に満ちた国と当局の物価高対策

20年前の02年4月に円・ドル為替レートが1ドル133円台を付けた際には、日本経済はモノやサービスの価格が継続して下落するデフレの真っただ中にありました。今回の円安局面が当時と異なる点は、言うまでもなく、現在の日本でインフレ傾向が強まっていることです。その違いに焦点を当てるならば、私たち日本人がいま危惧すべきなのは「悪い円安」というよりも、むしろ円安によって増幅される「悪い物価高」なのかもしれません

ひとつ判然としないのは、その物価高に関する国と当局の対応です。政府が物価上昇対策を打ち出す一方で、日銀はこれまで断続的に繰り返してきた「指し値オペ」を今後は毎営業日、実施することを決定しました。日銀はいわば強力な金融緩和を維持しながら、物価を上げようとしていることになります。これは日米金利差の拡大を通じて円安要因となるし、そもそも政府との間で政策の整合性が取れていません。

今夏に参院選を控えるなか、自民党の安倍晋三元首相は自派の会合でこんな発言をしています。「緩和策を継続しないと日本経済を悪化させかねない。円安が進んでいるからといって(その是正に)金融政策を使うことは間違っている」。

単純に選挙を意識した景気対策なのか、それとも金利が上昇すると本当に国家財政がもたなくなるのか、真偽のほどは定かではありません。とにかく政府や自民党としても、当面は金融緩和を維持することが既定路線となっているもようです。

国は日銀に金融緩和を続けさせることで、例えば低い金利で新たに国債を発行して、それを物価上昇対策の補助金にまわすことが可能になります。その半面、金融緩和によって円安が進めば物価高も進んで、また次の物価上昇対策を迫られることになるわけです。何とも矛盾に満ちた場当たり的な対応といわざるを得ません。

物価高への対応としては本来、内需型企業による価格転嫁の促進や、家計がそれを吸収できるだけの十分な賃上げ、エネルギー資源の利用効率化、さらには「利上げ耐性」をつけるための歳出削減と財政再建など、日本経済の構造改革が求められるはずです。どうやら今回もそうした抜本的な対策は棚上げされそうですが、いったい円安がどこまで進めば、この国の重い腰は上がるのでしょうか。取り返しがつかなくなってからではないことを祈るばかりです。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。

目次へ戻る