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いま聞きたいQ&A

「グロース株」と「バリュー株」について、それぞれの意味と投資上の注意点を教えてください。(後編)

「K字型相場」に変化の兆しが表れた

2020年は東証1部市場に上場する約2200銘柄のうち、約15%に当たる328銘柄が上場来高値を更新しました。一方で、約12%に当たる269銘柄が上場来安値を記録するなど、銘柄間で株価の格差は大きく広がる結果となっています。

こうした株価の二極化は、アルファベットの形になぞらえて「K字型相場」と呼ばれています。K字型相場の内訳を大まかにまとめると、株価が上昇したのはコロナ禍で進んだデジタル化や低金利を追い風とするグロース株が中心です。反対に株価が下落したのはコロナ禍による世界的な景気停滞が逆風となる「景気敏感株」が中心で、その多くはバリュー株と見なすことができます

日経平均株価に採用されている225銘柄について予想PER(株価収益率)の平均値を見ると、20年末時点で25.45倍と過去に一般的だった16倍程度を大きく上回っています。日経平均株価にはIT(情報技術)やハイテク関連などのグロース株が数多く採用されており、このところのグロース株人気によってPERが切り上がった格好です。

もう一つの株価指標であるPBR(株価純資産倍率)を見ると、日本株全体では20年末時点で平均値が1倍を超えていますが、東証1部市場では1倍割れの銘柄が48%と、1年前(44%)より増えたことが分かります。グロース株人気の陰で、バリュー株も確実に増えているわけです。

今年(21年)に入って、K字型相場に変化の兆しが表れました。きっかけは米国の長期金利が1.1%台まで上昇してきたこと。投資家の間で本格的な景気回復とコロナ禍からの経済正常化が意識されるようになり、投資対象として景気敏感株の魅力が高まりつつあります

金利の上昇はPERの評価にも影響を及ぼします。「株式益回り」(1株当たり利益÷株価)は、企業の1株当たり利益が株価の何%を稼ぎ出すかを示すもので、いわば株価から見た株式の利回りに相当します。PERの逆数として表され、債券の利回りなどと比較することによって、株式銘柄の投資魅力を測るのに役立ちます。

ある銘柄のPERが20倍なら益回りは5%(1÷20=0.05)、PERが100倍なら益回りは1%(1÷100=0.01)という具合に、PERが高くなるほど益回りは低くなる関係にあります。例えば長期金利が0.5%の時には、益回り1%の方が利回りとして見れば十分に高いため、PERが100倍の割高な銘柄でも投資魅力は高いと評価することができます。しかし、長期金利が1%を超えると債券の投資魅力が上回ってくるため、PERが100倍以上といった株式の割高さは正当化されにくくなります。

このような投資環境の変化を背景に現在、日米ともにIT・ハイテク関連などのグロース株から、一部の製造業や金融業など株価評価の低かったバリュー株へと資金を振り向ける動きが強まっているのです。

ROEの水準が投資上のヒントになる

とはいうものの、グロース株なら何でも「売り」、バリュー株なら何でも「買い」といった単純な相場になることは考えづらいのが現実です。今後のさらなる成長性が担保できるならば、PERやPBRが高くてもなお株価の上昇余地は残るだろうし、PBRが1倍を割り込むような銘柄でも、割安に放置されるだけの確たる理由があるのなら今後も株価上昇は期待薄でしょう。

市場関係者の意見を総合すると、投資対象としてグロース株とバリュー株のいずれかを考える場合でも、企業がどれだけ効率的に利益を上げたかを示すROE(自己資本利益率)の水準が一つのヒントになるようです。

グロース株については単にROEが高いだけでなく、高ROEの持続性に着目します。例えば日経平均採用銘柄のうち過去5年間の平均ROEが10%以上で、なおかつ今期の予想ROEがその過去5年平均を上回る銘柄を集めて指数化すると、15年末~20年末の株価騰落率は+250%超と、日経平均株価(+144%)を大きく上回っています。これは利益率や競争力の高さを維持しながら安定成長を続ける企業の「地力」が、高ROEの持続性にこそ反映されているのだと、市場が評価していることの表れかもしれません。

日本のバリュー株については「利益の質」が悪い銘柄が多く、いくら株価が安くても投資家の食指が動きにくいという指摘があります。特にROEが低いと、業績が改善してもPBRが上向かない傾向が強く、JPモルガン証券の調査などから分水嶺はROE8%といわれています。こうした見立てに従うならば、PBRが1倍を割れているバリュー株のなかでもROEが8%以上ある銘柄は、今後の景気回復局面で株価の見直し余地が相対的に大きいと考えられます

過去に紹介したように、ROEは財務テクニックを駆使して「意図的につくる」ことも可能なため、全面的にアテにできるとは言い切れません。ROEが高くても低くても、できる限りその理由を検証するとともに、自己資本比率で財務の健全性を確認するなど、より多角的な視点から銘柄にアプローチすることが望まれます。

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