日本の不動産をめぐる投資動向と今後の注意点を教えてください
日本のREITは債券に近い性質を持つ
日銀が導入したマイナス金利政策のもと、これまで投資家が資産運用を考える際の柱だった国債の利回りは、40年物でも今年(2016年)10月13日現在で0.5%台と低水準にあります。そんな運用難の環境が続くなか、地方銀行や年金基金などの機関投資家から株高で保有資産を膨らませた個人富裕層まで、多くの投資家が債券の代替投資先としていっせいに国内の不動産に群がりました。
一部の物件では実需とかけ離れたレベルの価格高騰が進み、バブルを警戒する声も高まってきています。不動産サービス大手のCBREによると、REIT(不動産投資信託)における東京都心のオフィスビルの運用利回りは今年7月時点で3.65%となり、03年の調査開始以来、最低値を記録しました。運用利回りの低下は、再びくすぶり始めたデフレ懸念によって賃料の値上がり期待が薄いにもかかわらず、長期金利より3%以上も高い分配金利回りを求めて投資マネーが押し寄せ、オフィスビルの取得価格が割高になった結果です。
そもそも不動産には、価格が実需からかい離しやすい性質が備わっています。不動産を「利回り商品」という観点からみた場合、年間に500万円稼げる商業施設を1億円で購入すると、年率5%の利回りが得られます。しかし、買い手が「利回りは年率1%もあれば十分」と割り切った場合には、購入価格は5億円までつり上がる余地が生まれてきます。すなわち、不動産には過去の取引事例やその時々の市況から導かれる相場価格はあるものの、さまざまな事情や思惑から実際の取引が必ずしも相場どおりに行われるとは限らないわけです。
上場REIT全体の値動きを示す東証REIT指数は、10月12日に1783.77ポイントと3カ月半ぶりの安値をつけました。REITは金利が上昇すると物件購入資金の借り入れコストが膨らんで、収益が圧迫されやすくなります。9月に日銀が金融政策方針を変更したため、今後の金利上昇が意識されやすくなり、海外投資家などを中心にREITからの資金流出が進んだとみられます。
しかしながら、REITの投資家にとって金利上昇が即リスクになるかというと、あながちそうとも言い切れません。米国などに比べて経済成長やインフレが見込みづらい日本では、REITは値上がり益を狙うよりも利回り商品としての意味合いが本来的に大きいのが実情です。つまりは債券に性質が非常に近いわけで、長期金利が今後ある程度の水準に上昇するまでは、分配金利回りと投資口価格を踏まえたトータルリターンが大きく毀損しない限り、債券の代替商品として投資し続ける価値は残るとも考えられます。
相続税対策がもたらした高額マンションと賃貸住宅の急増
一方で、現在の日本ではこうした利回り重視とは異なる形の不動産取得も広がっています。不動産経済研究所の集計によると、今年1月~6月に発売されたマンションの平均販売価格は首都圏が5,686万円、近畿圏が3,810万円で、それぞれ1991年、93年以来の高水準を記録しました。特に首都圏では1億円以上のマンション(億ション)が700戸を超え、前年同期比50%増となっています。
賃貸住宅の分野では、空き家が増え続けているにもかかわらず貸家の建設が増えるという奇妙な現象が進行中です。国土交通省のデータによると、貸家の着工戸数は15年に前年比で4.6%増加し、今年も6月までの累計で前年同期比8.7%の増加となりました。しかしながら、すでに全国には820万戸の空き家があり、その半分強を賃貸住宅が占めています。
マンション価格の高騰も賃貸住宅の急増も、背景には同じ要因があります。15年1月に施行された税制改正により、現金や預金よりも不動産の方が相続税を課す際の評価額が低くなり、不動産を賃貸に回すとさらに下がる仕組みとなりました。こうした点に着目し、富裕層が投資と節税の目的を兼ねて高層タワーなどの億ションの購入に走ったほか、団塊世代の資産家などを中心にアパート経営に乗り出す人が増えたのです。
それを後押ししたのが銀行や信用金庫などの金融機関です。融資先を増やしたい金融機関では、一般的な住宅ローンに比べて貸出金利を高めに設定しやすいアパート建設向け融資に力を入れています。銀行が投資用マンションの購入者に対する審査基準を緩めてまで、購入資金の融資に応じるケースも増えている模様です。
高額マンションや賃貸アパートの取得者にとって、将来的な金利上昇が及ぼす影響については読み切れないところがあります。金利上昇が景気回復にともなう経済成長やインフレ進行によるものならば、物件の値上がりや賃料上昇につながるため、プラスの効果が期待できます。反対に信用リスクの高まりなどによって金利が上昇した場合には、物件の値下がりや賃料の下落が予想されるほか、借入金の金利負担増というマイナス効果がのしかかってくる恐れもあります。
彼らは主に相続税対策を念頭に置いているはずなので、中途売却という決断もそう簡単にはいかないでしょう。いずれにしても、純粋な代替投資とは違う目的で不動産を取得した人たちにとっては、金利上昇の要因が投資成果を大きく左右することになりそうです。