市場価格は年初から3カ月で53%も急上昇
REIT(不動産投資信託)を取り上げるのは久しぶりなので、まずはその商品性や特徴について簡単におさらいしておきます。
REITは、不動産投資法人が投資家から集めた資金でオフィスビルやマンション、商業施設など複数の不動産を購入・運用し、賃料収入や物件の売却益を投資家に「分配金」として配分する仕組みです。REITを株式に例えると、株価にあたるのが「投資口価格」、配当金にあたるのが分配金です。株式投資の場合と同じく、私たちはREITへの投資を通じて、投資口価格の上昇による売買差益(キャピタルゲイン)と分配金(インカムゲイン)の両方を期待することができます。
大きな特徴は、一般にREITの分配金利回り(年間の1口あたり分配額÷投資口価格)が株式の配当利回り(年間の1株あたり配当額÷株価)より高くなること。REITには管理費用などの経費を除いた収益の9割超を分配すれば、法人税が課税されないという制度上の特典が認められています。そのためREITでは通常、半年ごとの決算において収益の大半が分配金に回されるため、分配金利回りが高くなりやすいのです。
わが国では今年(2013年)2月末時点で、東京証券取引所に39銘柄のREITが上場しています。それら全体の値動きを示す東証REIT指数は、今年3月27日の終値で1700.91となりました。2011年末の834.36から2012年末の1114.68まで、昨年1年間で約34%上昇し、そこからさらに3カ月ほどで約53%も上昇したことになります。2007年5月の史上最高値2612.98には及びませんが、2008年9月のリーマン・ショック以降、低迷を続けていたREIT相場はここにきて急上昇に転じています。
きっかけとなったのは、需給関係の改善です。不動産がミニバブルの様相を呈していた2007年にかけて、東京都心部を中心に多くの新規オフィスビルが着工しましたが、それらは2011~12年に相次いで竣工(完成)することとなったため、オフィスビルの供給過剰が懸念されました。いわゆる「オフィス2012年問題」です。その大量供給が一巡し、下落基調が続いていたオフィス稼動率に底入れ感が広がったうえに、東日本大震災を契機に、BCP(事業継続計画)に対応したオフィスの移転ニーズが高まったことも要因です。
アベノミクスによる心理的な効果も加わりました。安倍政権が政策を総動員して目指す脱デフレは、不動産価格およびオフィスなどの賃料相場の将来的な上昇を連想させます。日銀が量的金融緩和の一環として市場からのREIT買い入れを継続しそうなことも、投資家の安心感につながっています。
REITの買い手として特に目立つのが銀行です。企業融資が伸び悩むなか、地方銀行を中心に金融緩和でダブついた余剰資金の一部をREITに振り向けている模様です。複数のREITに投資する投資信託を通じて、個人投資家からの資金流入も加速しています。円安によって海外からみた日本の不動産価格に割安感が出てきたことから、海外投資家によるREIT購入も増えてきました。
収益成長を通じて利回り面での投資妙味を保てるか
一方で、REITの分配金利回りは低下傾向にあります。東証に上場しているREIT全銘柄の平均分配金利回りは、昨年初めの6%台から、最近では3%台半ばまで低下しています。株式の配当利回りと同様に、REITでも分配金の水準が変わらなければ、投資口価格が上昇すると分配金利回りは低下します。今年3月27日の時点で、東証1部上場株式の平均配当利回りは1.83%、新発10年国債利回りは0.515%です。これらに比べればREITの分配金利回りはまだ高いものの、利回り面での投資妙味は以前よりも薄れてきたことになります。
あまりに急激な価格上昇を受けて、REIT相場の過熱感を指摘する声も増えつつあります。投資口価格が上昇しても、賃料収入の増加などによって分配金の水準も同時に上がれば、分配金利回りの低下に歯止めがかかり、REITの相対的な投資魅力は保たれます。
今後はこうした観点から、分配金利回りに対する投資家の目が厳しくなってくると予想されます。実体経済が上向いてオフィス賃料が上昇に転じたり、個別のREITが既存の保有物件より高い利回りの物件を開拓・購入するなど、さらなる収益成長による分配金の上積みが実現しないと、REIT相場は早晩、調整局面を迎えることになりそうです。
ただし、私たち個人投資家が長期分散投資の観点からREITを活用する場合、相場の動向を必要以上に気にする必要はないかもしれません。ある投資助言会社が世界最大のREIT市場を誇る米国で過去のデータを調べたところ、REITの長期的な総合収益(売買差益+分配金)のうち、分配金が寄与した割合が64%を占めていました。REITにおいては、いわゆる配当効果が意外なほど大きいのです。
こうした専門家の分析によると、REITには長期保有することによってリターン(総合収益)の変動率が株式より低くなりやすく、リターンの水準が債券より高くなりやすい特性があるそうです。投資口価格の動きに一喜一憂するのではなく、時期をずらして少しずつ購入しながら、長期的な分配金の蓄積効果に期待するというのが、REIT投資の好ましいスタンスではないでしょうか。