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いま聞きたいQ&A

低利回り・運用難の時代に、私たち個人投資家は何を考えればいいのでしょうか?

個人の資産運用は本来、自由度の高いもの

世界の金融市場ではこのところ、投資家が期待できる運用利回りが低い状態が続いています。日本では今年(2016年)5月27日に、トヨタ自動車の10年物と20年物の社債について発行条件が決まりましたが、利回りは10年債が0.09%、20年債が0.343%と、いずれも民間企業として過去最低値を更新しました。今年1月~5月に発行が決まった日本企業の期間10年超の社債全体をみても、発行額で加重平均した利回りが0.44%と5年前の約半分に低下しています。

JPモルガン・アセット・マネジメントによると、国債や公社債など世界の債券において利回りが5%以上のものが占める割合は、2000年の8割超から16年3月末には約6%と過去15年あまりで極端に低下しています。まさしく「運用難、極まれり」といったところですが、ひとつ注意しておきたいのは、それはあくまでも機関投資家にとっての話であるということ。私たち個人投資家にとっても本当に運用難かどうかはいま一度、じっくり考えてみる必要がありそうです

例えば銀行や保険会社では、預金者や契約者から集めたお金を効率的に運用することが業務上の主要な命題となっています。できる限りリスクを低く抑えながら、少しでも大きな運用益を確保するために、投資先として債券などの利回り商品を重視するのは当然のことでしょう。

投資信託やヘッジファンドなどの資産運用会社は、どのような相場環境にあっても顧客から預かった資金を増やすことを求められます。資金獲得競争が激しさを増すなかで、決算までに市場平均の騰落率や同業他社を上回る運用成績を上げる必要があり、相場の好不調にかかわらず収益を安定させるうえで利回り商品の役割は大きいといえます。

このように機関投資家は運用において常にシビアな数字が要求されるわけですが、一方で私たち個人投資家はそうした強迫観念とは本来的に無縁です。わざわざ無理をしてまで資産運用に励む必要や義務はないので、自分の好きな時に好きなだけの資金で投資を始めて、好きな時に投資をやめることができます。相場環境が自分に向かないと思えば、一時的に投資を休むことも自由です

もちろん預貯金の超低金利が続くなか、それほど高いリスクを負担せずに預貯金プラスアルファの利回りを追求したい気持ちは誰にでもあるし、その利回りが高いに越したことはありません。しかし、投資のプロでさえ運用難を嘆くような時代に、私たちが彼らと同様に細かい数字を追いかけたとして、そうそう上手くいくものでしょうか。

目先の数字より投資の中身に着目してみる

日本の個人投資家の間では現在、米国のREIT(不動産投資信託)に分散投資する投信が大きな人気を呼んでいます。このタイプの投信には年間の分配金総額を基準価額で割った「分配金利回り」が20%前後というものが多く、利回りという言葉だけに着目してみれば、その際立った大きさは非常に魅力的に映ります。

ところが、これらの投信には基準価額を大きく下げているものが目立つうえに、その投資先である米国REITの利回りは足元で4%程度にすぎません。すなわち20%前後という分配金利回りは、投信が過去に元本を取り崩しながら分配金を多めに支払ってきた結果と推測できるわけです。また、前出のJPモルガン・アセット・マネジメントが過去5年間のデータをもとに算出した米国REITのリスク(価格変動率)は、為替ヘッジを行わない場合で年18%となっています。これは米国の高配当株やハイ・イールド債よりも高い数字です。

分配金利回りの高さにひかれて、米国REIT投信を国債や債券投信の替わりのような感覚で購入した人もいるかもしれません。その場合、自分の意図したものとはかなり異なる種類の投資に手を出したことになります。

こうした勘違いの背景として、個人投資家の不勉強や金融知識の乏しさなどがよく指摘されます。しかしながら、ここではあえて違った観点から個人投資家に2つの問いを発してみたいと思います

まず、どうして「いま投資すべき」なのでしょうか。利回り水準が低すぎて投資環境が厳しいなら、たとえば1年でも2年でも様子を見ながら、しかるべき時機が訪れるのを待つという手もあります。年金生活を送る高齢者のなかには少しでも生活費の足しにしたいと投資を始める人も多いようですが、そうした目的であればなおさらのこと、焦って目先の数字に惑わされるべきではありません。

もうひとつ、どうして「分かりにくいもの」にわざわざ投資するのでしょうか。米国の個々の不動産物件について詳しい日本人など、それほど多くはないはずです。個人投資家には他人の投資状況に左右されず、自分にとって身近なものや分かりやすいものにだけ投資できるという強みもあるのだから、それを生かさない手はないでしょう。

低利回り・運用難といわれる今こそ、数字よりも投資の中身に着目して、できるだけ謙虚にシンプルな投資を心がけてはどうでしょう。意外とそういうところから、自分に合った投資のスタイルが見つかるのかもしれません。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。