いま聞きたいQ&A

猛暑が変えるスポーツやレジャー、ビジネスのあり方

夏場の猛暑をはじめ極端な気候が常態化しつつあるなか、さまざまな分野で日本人の「日常」が変更を余儀なくされています。一方では温暖化にもかかわらず、冬場に強烈な寒波が押し寄せてくるなど、気候は複雑でよく分からないのが実情です。日常のさらなる変更を含めて、私たちは今後も気候に翻弄され続けることになりそうです。

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Q.猛暑は私たちの日常にどのような影響を及ぼしていますか?

気象庁によると、日本では今年(2025年)6月~8月の平均気温が平年より2.36度高く、観測史上最も高温になりました。8月5日に群馬県伊勢崎市で41.8度を観測し、国内の歴代最高気温を更新したほか、同31日には名古屋市で40.0度を観測。全国のどこかで40度以上を観測した日数が合計9日目となり、過去最多を更新しています。

8月16日には札幌市で今年32日目の真夏日(30度以上)となり、年間の真夏日日数記録を101年ぶりに更新。猛暑日(35度以上)の日数についても、東京都心で8月27日に年間23日目、大阪市で9月2日に年間42日目を数え、いずれも過去最多となりました。

近年ではこうした極端な気候が毎年のように繰り返されています。もはや異常気象とは言えず、常態化してきたと考えた方がいいのかもしれません。そんな状況を受けて、さまざまな分野で日本人の「日常」が変更を余儀なくされつつあります。

例えば今年8月5日~23日に阪神甲子園球場で開催された全国高校野球選手権大会は、暑さのピークを避けるために開会式が史上初めて午後4時から行われました。2024年の同大会では、暑さ対策として試合開始を午前と夕方に分ける「2部制」が1日3試合行われる3日間で導入されましたが、今年は1日4試合の日にも拡大され、合計19試合が2部制での実施となっています。

大会期間中に熱中症の疑いで処置を受けた選手は、2024年の延べ58人から今年は延べ24人まで減少しました。24年とは気温などが異なるため、単純に比較はできないものの、大会本部では2部制を拡大した効果が一定程度はあったと評価しています。また、日本高校野球連盟では選手の健康管理などを徹底するため、試合を現状の9イニング制から「7イニング制」に移行する議論も進めており、今年中には結論を出す方針です。

かつては夏の風物詩だった海水浴にも影響が及んでいます。日本生産性本部のレジャー白書によると、国内の海水浴客は1985年の3790万人がピークでしたが、2023年には430万人と約9分の1まで激減しました。あまりの暑さで人々が日中の外出を敬遠し、涼を求めて海水浴に行くことさえも避けるようになったのです。

そもそも日本では各地で砂浜の減少が進んでいます。東北大学の有働恵子教授(大学院工学研究科)らの研究によると、1900年に全国平均で約70メートルあった砂浜の幅は、1990年に約43メートルまで後退しました。河川から運ばれる土砂の量が、ダム建設や河川の護岸工事などで減ったことが主因ですが、地球温暖化によって氷河の融解や海水の熱膨張が進み、海面水位が上昇して砂浜を侵食するという側面も見逃せません。

有働氏らは海面上昇による日本の砂浜の消失率も分析しています。世界の平均気温の上昇を2度未満(1986年~2005年の平均気温比)に抑えても、2100年には1990年ごろと比べて全国の砂浜面積の65%が失われます。気温上昇が最も高いシナリオでは84%が消えると予測されており、2050年の段階で28~50%の砂浜が消失する計算になります。いずれ海水浴は物理的にも「過去の話」となりそうです。

温暖化が進むなかで日本や米国を寒波が襲うという不思議

季節の境目があいまいになったことで、これまで春夏秋冬の四季を前提としてきたアパレル企業のビジネスモデルが岐路に立たされています。アパレル業界の関係者によれば、20年前には約50日間あった秋物衣料の販売期間が、最近は約30日間に短期化しているとのこと。秋商戦が始まる8月~9月に真夏日や猛暑日が増え、生地が厚手の秋物衣料の販売が振るわなくなっているからです。

一方で、夏物衣料の販売期間は約160日間と、20年前の125日間から1カ月ほど延びています。三陽商会やオンワード樫山などのアパレル各社は「1年の約半分が夏シーズン」と考え、サマーニットの販売期間を10月まで延長したり、秋冬商戦用として袖なしコートなど重ね着しやすい衣料の生産を増やすといった対応に動いています。

暖冬傾向が強まるなか、冬の定番衣料のなかには需要が大きく落ち込んでいるものもあります。総務省の家計調査によると、1世帯(2人以上)当たりの「マフラー・スカーフ」の年間購入額は2024年に19年比で45%も減少しました。「手袋」の年間購入額も同3%減となっています。

夏場の猛暑や暖冬に、何らかの形で地球温暖化が影響していることは間違いないと言われていますが、その明確なメカニズムはいまだに分かっていません。例えば今年の1月から2月にかけて、日本や米国は強烈な寒波に襲われました。米海洋大気局や気象情報機関「コペルニクス気候変動サービス」などによると、今年2月の世界の気温は20世紀の平均に比べて1.26度高く、2024年と2016年に次いで過去3番目の高温だったといいます。

すなわち世界中が温暖化を実感するなかで、日本や米国に強い寒波が押し寄せるという不思議な現象が起きたわけです。北極圏の温暖化に伴って偏西風の動きにゆがみが生じ、本来は偏西風に囲まれて北極周辺にとどまるはずの寒気が、低緯度の地域まで移動してきたことが要因と考えられているようです。

三重大学の立花義裕教授(大学院生物資源学研究科)は、「人類は温暖化の対策を続けながら、夏の暑さと冬の寒さの両方に備えることが求められる」と語っています。気候とはそれほど複雑なものであり、私たちは「日常」のさらなる変更を含めて、今後も気候に翻弄され続けることになるのかもしれません。(チームENGINE 代表・小島淳)

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