いま聞きたいQ&A

リスクーーその種類と構造から正しい意味を理解する

投資にまつわるリスクには多くの種類がありますが、それぞれのリスクを注意深く見ていくと、大きく異なる点がある一方で、共通点もあることに気付きます。投資家にどのような影響を及ぼすのか、投資成果が何によって変化するのかなど、いくつかの観点から各リスクの意味を整理し、理解することが重要です。

メインビジュアル

Q.投資にまつわるリスクについて、分かりやすく教えてください。

投資のリスクには、私たちが投資を行うにあたって避けられないリスクもあれば、投資という行為とは直接関係のないリスクもあります。それらをひとまとめにして「投資関連のリスク」と説明されることが多いため、なかには混乱してしまう人もいるかもしれません。

例えば「インフレリスク」は一般に、「預貯金などの利率よりも物価上昇率の方が高くなり、実質的に手持ちのお金の価値が下がること」と説明されています。今年(2025年)10月20日現在、メガバンクのスーパー定期預金の利率は1年物が0.275%、10年物が年0.5%です。総務省の発表によると、日本の消費者物価指数(CPI、生鮮食品を除く総合)は過去3年以上にわたって前年同月比2%以上の上昇が続いています。

スーパー定期預金の利率は以前よりも上がってきたとはいえ、昨今の物価上昇率には届いていません。単純に考えれば、私たち日本人はここ数年、インフレリスクをまともに受けていることになります。同様の状況は今後も続く可能性があり、だからこそ株式や投資信託などに投資して、長期的にインフレ率を上回るリターンを得ることが重要と言われているわけです。

こうしてみると、インフレリスクは投資という行為そのものに影響を及ぼすのではなく、むしろ私たちにとって「投資の動機になる生活上のリスク」であることが分かります。その意味では「長生きリスク」に似ているかもしれません。長生きすることによって老後の生活資金が足りなくなる可能性があるので、若いうちから投資を通じて少しでもお金を増やしておくことが大切という考え方です。

それでは、投資のリスクとして最もポピュラーな「価格変動リスク」はどうでしょうか。こちらは私たちが株式や投資信託への投資を行う以上、どうしても避けられないリスクと言えます。株式や投資信託で得られるリターンの大部分は、「購入時の価格と売却時の価格の差」によるものです。つまりは価格が動くからこそ、私たちは投資によって資産を増やすことができるわけです。

とはいっても、価格がどのように動くかは誰にも分からないため、将来的に得られるリターンは想定より大きくなるかもしれないし、小さくなるかもしれません。このように、価格が動いた結果としてリターンが大小にぶれることを価格変動リスクと呼びます。

一般個人の目線で見た場合、価格が動いた結果として最も避けたいのは「元本割れ」なので、元本割れさえ起こさなければ、リターンは大小にぶれてもいいという考え方もあるでしょう。しかし、例えば1000万円を投資した結果として20年後や30年後に得られるリターンがどの程度なら満足できるかは、人によって意見が分かれるところだと思います。いずれにしても、価格変動リスクは私たちが投資を完了する時までついて回ることになります。

為替変動リスクと金利変動リスクの2つの共通点

国債や社債など債券への投資では、世の中の金利が上昇すると債券価格が下落する「金利変動リスク」が発生します。世の中の金利が上昇した後に発行される債券は相対的に利率が高くなるため、投資家の人気が集まりますが、すでに発行されている利率の低い債券は反対に売られやすくなって価格が下落するのです。

ただし、債券は満期まで保有し続けると、償還時に元本と金利が戻ってきます。すなわち満期まで保有する人ならば、金利変動リスクはありません。その代わりに「信用リスク」を負うことになります。これは債券の発行元である国や企業などがデフォルト(債務不履行)に陥ることで、元本および金利の一部あるいは全部が戻ってこなくなるリスクです。

財政赤字や高インフレが慢性化しているアルゼンチンでは、2020年までに過去9回も国債のデフォルトを起こしています。一方で、日本や米国が財政破綻や債務危機に陥る可能性はきわめて低いでしょう。株式や投資信託の価格変動リスクと同様に、信用リスクは私たちが債券への投資を行う以上は避けられないリスクですが、先進国の国債や財務が健全な大企業の社債に投資する場合には、ほとんど無視できると考えられます。

日本人が米国株などの海外資産に投資する場合には、「為替変動リスク」を負うことになります。具体的には海外資産を購入した後に円高が進むと、その分だけ損失が発生します。例えば米国S&P500種株価指数に連動するインデックス型投信を購入して、1年間でプラス20%のリターンが得られたとしても、その間に1ドル150円から120円まで円高が進んだら、投資成果は単純計算で±0になってしまいます。

この為替変動リスクと、前述した債券の金利変動リスクには、2つの共通点があります。ひとつは私たちが投資する株式や投資信託、債券といった「資産そのものの価値」とは直接関係ないものの、いわば外部環境の変化によって間接的に私たちの投資成果に影響を及ぼすリスクであること。意味合いからすると、特定地域で起こった軍事的・政治的な緊張が世界経済に影響を及ぼす「地政学リスク」も同類と言えます。

もうひとつの共通点は、いずれも「リスク」と名前が付いているものの、外部環境の変化の仕方によってはリターンにもつながるということです。海外資産への投資では、購入時よりも円安が進むと、その分だけ為替差益が発生します。債券への投資では、世の中の金利が下落すると債券価格が上昇して、中途売却する人にとっては利益となります。(チームENGINE 代表・小島淳)

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。