いま聞きたいQ&A

安定的に利益を得るためには20年~30年の積み立て継続を

個人が長期的な資産形成を目指すうえで、「積み立て投資」は運用効率の向上が期待できる有力な手段ですが、積み立てる対象資産の価格動向によっては運用成績が急激に悪化する可能性もあります。途中でくじけないためにも、20年~30年の長期にわたって積み立てを継続するという強い意志を持って運用に臨むことが大切です。

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Q.積み立て投資が一括投資より効率的と言われるのはなぜですか?

投資信託などを毎月一定額ずつ購入していく積み立て投資では、価格が高い月には少ない量を、安い月には多い量を買い付けることで平均購入単価が下がり、効率的な運用が可能になると言われています。どういうことなのか、具体的な数字を使いながら改めて検証してみましょう。

いま仮に、投資信託の基準価額が以下のように動いたとします。話を分かりやすくするために、基準価額の動きはわざと極端にしてあります。

  • 基準価額例
  • 1カ月目:10000円/2カ月目:12000円/3カ月目:10000円/4カ月目:8500円/
    5カ月目:7000円/6カ月目:8000円/7カ月目:10500円

この投資信託について、1カ月目に7万円を一括投資した場合と、毎月1万円ずつ7カ月間にわたって積み立て投資した場合の7カ月目時点における運用成績を比較してみます。なお、投資信託の基準価額は原則として「10000口当たり」の数値で表示される慣例になっています。そのため、基準価額が10000円の時に私たちが1万円を投資すれば10000口を、7万円を投資すれば70000口をそれぞれ取得することになります。

1カ月目に7万円を一括投資した場合は、購入単価が10000円、合計取得口数が70000口です。7カ月目時点の基準価額は10500円に上昇しているので、運用資産評価額は「70000口×10500円÷1万=73500円」、すなわち期間中の運用成績はプラス5%ということになります。計算式のなかに「÷1万」という部分が出てくるのは、基準価額を10000口当たりから「1口当たり」の数値に直すためです。

一方の積み立て投資では、下記のケースAに示すように、1カ月当たりの平均購入単価が9428円まで下がり、合計取得口数は76405口と、一括投資の場合よりも多くの量を買い付けることができます。これは4カ月目から6カ月目にかけて基準価額が大きく下がった際に、多めの口数を取得できた効果によるものです。

【ケースA】(毎月1万円ずつ7カ月間にわたって積み立て投資)

基準価額 取得口数
1カ月目:10000円 10000口
2カ月目:12000円 8333口
3カ月目:10000円 10000口
4カ月目: 8500円 11764口
5カ月目: 7000円 14285口
6カ月目: 8000円 12500口
7カ月目:10500円 9523口
平均購入単価 合計取得口数
9428円 76405口

7カ月目時点の運用資産評価額は「76405口×10500円÷1万=80225円」で、期間中の運用成績はプラス14.6%となります。このように基準価額がいったん下落してから上昇に転じるのは、積み立て投資にとって理想的なパターンであり、最初に一括投資するよりも大きなリターンが期待できます。

基準価額の動き方によっては「積み立てのワナ」に注意が必要

それでは、基準価額が以下のように動いた場合はどうでしょうか。

【ケースB】(毎月1万円ずつ7カ月間にわたって積み立て投資)

基準価額 取得口数
1カ月目:10000円 10000口
2カ月目:11000円 9090口
3カ月目:12000円 8333口
4カ月目:12500円 8000口
5カ月目:13000円 7692口
6カ月目:12800円 7812口
7カ月目:12500円 8000口
平均購入単価 合計取得口数
11971円 58927口

(※5カ月目時点では合計取得口数43115口)

ケースBで積み立て投資を行った場合、7カ月目時点の運用資産評価額は「58927口×12500円÷1万=73658円」で、期間中の運用成績はプラス5.2%となります。もしも1カ月目に7万円を一括投資していたら運用成績はプラス25%なので、積み立て投資のリターンは一括投資に比べて大きく劣ります。

さらに注目したい点があります。積み立て期間中、基準価額が最も高かった5カ月目の時点で運用成績がどうなっていたかを見てみましょう。5カ月間の総積立額は5万円、合計取得口数は43115口なので、運用資産評価額は「43115口×13000円÷1万=56049円」となり、5カ月目までの運用成績はプラス12.0%です。

5カ月目の13000円から7カ月目の12500円まで、基準価額の下落率は3.8%です。一方で、積み立て投資の運用成績は「5カ月目時点のプラス12.0%」から「7カ月目時点のプラス5.2%」まで6ポイント以上も下がっています。

これは一般に「積み立てのワナ」と呼ばれる現象です。積み立ての初期段階で基準価額の上昇が続くと、1カ月当たりの平均購入単価が徐々に切り上がっていくため、その後に基準価額が少し下落しただけでも運用成績が大きく下がったり、場合によってはマイナス(含み損)になることもあるのです。

2024年の新NISAスタートを機に、世界株指数や米国株指数に連動するインデックス型投信の積み立てを始めた個人は、当初の1年余りは運用成績が順調に推移していました。ところが今年(25年)3月に先進国株式が下落した際にはトントンあるいは若干のマイナスとなり、運用成績の急激な悪化を受けて、投資をやめた方がいいのではないかと考える人も少なからずいたようです。

例えば世界株指数に連動するインデックス型投信の積み立ては、個人にとって長期的な資産形成の有力な手段のひとつです。ただし、損失のリスクを減らして安定的に利益を得るためには、20年~30年の長期にわたって積み立てを継続する必要があると言われています。基準価額が下落して一時的に運用成績の悪化に見舞われても、むしろ「いまは大事な仕込みの時期」と割り切る姿勢が重要です。

どうしても含み損が気になる人は、含み損の金額と、自分が予定している総積立額を比較してみるといいかもしれません。月に3万円ずつ30年間の積み立て投資を考えている人ならば、総積立額は1080万円です。積み立ての初期に30万円の含み損が生じたとしても、総積立額からみれば3%弱に過ぎません。あくまでも長期的な視点から運用成績を見つめることで、積み立てを継続しやすくなると思われます。(チームENGINE 代表・小島淳)

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