日本株乱高下をきっかけに、自らの投資行動を振り返る
今年(2024年)8月上旬の日本株は歴史的な乱高下となりました。新NISAで投資を始めた個人にとっては大きな驚きだったかもしれません。過去の例も踏まえると、今回の日本株急落は米国景気に対する懸念が主因と考えられます。乱高下に左右されることなく、より盤石な資産運用体制づくりに注力したいところです。
Q.乱高下した日本株の今後について、どのように考えればいいですか?
日経平均株価(終値)は今年8月1日の時点で3万8126円を付けていましたが、翌2日に前日比で2216円、5日には前営業日比で4451円、それぞれ下落しました。下落幅としては前者が歴代3位、後者が歴代1位の大きさです。下落率に換算すると前者は5.8%、後者は12.3%に当たります。
過去に下落幅、下落率ともに最も大きかったのは1987年10月20日で、下落幅が3836円、下落率が14.9%でした。これは米国株の急落が世界に飛び火したブラックマンデー時の出来事です。今年8月5日の12.3%は歴代2位の下落率で、相当に大きな急落であったことが分かります。7月11日に付けた終値ベースの史上最高値4万2224円から、8月5日の3万1458円まで、日経平均株価は1カ月足らずの間に25.4%も下落したことになります。
その後、8月6日には一転して3217円(10.2%)の上昇を記録し、8月14日時点では3万6442円と、8月2日の水準を上回るところまで回復してきました。これで株価が底入れするのか、それともさらなる下落(二番底)があり得るのか、なんとも気になるところですが、ひとつのヒントになりそうなのが前述したブラックマンデーの局面です。
1987年10月19日の月曜日に、米国ダウ工業株30種平均は22.6%下落しました。米国が財政赤字と貿易赤字の「双子の赤字」を抱えるなか、85年のプラザ合意後に進んだドル安に伴う高インフレへの懸念が米国株急落の要因になったと言われています。当時の日経平均株価は86年末からの約10カ月間で上昇率が4割以上に達しており、利益を確定させる売りが出やすい状況となっていました。すなわち米国経済に対する懸念が、結果として日本における株高の過熱感を修正する動きにつながったと考えられるわけです。
今回も日本株急落のそもそもの引き金となったのは、今年8月2日に公表された7月の米雇用統計です。失業率が4.3%と予想に反して悪化したことにより、市場では米国経済に対する先行き不安が広がりました。
米国の失業者数を前年同月比でみると、7月は21%の増加となっています。米国で失業者が2割以上も増加したのは、ITバブル崩壊後の2001年やリーマン・ショックが発生した08年、新型コロナウイルス禍の20年など、直近では経済ショック時に限られています。世界の投資家は米国景気のソフトランディング(軟着陸)シナリオに懐疑の目を向け始め、8月2日のダウ平均は一時、前日の終値から900ドルを超える下落を記録しました。
一方で日経平均株価は、23年10月末から24年7月11日までの約9カ月間で上昇率が36.8%に達していました。急落前には7月16日~26日の期間中に8営業日連続で下落しており、これは市場が日本株の調整を試す動きだったと捉えることもできます。
市場関係者のなかには今回の急落をブラックマンデーの局面に似たパターンと見て、「令和のブラックマンデー」と呼ぶ向きもあるようです。日本企業の業績は好調なため、長期投資家にとっては日本株を買いやすい水準にあり、10月にも日経平均株価が4万円台を回復すると指摘する専門家もいます。
ちなみに1987年のブラックマンデー時に下落した日経平均株価が、下落前の高値を回復するまでに要した期間は6カ月でした。今回もその程度の調整で済めば御の字ですが、いずれにしても日本株回復のカギは米国景気の行方が握っているといえそうです。
積み立て投資を継続していくための条件を確認する
新NISA(少額投資非課税制度)が始まって半年余り。歴史的な円安と株高を背景に、日本の個人の間で資産運用熱が急激に高まった矢先に起きたのが、今回の日本株乱高下でした。これは個人が自らの投資行動を振り返る、良いきっかけになったとも考えられます。
例えば8月5日までの株価急落で保有株を慌てて手放し、損失を被った個人投資家が、6日の予期せぬ株価高騰で利益を得る(損失をカバーする)機会も逃すケースが続出したもようです。それについてX(旧ツイッター)では「往復ビンタ」という言葉が飛び交いました。厳しい言い方をするならば、こうした事例は投資ではなく投機にいそしんだ結果でしょう。
株式投資の長期的なリターンの源泉は「企業価値の向上」ですが、相場の急落時に慌てて保有株を手放す人の多くは、株式の購入時にも売却時にも「株価の動き」だけを判断材料にしているはずです。企業価値を見ずに株価だけを見て売買するのは、短期間に大きな利益を得ようと欲をかいているわけで、それは限りなく投機に近い行動です。
逆にいうと株価だけを見ているから、上昇相場に乗り遅れまいと焦って、さしたる根拠もなく個別株の購入に走ったり、相場急落時に恐怖心を抑えられず、保有株を売り急いだりするのです。そのように自分の心理的な弱さをコントロールできない人ほど、本来なら株式投資信託の積み立て投資をコツコツとやるべきですが、恐らく最初から長期の資産運用などには興味がないのだと思われます。
新NISAを契機に長期的な資産運用を目指してインデックス型株式投信などの積み立てを始めた人は、株価がどのように動こうとも、ほとんど気にする必要はありません。相場の下落時には普段よりも多くの口数を購入できるので、むしろ資産運用の効率化につながります。しいて挙げるならば、月々の積立金額に無理がないかなど、積み立て投資を長く継続していくための自己条件をいまいちど確認し、より盤石な資産運用体制を整えればいいでしょう。