「始める時期」も「続ける期間」も問わない積み立て投資
積み立て投資は、対象となる資産の価格がいったん下がった後で大きく上がるような場合に最も効果的といわれています。積み立てを始める時期や、続ける期間の長さによって最終的な運用成果は変わってくるようにも思えますが、対象資産の価格がよほど長期で低迷しない限り、それほど気にする必要はなさそうです。
Q.積み立て投資では、始める時期も考慮した方がいいのでしょうか?
新NISA(少額投資非課税制度)を利用して、これから投資信託の積み立て投資を始めようと考えている個人も多いことでしょう。人によっては積み立て投資のやり方について、以下のような疑問を感じるかもしれません。
●積み立て投資を始めるのは対象資産の価格がある程度、下がってからの方がいいのか
●積み立て投資はできるだけ長期間にわたって行う方がいいのか
積み立て投資では、対象資産の価格が安い時には相対的に多くの量を買い付けることになります。結果として「できるだけ安値で多めに買い、高値になるのを待つ」という投資が実現しやすくなるわけです。最近は日本株も米国株も史上最高値のレベルにあるので、例えばインデックス型の株式投資信託を積み立てるにあたっては、日本株や米国株がもう少し下がってから始めた方がよさそうな気もします。
ところが過去のデータをひもとくと、必ずしもそうとは言えないのです。全世界株価指数のMSCI ACWI(オール・カントリー・ワールド・インデックス、配当込み、円ベース)に毎月5万円ずつ積み立て投資を行ったと仮定して、高値から始めた場合と安値から始めた場合を比べてみましょう。
まず、リーマン・ショック直前の高値だった2008年8月から積み立てを始めて、23年末まで投資した場合。累計積立額(投資元本合計)925万円に対して、資産額は2927万円まで3.16倍に増えた計算となります。一方で、リーマン・ショック後の安値だった2009年2月から積み立てを始めて23年末まで投資した場合には、累計積立額895万円に対して資産額は2738万円まで3.05倍に増えた計算となります。
2009年2月当時のMSCI ACWIは、08年8月に比べて約半値まで下落していました。これだけ大きく値下がりすると、価格が高かった直近の6カ月間に投資しなかったことが、最終的な運用成果にプラスの作用をもたらすように思えます。しかし実際には、6カ月早く積み立てを始めたことで生じた30万円(5万円×6カ月)という投資額の差が、長期的な複利効果によって189万円もの収益差につながったわけです。
日経平均株価に積み立て投資を行った場合には、結果が若干異なってきます。配当込みの日経平均株価であるTRI(日経平均トータルリターン・インデックス)に毎月5万円ずつ、高値の時点と安値の時点から積み立てを始めて、それぞれ2023年末まで投資したケースを比べてみましょう。
バブル期の最高値だった1989年末から積み立てを始めると、累計積立額2045万円に対して資産額は5976万円まで増えた計算となります。一方でTRIが89年末の半値になった92年3月から積み立てを始めると、累計積立額1910万円に対して資産額は5703万円まで増えた計算です。
投資額の差は135万円、収益の差は273万円なので、2年3カ月早く積み立てを始めた分だけリターンが増えたことは確かです。ただし、収益率で見ると前者の2.92倍に対して後者は2.98倍となり、後者の方が上回っています。これはTRIがMSCI ACWIとは異なり、92年3月以降もさらに値下がりするなど低迷期が長かったため、その分だけ安値で多めに購入した効果が高まったと考えられます。
逆にいえば、それだけ安値で多めに購入できたとしても、最終的な収益率に対して変わりはありません。将来的に対象資産の価格上昇を期待して長期間の積み立て投資を行う際には、積み立て開始時の価格水準など気にせず、なるべく早く投資を始めればいいでしょう。
まとまった資金がある人は「短期積み立て」も一考
積み立て投資の期間についても過去のデータから検証してみます。新NISAの生涯投資枠は1800万円で、1年間に投資が可能な金額は、つみたて投資枠(120万円)と成長投資枠(240万円)を合わせて360万円です。すなわち、生涯投資枠を使い切るには最低でも5年間の投資期間が必要になるわけです。
日本を含む先進国の株価指数であるMSCIワールド・インデックス(配当込み、円ベース)に2004年1月から08年12月までの5年間、毎月30万円ずつ投資して23年末まで継続保有したと仮定すると、累積投資額1800万円に対して資産額は8953万円になります。2004年1月から23年12月までの20年間、毎月7万5000円ずつ投資した場合には、累積投資額1800万円に対して資産額は6725万円になります。
20年間の投資期間を1970年2月~90年1月、70年3月~90年2月という具合に1カ月ずつずらしながら、2004年1月~23年12月まで合計408種類の「20年間」について検証すると、全期間において最初の5年間に集中投資した方が最終的な資産額が大きくなっていました。この結果を見る限り、毎月少額ずつ長期にわたって積み立てるよりも、毎月多めの金額を短い期間で集中的に積み立てた方が有利ということになります。
これはMSCIワールド・インデックスが長期で上昇基調にあったため、価格が安い早めの時期に多くの資金を投じることで、いわば一括投資に近い効果が得られたからです。手元にまとまった資金がある人ならば、このように数年程度の短期間で集中的に積み立て投資を行うのも有効な手段となります。
注意したいのは、対象資産が長期で低迷するリスクがある場合には、長期間の積み立て投資が適しているということ。また、短期間の積み立ては初期の投資額が大きくなるため、運用途中の評価損が一時的に多額になる可能性もあります。たとえ途中経過であっても損失が膨らむのは耐えられないという人は、長期で少額ずつ積み立てる方が無難でしょう。