「米国株1強」の上昇トレンドが、いよいよ転換の時か?
トランプ米政権による強硬な経済・外交政策や二転三転する朝令暮改の姿勢に、市場参加者は不安と不信感を募らせています。高関税が企業活動へ及ぼす影響も大きいと考えられ、米国株の先行きについては弱気な見方が優勢です。10年以上も続いた米国株の上昇トレンドは、転換の時を迎えようとしているのかもしれません。

Q.トランプ関税が米国株に及ぼす影響について教えてください。
トランプ氏が実施に踏み切った関税強化策は、世界の金融市場を大きく揺らしていますが、最も大きな影響を被っているのは震源地である米国ではないでしょうか。
長期金利の指標となる米10年物国債利回りは、今年(2025年)4月11日に4.49%で取引を終え、前週末の4日対比で0.50ポイントの上昇となりました。英LSEG(ロンドン証券取引所グループ)のデータによると、週間の上昇幅は米同時多発テロが発生した後の2001年11月12~16日(0.55ポイント)以来、23年ぶりの大きさです。ヘッジファンドなどが損失を抱えた取引の解消に伴い、大量に米国債を売却したのが要因と見られています。
米国の代表的な株価指数のひとつ、ダウ工業株30種平均は4月4日に2231ドルの急落を記録しました。1日の下げ幅としては史上3番目の大きさです。これも含めて4月3日から8日まで4営業日続落し、合計の下落幅は4579ドルに達しましたが、9日にはトランプ氏が相互関税の上乗せ分を90日間停止する(中国は除く)と発表したのを受けて2962ドルの上昇に転じました。
長期金利の急上昇や株価の乱高下は、トランプ米政権による強硬な経済・外交政策および二転三転する朝令暮改の姿勢に、市場参加者が不安と不信感を募らせた結果といえます。米運用会社IDXアドバイザーズのベン・マクミラン最高投資責任者(CIO)は、「関税がもたらした不確実性はウォール街が最も嫌がるものだ」と語っており、その意味では、今回の市場混乱にはパニック的な過剰反応が少なからず含まれていると考えるべきかもしれません。
問題はトランプ関税の内容が大きく修正されない限り、米経済に悪影響を及ぼす可能性が高いことです。米JPモルガン・チェースでは、発表された関税がこのまま据え置かれた場合、「米国は今年中に景気後退に陥って、通年の実質GDP(国内総生産)成長率はマイナス0.3%となり、失業率は5.3%に上昇する」と厳しい見方を示しています。
米株式市場では今後、企業活動への影響度合いが焦点となるでしょう。例えば今年5月1日に決算を公表する予定のアップルは、売上高の半分を占めるスマートフォン「iPhone」を中心に生産の多くを中国に依存しています。こうしたグローバル企業ではサプライチェーン(供給網)の高コスト化が業績の下押し要因となります。
米国内のインフレ再燃に伴って消費需要が減退する懸念もあり、いわゆる内需関連企業にとっても物価高の加速は重荷になります。経済の不透明感がいつまでも続くようだと、従業員の解雇などを通じて米国企業の活動そのものに広くブレーキがかかる恐れもあります。
FRB(米連邦準備理事会)のパウエル議長は4月15日に地元の大手企業から聞いた話として、「製品に組み込む輸入部品の供給問題が非常に深刻になっている」と語りました。関税による物価の押し上げについても、「より持続的なものとなる可能性がある」と警戒を解いていません。
投資家の間でも弱気な見方が優勢です。米銀行大手バンク・オブ・アメリカが4月4~10日に実施した世界の機関投資家160社の聞き取り調査によると、米国株の組み入れ状況はアンダーウエート(株価指数よりも少ない組み入れ)が多数派となりました。米企業の収益見通しが「好ましくない」と回答した投資家は28%に上り、世界金融危機直前の2007年11月以来の高さとなっています。
S&P500とナスダック総合はすでに弱気相場入り
単純に株価の推移だけを見ても、米国株の調整を意識させる数字がいくつか出てきています。米国の主要な株価指数はいずれも過去半年以内に史上最高値を記録し、今年4月8日に直近の安値を付けました(下記参照。黒文字が史上最高値、赤文字が25年4月8日、終値ベース)。
- ●ダウ工業株30種平均:45014.04ドル(24年12月4日) →37645.59ドル
- ●S&P500種株価指数:6144.15(25年2月19日) →4982.77
- ●ナスダック総合株価指数:20173.89(24年12月16日) →15267.91
それぞれの下落率はダウ平均が16.3%、S&P500が18.9%、ナスダック総合が24.3%です。直近1年間に付けた高値からの下落率が20%を超えると、中長期的な相場低迷を示唆する「弱気相場入り」と言われており、ナスダック総合はすでに該当していることが分かります。実はS&P500も取引時間ベースでは、今年2月19日の日中高値(6147.43)から4月7日の日中安値(4835.04)まで21.3%下落しており、同じく弱気相場入りに該当します。
S&P500に関連して、もうひとつ注目点があります。今年1~3月の騰落率はS&P500が4.6%の下落だったのに対し、MSCI全世界株指数(米国を除く)は4.6%の上昇でした。S&P500は9.2ポイント劣後しており、2009年4~6月の10.9ポイントに次ぐ16年ぶりの大きさとなっています。
09年当時は世界金融危機からの回復局面で、経済が好調だった中国株などの上昇が大きく、金融危機の震源地だった米国株は相対的に低調でした。今回については、トランプ氏が相互関税の詳細を発表した今年4月2日以前から、米国株の騰落率は米国を除く全世界株に劣後し始めており、市場参加者が「高関税は米国にこそ重荷になる」と先回りして見ていたことがうかがえます。
トランプ米政権は将来的な企業主導の経済成長に向けて、いったん目先の株安や景気後退を容認し、いわゆる逆資産効果によって米国内のインフレ率と金利の低下を目論んでいるとの指摘もあります。過去10年以上にわたって上値を切り上げ、「米国株1強」とも呼ばれた上昇トレンドも、いよいよ転換の時を迎えようとしているのかもしれません。(チームENGINE 代表・小島淳)