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いま聞きたいQ&A

いわゆる「中国リスク」の本質について、どのように考えればいいでしょうか?

世界経済の中国依存が改めて浮き彫りに

中国・湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルスによる肺炎が、世界経済に大きな衝撃を与えています。新型肺炎の感染拡大に収束のメドが立たず、世界的に生産や消費の停滞が懸念されるなか、日米欧で株価が大きく下落するなど金融市場にも影響が及びはじめました。

この新型肺炎による経済ショックが一過性のものかと問われれば、とりあえず「イエス」と答えるべきなのでしょう。「中国リスク」とは中国にまつわる経済的悪影響のことを指しますが、そもそも今回の新型肺炎は震源地がたまたま中国だったというだけで、本来は中国リスクのひとつに数えられるようなものではありません。

しかしながら新型肺炎を通じて、世界経済がさまざまな面で中国に依存している現実が改めて浮き彫りになっています。そうした中国への過度な依存は、いわば世界が構造的に抱えるリスクであり、今後も何らかの事件や事故をきっかけに繰り返し顕在化してくるものだと思われます

分かりやすい例として、日本の中国への依存ぶりを見てみましょう。まずは観光産業の現状です。

2019年の訪日外国人客数は前年比2.2%増の3188万人、旅行消費額は前年比6.5%増の4兆8113億円で、そのうち中国人は959万人と客数全体の3割を、消費額が1兆7718億円と全体の4割近くをそれぞれ占めています。

訪日客数は中国人と韓国人の合計で全体の5割にのぼり、日韓関係の悪化で韓国人が激減しながらも19年の訪日客数が前年比で何とかプラスを維持できたのは、中国人の増加に支えられたところが大きかったといわれています

新型肺炎の感染拡大を受けて中国政府は海外への団体旅行を禁止しており、今年(20年)2月以降は訪日客数の激減が避けられない情勢です。日本政府は20年に訪日客数4000万人、インバウンド消費額8兆円という目標を掲げていますが、早くも達成を危ぶむ声が上がっているほか、ホテルをはじめ小売りや飲食店、観光バスなど影響が多方面に広がることも懸念されています。

ただし、この件については冷静な検証が必要でしょう。19年における中国人訪日客の1人当たり平均消費額は21万3000円と、15年の28万4000円から大幅に縮小し、オーストラリア人(24万2000円)やフランス人(23万8000円)より少ないのが実情です。また、そもそもインバウンド消費が日本国内の個人消費に占める割合は、わずか1%にすぎません。「観光公害」や「オーバーツーリズム」の問題が指摘される昨今、観光立国のあり方そのものをいま一度問い直す時期に来ているような気がします。

今後は中国リスクが慢性化する可能性も

中国・湖北省には自動車部品など世界のサプライチェーン(供給網)を担う企業が多数存在しますが、新型肺炎で中国市民の移動は制限されており、工場がフル稼働に戻るのは早くても今年3月の中旬以降と見られています。中国における生産や物流の停滞は、日本の貿易にも大きな影響をもたらすことになりそうです。

例えば日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、18年の日本による中国からの自動車部品輸入額は約3470億円で、SARS(重症急性呼吸器症候群)が広がった02~03年の約10倍に増加しています。製造業においても中国依存が強まっていることは明らかで、中国からの輸入停滞が長引けば、自動車はもちろん幅広い製造業種で生産減少につながる恐れが出てきます。

世界に目を向けると、資源需要の中国依存が思いのほか大きいことに驚かされます。原油価格の国際指標のひとつ、ニューヨーク原油先物は2月下旬に1バレル約45ドルと1年2カ月ぶりの安値をつけました。中国の石油需要は世界全体の14%を占めており、国際エネルギー機関(IEA)では、20年1~3月期の世界の石油需要が前年同期比で日量約44万バレル減るとの予測を発表しています。四半期ベースの前年割れとなれば、実に10年半ぶりの出来事です。

中国は非鉄金属の世界最大の消費国でもあります。世界金属統計局(WBMS)によると、18年における中国の地金消費量の世界シェアはアルミニウムが56%、銅が52%、ニッケルが49%といった具合。軒並み半数を中国に頼っている現状では、これら非鉄の需要落ち込みと市況低迷への不安が広がるのもなかば当然といえます。

世界の当面の関心事は、新型肺炎の感染拡大がいつ収束するのかということでしょう。一方で中国には、地方政府と企業が抱える過剰債務問題や環境規制強化への動きなど、場合によっては世界経済に大きな影響を及ぼしそうな「火種」が多数存在します。今後そうした火種が断続的に混乱をもたらし、中国リスクが慢性化してしまう可能性も否定はできません。

今回の新型肺炎ショックをあえて前向きにとらえるならば、日本をはじめ世界が中国への経済的な依存体質を改める試金石にできるかどうか、その一点に尽きると思われます。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。