自分で投資商品を選ぶ段階へ、新たな一歩を踏み出す時
2024年もいよいよ押し詰まってきました。来年以降の投資に思いを巡らせている人も多いのではないでしょうか。金融市場には長年にわたって語り継がれてきた投資の格言や、偉大な先人たちが遺した名言があります。それらを交えながら、改めて投資の基礎になる考え方を心に刻んでおくといいかもしれません。
Q.ウォーレン・バフェット氏の言動が注目されるのはなぜですか?
『人の行く裏に道あり花の山』という投資格言があります。多くの人が行き交う大通りではなく、人があまり行かない道にこそ目的の花が咲いている。すなわち、投資で成功するためには「他人と逆の行動が大切」という意味です。この言葉に照らし合わせると、最近の米国株に偏った投資のあり方はいささか気にかかるところです。
調査会社EPFRグローバルによると、米国株ファンドには今年(2024年)すでに世界全体で4400億ドル(約66兆円)の資金流入があり、2021年の通年最高記録を上回っています。日本でも三菱UFJアセットマネジメントが運用するインデックス型の米国株投資信託「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」が、国内公募投信として初めて純資産6兆円を突破しました(ETF=上場投資信託を除く)。一般個人からプロまで、世界中の投資家が米国株への投資を加速させている様子がうかがえます。
もちろん投資家のなかには異なる道を歩む人もいます。例えば著名な投資家、ウォーレン・バフェット氏。同氏の率いる米投資会社バークシャー・ハザウェイが今年11月に開示した9月末時点の保有リストでは、7~9月期に米国のアップル株とバンク・オブ・アメリカ株を大量売却したことが明らかになりました。
9月末時点でバークシャーの株式投資額は2716億ドルですが、債券投資額は株式を上回る3040億ドルとなっています。このようにバークシャーが形式上の「債券投資家」に転じるのは、ドットコムバブル崩壊期の2001~02年以来、22年ぶりの出来事です。背景には魅力的な株式投資の機会が乏しい事情があるようですが、市場ではバフェット氏が運用リスクの抑制に動いているという見方もあり、米国債利回りに比べて異例の割高さを示す米国株への警鐘と受け止める専門家もいます。
バフェット氏といえば『人が貪欲なときに恐れ、人が恐れているときに貪欲になれ』『株式投資にとって悲観は友、陶酔は敵』といった語録が有名です。自分にとって事業内容が理解しやすく、長期的に企業価値(利益)の成長が見込める銘柄に投資するバフェット氏の手法は、単純な割安株投資や逆張り投資とは一線を画すものといえるでしょう。それでも結果として市場のトレンドとは逆の投資になるケースが目立っており、だからこそ多くの投資家がその言動に注目しているわけです。
相場の後追いと過度の集中投資を避ける意味合い
バフェット氏の語録や投資手法も踏まえながら、いまいちど冒頭の『人の行く裏に道あり花の山』という格言について考えてみましょう。そこには「相場の後追い」「過度の集中投資」という2つの行為を避ける意味合いが含まれているのではないでしょうか。
株式相場が上昇して話題になると、投資の初心者も株式や株式投信に興味を持ち始めます。知識も経験も乏しいため、初心者は世間で人気の(皆と同じ)銘柄を買って安心を得ようとする傾向が強いのですが、多くの人が買うことによって価格はすでに上昇しているので、結局は高値で買うことになりがちです。こうした相場の後追いは投資効率が悪いことはもちろん、売りのタイミングも後手に回りやすく、相場の動き次第では大きな損失を被ることになりかねません。
米国株指数に連動するインデックス型投信を積み立てている人は、「時間分散の仕組みを通じて投資単価を平均化しているから相場の後追いにはならない」と言うかもしれません。しかしながら、インデックス型の株式投信は株価が上昇した銘柄を機械的に買い、下落した銘柄を機械的に売るという点で、そもそも相場を後追いする性質を持っているのが実情です。
投資信託協会が日本の個人を対象に投資信託の保有本数を調べたところ、1~2本という人がほぼ半数に達していました。投資の初心者ほど分散投資の重要性を実感しにくいため、現時点で調子の良い米国株投信などに資金を集中させているのかもしれません。
目先の運用成果だけを考えれば、現時点でそれほど調子が良くない投資対象にもあえて資金を振り向けておくことに、意義を見いだしにくいという投資家の心理は理解できます。ただし当然のことながら、時期によって調子の良い資産、調子の悪い資産は変わります。20~30年の長期運用という観点からみると、過度の集中投資は最終的な運用成果に悪影響を及ぼす可能性があります。
バフェット氏が師とあおいだことで知られる米国の経済学者、ベンジャミン・グレアムは『株式市場は短期的には投票機にすぎないが、長期的には計測器として機能する』という言葉を遺しました。株価は短期的には投資家による人気投票のようなものであり、人気が行き過ぎて高騰したり、逆に不人気で低迷したりする。しかし長い目で見れば、株価は企業が稼ぐ利益に沿うように動いていくので、企業本来の価値を測る(反映する)ものになる――という意味です。
過去10年以上にわたって続く米国株の上昇が、投資家の人気投票によるものなのか、それとも米国企業の本来的な価値に基づくものなのか、本当のところは誰にも分かりません。いずれにしても私たちが長期運用を目指すにあたっては、できる限り相場の後追いや過度の集中投資を避けるという意識を持つことが重要です。
来年は多くの日本人にとって米国株からその他の資産への展開を考える、つまりは人気商品を買う段階から自分で商品を選ぶ段階へと、新たな一歩を踏み出すことが投資のテーマになりそうです。(チームENGINE 代表・小島淳)