株式投資では数字だけでなく企業の中身にも目を向けよう
新NISA(少額投資非課税制度)の成長投資枠を利用して、個別株への投資にチャレンジしようと考えている個人も多いかもしれません。初心者にとっては値動きが安定しやすい高配当株を選ぶことが、株式投資の第一歩になります。長期運用でリターンの底上げを図るうえでは、成長企業を見きわめて投資する力を養うことも重要です。
Q.初心者が株式投資を始める際には、どのような銘柄を選べばいいですか?
今年(2024年)から始まった新NISAでは、どのような企業の株式に人気が集まっているのでしょうか。主要な証券会社の買付額上位を見ると、三菱UFJフィナンシャル・グループやNTT、JT(日本たばこ産業)など、配当利回りの高い大型株が目立ちます。
配当利回りとは株価に対する年間配当金の割合(%)を示す指標で、「1株当たり年間配当金額(予想値)÷現在の株価×100」という計算式によって求められます。今年10月23日時点の予想配当利回りは、例えば日経平均株価を構成する225銘柄の平均では2.01%ですが、三菱フィナンシャル・グループは3.19%、NTTは3.57%、JTは4.69%と、いずれも相対的に高くなっています。
大型株とは簡単にいえば、株式市場における総合的な評価が高く、いつでも売買しやすい株式のことです。東京証券取引所ではTOPIX(東証株価指数)を構成する2100以上の銘柄のうち、時価総額と流動性が高い上位100銘柄を大型株と定義しています。今年10月23日時点で東証プライム市場の時価総額ランキングを見ると、三菱UFJフィナンシャル・グループは2位、NTTは9位、JTは22位となっています。
高配当株を長期で保有すると、将来的に株価が下落しても配当収入が運用収益を下支えする効果が期待できます。単純計算ですが、いま購入した株式において年3%の配当が今後10年間続いた場合、10年後の株価が購入時から25%下落しても、トータルの運用成果はプラスを維持できることになります。
長期にわたって高配当を維持している企業や、何年も連続して配当を増やしている企業には、業績の安定性が高いケースが多く、相場全体が下落する局面でも値動きが底堅くなりやすいという特徴があります。株価の下落幅が相対的に小さいと考えられ、投資家にとっては安心感につながるため、多くのFP(ファイナンシャルプランナー)が初心者の選択肢として高配当株への投資を挙げています。
しかしながら、前述した計算式を見ると分かるように、分子の「1株当たり年間配当金額」が同じでも、分母の「現在の株価」が低くなると配当利回りは上昇します。すなわち高配当株には、何らかの理由で市場の評価が低い(株価が低迷している)だけの銘柄も含まれているわけです。そうした銘柄を避けるため、高配当株への投資にあたっては、いくつかの条件に沿って銘柄を絞り込む必要があります。
例えば業績が不安定な中小型株よりも、できるだけ業績が安定している大型株を選ぶこと。その意味では、新NISAで配当利回りの高い大型株に人気が集まっている状況は理にかなっています。
そのほか、経営効率や財務の安定性も重視すべきと言われています。効率良く経営を行っている企業ほど配当の原資となる利益を生みやすいので、資本効率の高さを表すROE(自己資本利益率)については市場平均の約9%以上であることが望まれます。総資本に占める自己資本の割合が高いほど、財務的に余裕があって配当が減りにくいと考えられるため、自己資本比率は一般に安定企業の目安とされる30%以上が理想です。
学びを通じて投資の成功や失敗が偶然ではなくなってくる
株式投資の初心者にとって、配当の高さに着目した銘柄選びは有効な第一歩となりそうですが、高配当企業には総じて利益成長性が低い傾向が見られることには注意が必要です。つまり高配当株への投資では、安定した運用成果を見込むことはできても、長期的に大きなリターンを期待するのは難しいことになります。
反対に、利益成長性の高い企業には配当利回りが低いケースも目立ちます。それは配当という株主還元策よりも、R&D(研究開発)や設備投資、人材投資など「将来の成長へ向けた投資機会」に資金を振り向けることを重視しているからです。
これから20年~30年の長期で資産運用を目指す人のなかには、新NISAのつみたて投資枠で投資信託をコツコツと積み立てながら、成長投資枠で味付け的に個別株への投資も行って、資産全体のリターンの底上げを図りたいというニーズもあることでしょう。その場合は、企業の成長性にも着目して銘柄を選ぶことが重要になります。
とは言っても、各企業について過去数年の決算書類を読み込むといった「苦行」は必要ないし、そもそも投資の初心者には無理だと思います。ある日本株アクティブ型投資信託のファンドマネジャーは、初心者が銘柄を選ぶ際のポイントとして「自分が身近に感じる商品・サービスを提供している会社や、関心のある会社に投資することが大切」と語っています。
人は誰でも他人より詳しい分野を持っているものです。変に背伸びして事業内容を理解しにくい企業を選ぶよりも、自分にとって分かりやすい企業に投資することで、株価が上下した理由について学びやすくなります。それによって投資の成功や失敗が、ただの偶然ではなくなってくるところに意義があるというわけです。
最初のうちは自分の選択眼に自信を持てない人も多いと思われますが、あまりに短期間で投資の成否を判断するのは考え物です。例えば投資から3年や5年といった区切りを設けて、その間に投資先企業の商品やサービスが世の中でどのように受け取られているか、じっくり観察してみてはどうでしょうか。
配当利回りや株価動向といった数字だけでなく、企業が提供する価値の中身に注目することで、将来有望な成長企業を見きわめる力は確実に高まっていくと考えられます。(チームENGINE 代表・小島淳)