いま聞きたいQ&A

投資信託のコストは信託報酬以外も含めて総合的に判断を

ひと頃に比べると信託報酬率の低い投資信託が増え、多くの個人投資家が運用コストに関心を向けるようになりました。しかし、より正確にコストを把握するためには信託報酬だけでなく、その他費用も含めた「総経費率」に着目する必要があります。総経費率が高まりやすいタイプの投資信託についても覚えておくといいでしょう。

メインビジュアル

Q.投資信託の運用にかかるコストにはどのようなものがありますか?

投資信託で運用する際に投資家が負担するコストのうち、毎年かかってくるものに「信託報酬」と「その他費用」があります。信託報酬は投資信託の販売や運用にかかる費用で、銀行や証券会社などの販売会社、実際の運用を担う運用会社、投資信託の保有資産を管理する信託銀行(受託会社)の3者によって分け合います。

その他費用とは信託報酬に含まれないコストのことで、例えば海外で有価証券を保管する際に現地の金融機関に支払う費用や、投資信託の決算時に監査を受ける費用などが該当します。参照する株価指数などの使用料や、作成が義務付けられた書類の印刷費用もコストの一種ですが、これらは投資信託によって信託報酬に含めるかどうかが異なります。

個人投資家が複数の投資信託について運用コストを比較する場合、信託報酬率を見て判断するのが一般的です。しかし、その他費用が多くかかっていれば、実際に負担するコストは想定以上に高くなる可能性も考えられます。

より正確に運用コストを把握するためには、信託報酬にその他費用を加えた総経費を、投資信託の純資産残高で割った「総経費率」に目を向ける必要があります。日本の投資信託では従来、決算後に公開される運用報告書において直近の総経費率が開示されていました。購入時に渡される目論見書では信託報酬のみの開示だったため、投資家によっては実質的なコストを認識しないまま購入してしまう懸念があったわけです。

投資信託協会の指導により、今年(2024年)4月からは目論見書においても総経費率の開示が始まりました。いくつか具体的な投資信託を例にとって、目論見書に記載された信託報酬と総経費率を確認してみましょう。

「オルカン」の愛称で知られる三菱UFJアセットメネジメントの『eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)』では、2023年4月26日~24年4月25日における運用管理費用(信託報酬)は0.08%、その他費用が0.03%で総経費率は0.11%でした(*)。すなわち当該期間中の総経費率は信託報酬の1.3倍に当たることになります。(*)同投資信託の「投資信託説明書(交付目論見書)」使用開始日2024.7.25より。

新興国に投資するタイプの総経費率は高くなりがち

新NISA(少額投資非課税制度)の「つみたて投資枠」の対象となっているインデックス型の新興国株投資信託Aでは、2022年11月22日~2023年11月20日の期間中、信託報酬が0.19%、その他費用が0.24%、総経費率が0.42%でした。総経費率は信託報酬の2.2倍に相当します。

新NISAの「成長投資枠」の対象となっているアクティブ型のインド株投資信託Bでは、2022年9月13日~2023年9月12日の期間中、信託報酬が1.93%、その他費用が3.13%、総経費率が5.06%でした。総経費率は信託報酬の2.6倍に相当します。

このように新興国に投資するタイプの投資信託では、資産の管理費用が高くなりやすいことから、信託報酬と総経費率のかい離が相対的に大きいケースが目立ちます。なかでもインド株は、値上がりの際にインド国内でキャピタルゲイン課税が発生し、運用会社はこれをその他費用に含めるのが一般的です。株価の上昇が大きいほど課税額も大きくなるため、その他費用がかさんで総経費率が高くなる傾向にあります。

ほかにも総経費率が高まりやすいタイプとして、純資産残高の小さい投資信託が挙げられます。例えば海外資産の保管費用は定額でかかるケースが多いため、純資産残高が小さいと割高になりがちです。反対に、純資産残高が拡大することによって総経費率が下がる場合もあるので、投資家の人気が上昇した投資信託などについては改めて総経費率をチェックしてみるといいでしょう。

総経費率は投資信託の運用コストをより正確に把握するのに役立ちますが、決して万能なわけではありません。有価証券などの売買時に支払われる「売買委託手数料」や、有価証券の取引ごとに発生する「有価証券取引税」が計算に含まれていないからです。これらは別途、投資信託の運用報告書に記載される「1万口当たりの費用明細」で確認する必要があります。特にアクティブ型で株式を頻繁に売買する投資信託などは、売買委託手数料が大きくなる可能性があるので要注意といえます。

最後にもうひとつ、個人投資家に考えてほしいことがあります。運用中のコスト以外にも、投資信託によっては購入する際に販売手数料がかかります。この販売手数料とは、そもそも何のためにあるのでしょうか。その答えは、金融庁の「資産運用業高度化プログレスレポート2023」に示された以下のような指摘のなかにあると思います。

  • ● 銀行や証券会社など、わが国における運用商品・サービスを提供する金融機関(以下、「販売会社」という)については、時として、販売手数料獲得を目的とした顧客本位ではない販売行動が見受けられる。
  • ● わが国の販売会社の営業現場では、顧客の資産運用計画に対する継続的なアドバイスの提供を手助けするツールも十分に普及していないことがある。

販売手数料と銘打っている以上、販売時に何らかのサービスもしくは付加価値があり、その対価として支払うと考えるのが妥当です。個人投資家は当然のことながら、資産運用に役立つ有意義なアドバイスを販売会社に求めるべきです。それがない場合には、販売手数料を取る根拠を問うてみるべきでしょう。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。