いま聞きたいQ&A

「全世界株投信+α」のアプローチで株式運用を考える

新NISA(少額投資非課税制度)では全世界株価指数に連動するタイプのインデックス型投資信託が人気を集めています。先進国から新興国まで世界中の株式に投資するため、分散効果は十分に思えますが、国別の資産構成にはけっこう偏りが見られます。他の投資信託を組み合わせて投資配分を調整することも考えたいところです。

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Q.株式の運用は全世界株投信だけで十分でしょうか?

今年(2024年)1月に新NISA経由で最も購入額が多かったのは、三菱UFJアセットマネジメントが運用する投資信託『eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)』(以下、オルカン)でした。運用コストが相対的に低いインデックス型(株価指数連動型)投信で、新NISAの「つみたて投資枠」の投資対象となっています。

新NISAをきっかけに人生初の投資として、オルカンの積み立てを始めた人も多いことでしょう。投資の「第一歩」としては良い選択だと思われます。ただし、いまのうちから投資の「二歩目以降」についてもよく考えておく必要があります。

オルカンの積み立てを始めた人は、こう思うかもしれません。「世界中の株式に投資するのは、いわば究極の分散投資であり、少なくとも株式の運用についてはこれ1本あれば十分だ」。さて、本当にそうでしょうか。

オルカンの月報を見ると、国・地域別の資産構成比率を確認することができます。今年1月末時点では米国が62.7%と最も高く、次いで日本(5.6%)、英国(3.5%)、フランス(2.8%)などが続きます。組み入れ上位10カ国・地域のうち新興国は9位のインド(1.7%)と10位の台湾(1.5%)のみで、先進国と新興国の比率はおおむね9割:1割となっています。

資産構成を4つのグループに分けて表すと、米国が60%、米国と日本を除く先進国が25%、新興国が10%、日本が5%となります。一見して分かるのは、米国の比率が突出して高いことと、新興国および日本の比率が意外に低いことでしょう。

こうした資産構成は、オルカンが連動を目指している全世界株価指数「MSCI ACWI(オール・カントリー・ワールド・インデックス)」の国別構成比率に準じたものです。MSCI ACWIは構成銘柄の時価総額を加重平均して算出されるため、時価総額の大きい銘柄ほど、指数における構成比率が高くなるという特徴があります。

MSCI ACWIは2900以上の銘柄で構成されていますが、世界の株式のなかでは米国企業の時価総額が目立って大きいため、MSCI ACWIの構成比率も米国株が大きくなる傾向にあるわけです。時価総額は「株価×発行済み株式数」で計算され、数値が大きいほど企業規模が大きく、株式市場での評価も高いと見なされます。

米国にはIT分野を中心に最先端の技術で世界をリードする企業が次々と現れ、それが世界的な米国株の高評価をもたらして、とりわけ大きな株価上昇につながっています。こうした状況が今後も変わらないと考えるならば、全世界株への分散投資において米国株の比率を高くすることは、リターン向上の観点から合理的といえるかもしれません。

新興国株や日本株の比率をもう少し高める手も

日本を除く先進国の株価指数である「MSCIコクサイ・インデックス」と、新興国の株価指数である「MSCIエマージング・マーケット・インデックス」の値動きを比較してみましょう。2000~23年の配当込みリターンを円ベースでみると、前者は5.9倍、後者は5.5倍までそれぞれ増えた計算になります。ちなみに前者では国別構成比率の7割強を米国株が占めています。

一方で、為替変動の影響を取り除いた現地通貨ベースでの配当込みリターンは、MSCIコクサイが4倍程度なのに対してMSCIエマージングは5.6倍となっています。すなわち株価の上昇率そのものは、米国を中心とする先進国よりも新興国の方が高かったわけです。

基本的に経済成長の度合いは、その国の人口動態と経済的な価値を生み出す力によって決まります。新興国は今後の数十年で大幅な人口増加が見込まれており、新たな大市場として海外からの資金流入も加速すると考えられます。国内総生産(GDP)をみると、インドはすでに英国やフランスを上回り、ブラジルはイタリアやカナダに匹敵する水準です。これから20~30年といった長期の資産運用においては、こうした新興国の高い成長性にも注目が必要でしょう。

また、日本株の上昇率はMSCIコクサイやMSCIエマージングに見劣りますが、ここにきて日経平均株価が史上最高値を相次いで更新するなど、世界的にがぜん注目と期待が高まっています。将来のさまざまな経済状況に備えるという意味では、運用資産全体のなかで新興国株や日本株の比率をもう少し高めてもいいのかもしれません。

例えばオルカンの積み立て投資を月々1万円で始めた人は、前述した4グループの資産構成に照らし合わせると、米国株に6000円分、米国と日本を除く先進国株に2500円分、新興国株に1000円分、日本株に500円分をそれぞれ投資していることになります。例えばそこに、新興国株のインデックス型投信を5000円、日本株のインデックス型投信を2000円ずつ追加で毎月積み立てると、全体の資産構成は以下のように変わります。

●米国株60%→→→→→→→→→35%(6000円÷17000円)
●米国と日本を除く先進国株25%→15%(2500円÷17000円)
●新興国株10%→→→→→→→→35%({1000円+5000円}÷17000円)
●日本株5%→→→→→→→→→15%({500円+2000円}÷17000円)

株価指数の国・地域別構成比率はその時々で変わっていくため、これはあくまでも現状で考えられる資産配分の調整方法にすぎません。人によって将来性を期待する国・地域は異なるので、配分比率については意見が分かれるところでしょう。

ただ、いずれにしても株価指数の中身を確認することや、それに応じて投資の二歩目以降を検討することは重要です。これから初めての投資に臨む人にとっても、「全世界株投信+α」という株式運用のアプローチは大いに参考になるのではないでしょうか。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。