1. いま聞きたいQ&A
Q

投資信託は本当に、初心者向けの金融商品といえるのでしょうか?

運用の中身は数字だけで判断できない

一般に投信(投資信託)は、比較的少ない金額から分散投資を行うことができる初心者向けの投資商品といわれています。確かに私たちが複数の個別銘柄に分散投資する場合と比べれば、株式や債券などの実際の売買を運用のプロにお任せできるという点で、投資の初心者でも安心・手軽に始められるイメージがあります。利益確定や「損切り」もプロがやってくれるため、細かな相場変動に一喜一憂しなくて済む点も初心者にはメリットでしょう。

しかし、実はそこに盲点があるとも考えられます。私たちは投信を利用することで、個別銘柄の売買を運用のプロに任せることができますが、投信そのものの売買までプロに任せることはできません。投信を売買するのは私たち自身であり、投信を購入すべきかどうか、あるいはいちど購入した投信を途中で解約(売却)するか、保有し続けるかといった判断は、それほど簡単ではありません。

株式投資を例にとると、個別銘柄への投資では、株式指標を使って株価の割安・割高を判定したり、1株利益の推移などから企業の成長性を測ったりしながら、各銘柄の購入や売却、継続保有を検証するのが一般的です。一方の株式投信では、運用の結果として基準価額が上下し、過去の運用成績が基準価額の騰落率という形で表されますが、基準価額の水準は投信の割安・割高とは関係ないし、騰落率から単純に投信の将来性を推測することも困難です。

アクティブ型の株式投信で、基準価額が上昇した場合を考えてみましょう。長期の運用に堪えうる理想的な株式投信では、以下のような運用プロセスをたどっているはずです。

  • 割安な段階で購入した銘柄のいくつかで株価が上昇。そのために基準価額も上昇
  • 割高になったと判断した銘柄は一部あるいは全部を売却
  • 売買益は今後の運用に向けて新たな割安銘柄の購入に充てる

このような投信なら、私たちは購入すべきだし、信頼して長期保有すべきです。しかし、基準価額の上昇がいつも運用の手腕によってもたらされているとは限りません。短期的な特殊要因や偶然(まぐれ)による場合もあり得るのです。

そうした「運用の中身」は、基準価額や騰落率といった数字だけから判断できるものではありません。結局のところ、私たちは投信の運用の巧拙を知るために、ある程度は個別銘柄や市場環境について勉強し、いわゆる相場観を養いながら、基準価額の変動要因について理解する必要があるわけです

ちなみに運用の巧拙を知るうえで、リスクあたりの収益性を表す「シャープレシオ」という指標が参考になりますが、これはあくまでも複数の投信を対象とした運用効率の相対評価に向くものです。また、投信では解約が多いと運用の自由度が限定されるため、純資産が安定して推移することも重要といわれます。ただし、純資産の大きさは良い投信の条件ではあっても、それがそのまま運用の優秀さにつながるわけではありません。

損益が分かりにくく売り時に悩む人も

投資に慣れた経験者でさえ、運用の中身や巧拙がつかみにくい場合もあります。例えば海外の株式や債券などで運用するアクティブ型投信では、私たちが投資対象に関する十分な情報を入手することが難しいうえに、運用は原則として為替変動の影響を受けることになります。基準価額が動いた際に、どこまでが運用手腕によるものなのか、すぐには把握できないことも少なくありません。

運用の中身が分かりやすいインデックス型投信やETF(上場投資信託)など、市場平均に連動するタイプの投信を利用する場合はどうでしょうか。そこでもやはり、自分が投資する市場やその市場に影響を及ぼす経済情勢などについて勉強を積み、少なくとも相場の大きな方向性ぐらいは定期的に検証できるだけの力をつけておくべきでしょう。でなければ、相場が動いた時に売り急いでしまったり、逆に売りそびれてしまうといった事態に陥りかねません。

投信にはもうひとつ、収支計算の問題もあります。基本的には基準価額の騰落率に購入時の販売手数料と、毎年の運用にかかる信託報酬を勘案して損益を計算します。毎月分配金を出すタイプの投信では、さらに運用期間中の分配金の合計額も考慮する必要があり、損益状況が分かりにくいことから、売り時に悩む人も多いようです。

こうして見ると、投信を初心者向けの投資商品と考えるのは、いささか無理があるように思われます。知識や経験の乏しい初心者でも安心・手軽に資産運用を実現できるという意味だけではないことを覚えておきましょう。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。

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