1. いま聞きたいQ&A
Q

株価などの暴落が発生する仕組みについて教えてください。

大事件後しばらくは暴落と暴騰を繰り返す

1987年の米国におけるブラックマンデー以降、世界の経済や社会を揺るがすような大事件や、それにともなう金融市場の大暴落が目立つようになってきました。90年代には日本のバブル崩壊(90年)やアジア通貨危機(97年)、ヘッジファンドLTCMの破綻(98年)などがあり、2000年の米国ITバブル崩壊、2001年の米国同時多発テロ、2007年のサブプライムローン問題、2008年の世界金融危機と、まさしく頻発の様相を呈しています。

こうした大暴落が「なぜ起こるのか」という理由については、かかわる要因が複雑すぎて、まだよく分からないのが現状です。しかしながら、「どのように起こるのか」という仕組みについては、過去の経済・金融データの分析を通じて、相場推移の傾向や自然現象との類似点などが見つかりつつあります。

たとえば世界的な大事件に際して、株式や為替などの市場は多くの場合、きわめて特徴的な動きを示します。2008年の金融危機において、日経平均株価は10月16日に-11.41%という史上2番目に大きな下落率を記録しました。実はこれを含めて、日経平均株価は10月の1カ月間だけで歴代ワースト10に入る大きな下落率を4度も記録しています。しかし一方では、同じ10月中に+14.15%(14日)や+9.96%(30日)などの大幅な上昇も記録。その後も通常より激しい騰落を繰り返しながら、12月になってようやく8,000円台で小康状態に入ります。

同じような動きは、スターリンの死去(1953年)やブラックマンデー、米国同時多発テロなどの発生時にも見られました。すなわち重大事件に対して、市場はまず暴落というかたちで悲観的な反応を示し、原因や情勢の分析が進むにつれて安心や楽観が広がって、次第に上昇へと転じていきます。ただし、心理的なショックや情報不足などの影響で、市場が冷静な合意を形成するまでには時間がかかるため、下落も上昇も反応が過剰となり、しばらくは短いタイムスパンで暴落と暴騰を繰り返す傾向が強くなるようです。

大暴落は意外と高い確率で発生している

経済物理学という新しい研究分野において、株価など相場の大暴落が、材料の破壊や大地震の発生とよく似たメカニズムで起きることがわかってきました。材料の内部や地殻を構成する岩石には、ゆっくりと継続的に力が加わることで「ひずみ」が蓄積し、それがある限界を超えると材料や地殻の一部に「破壊」が生じます。その部分的な破壊が、周囲の材料や地殻の連鎖的な破壊を誘因し、やがて大規模な破壊が起こるという仕組みです。

株式や為替などの相場では、たとえば資金の流れに影響を与える金利などが、破壊の要因をつくる「ひずみ」に相当すると考えられています。そう言われてみると、確かにうなずけるところが多いのではないでしょうか。記憶に新しいところでは、サブプライムローン問題は住宅ローンの金利を原資として組成された証券化商品が元凶だったし、世界的な金融危機と信用収縮の背景には、通貨間の金利差を利用したキャリー取引の影響も少なからずありました。

相場の大暴落も大地震も、その発生は突然であり、予測が難しいのが特徴です。伝統的な経済学や金融理論では、リスク(価格の変動)を管理するにあたって、左右対称の山型をした「正規分布」という確率モデルを用いています。1998年に破綻したヘッジファンドLTCMが導入した金融工学も、基本的にはこのモデルを発展させたものでした。正規分布の理論によれば、過去20年ほどの間に頻発した大暴落は数十万年に1回という低い確率でしか起こらないことになります。しかし、実際には異常値の発生する確率は意外と高く、むしろ正規分布モデルが現実にそぐわないことが明らかになってきました。

そもそも金融市場には、さまざまな参加者の心理や思惑が日々刻々と変化しながら混在しています。その動きは、大地震の発生メカニズムより複雑かもしれません。今後さらに物理学や数学からのアプローチが進んで、確率モデルや予測モデルの精度は向上していくと思われますが、最終的には人間の振る舞いをどのように扱うかが大きなポイントになりそうです。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。

バックナンバー2009年へ戻る

目次へ戻る