投資情報に惑わされないために知っておきたいこと
長期的な運用成果の8~9割はアセットアロケーション(資産配分)で決まると言われています。投資する銘柄を選んだり、売買タイミングを計ったりすることは、長期的な運用成果の向上にはほとんど寄与しないのです。「いちばんもうかる方法」を探すのではなく、より確実に資産を増やす方法を模索することが大切でしょう。
Q.注目銘柄や売買タイミングの情報は当てにならないのですか?
世の中には投資や資産運用に関する情報があふれかえっています。注目の銘柄や買い時・売り時をレクチャーする内容も数多く見かけますが、これから投資を始める人や投資経験の浅い人は、こうした情報に惑わされない方がいいでしょう。
「まどろっこしい投資のセオリーなどはどうでもいいから、どの商品に投資すればもうかるのか教えてほしい」という意見もあることでしょう。その気持ちはよく分かります。しかし、どれだけ魅力的な銘柄があったとしても、「これさえ買っておけば大丈夫」とは言い切れない理由がいくつかあるのです。
資産運用の世界では、長期的な運用成果の8~9割はアセットアロケーションで決まると言われています。例えば日本株式・外国株式・日本債券・外国債券という4つの代表的なアセットクラス(資産分類)に投資する場合、それぞれに何%ずつ資金を振り向けるかによって、最終的な運用成果は大きく左右されることになります。
この話からは、ひとつの興味深い教訓が得られます。将来有望な銘柄を発掘することや、売買のタイミングを計ることは、長期的な運用成果の向上にはほとんど寄与しないのです。逆に資産配分さえ間違っていなければ、銘柄や売買時期についてはそれほど気にする必要はないと考えられます。
ここで注意したいのは、例えばこれから20年間の運用を行うにあたって、どのような資産配分が最適なのかは誰にも分からないということです。資産配分が重要だとはいっても結局のところ、自分が決めた資産配分が正しかったかどうかは、20年後の運用結果を見てみなければ判断することはできません。
要するに、長期的な資産運用においては銘柄選びも売買タイミングも、そして資産配分も、大して当てにはならないわけです。むしろ、だからこそ「長期・分散・積み立て投資」や「バランス型運用」が重要と言えるのではないでしょうか。これらは銘柄選びや売買タイミング、資産配分の限界を受け入れたうえで、先人がたどり着いた次善の運用策と考えられます。
金融庁が公表しているデータを見てみましょう。1989年以降、国内外の株式と債券に毎月同じ金額ずつ積み立て投資を行うと、いつから投資を始めた場合でも、購入開始から20年間が経過した時点で年率2~8%のリターンが得られています。元本割れのケースは一例もありません。
上記の例では、国内外の株式・債券という4資産にそれぞれ25%ずつの均等投資を行います。仮にある20年間において、日本債券の比率を10%に下げ、外国株式の比率を40%に上げた場合に年率15%のリターンが得られたとしたら、それが結果として最適な資産配分だったと言えるのかもしれません。
しかしながら、そもそも最大限のリターンを狙うことだけが資産運用の目的ではないはずです。「いちばんもうかる方法」を探すのではなく、少なくとも元本割れをできる限り避けながら、より確実に資産を増やす方法を模索することが大切でしょう。
自分の都合を優先して銘柄を選べばいい
株式投資は「美人投票」に似ていると言われます。これは英国の経済学者ジョン・メイナード・ケインズが、投資家の行動パターンを美人投票に見立てたものです。株式投資においては自分が良いと思う銘柄を選ぶよりも、多くの他人が良いと思うであろう銘柄を選んで投資した方が、好ましい投資成果が得られやすいと説いています。
ケインズがこの説を発表した当時の美人投票では、優勝者はもちろん、優勝した候補者に投票した審査員も賞品がもらえたそうです。そのため、審査員は自分の判断基準は脇に置いてでも、多くの審査員から票を集めて優勝しそうな候補者を選ぶことになります。これと同じメカニズムが、株価形成にもあてはまるとケインズは考えたわけです。
今日でも確かにそういう面はありそうです。企業の実力とその評価は本来、業績に集約されるはずですが、必ずしも業績が良い銘柄の株価がそれ相応に上がるとは限らないからです。細かい業績うんぬんよりも、事業の先進性や将来性が多くの投資家から期待を集めて、株価が大きく上昇するケースは珍しくありません。
こうしてみると、どの株式銘柄を選ぶべきかという判断基準も、ある銘柄の株価が上昇する要因も、実はかなり曖昧なのではないかという気がします。実際問題として、3年程度の短期投資ならいざ知らず、20年以上の長期投資においては株式銘柄の有望度など、誰も明確に測ることはできないでしょう。
これから株式投資に挑戦してみようという人や、まだ投資経験の浅い人は、巷(ちまた)の情報や他人の声ではなく、あくまでも自分の都合を優先して銘柄を選ぶべきです。例えば最近は株式分割によって、最低投資金額を低く抑える企業が増えています。まずは投資資金の範囲内で無理なく購入できる銘柄のなかから、自分にとって少しでもなじみのある企業を選んでみてはどうでしょうか。
人様のお金を預かって運用する機関投資家と違って、私たち一般個人はどのような運用をしようと自分の勝手だし、自由です。他人がどのような運用を行って、どれだけもうかっていようと気にする必要はありません。見聞きする情報も、投資や資産運用への知見を深めるという意味においてのみ活用すべきであり、実際の投資行動にはほとんど参考にならないと割り切る態度が必要だと思います。