為替ヘッジ(回避)の有無は、運用する期間や資産で判断を
外国資産で運用する投資信託のなかには、為替ヘッジを行うコースが用意されているものもあります。為替変動の影響をほとんど受けなくなるため、これから円高進行が予想されるような局面では便利ですが、為替ヘッジには相応のコストがかかります。運用する期間や資産の種類に合わせて、コースを選択することが大切です。
Q.外国資産で運用する場合、今後は為替ヘッジを行った方がいいのですか?
いま日本の投資信託で大きな人気を呼んでいるのが、外国株式で運用する商品です。今年(2024年)1月17日時点の純資産残高ランキングをみると、トップ10のうち6本が米国株で運用する投信、残り4本が世界株(日本を含む)で運用する投信となっています。
これら10本はいずれも運用が為替変動の影響を受ける「為替ヘッジなし」のタイプですが、半数の5本については「為替ヘッジあり」のコースも用意されています。為替ヘッジとは、運用から為替変動の影響を取り除く手段のことです。
私たちが外国資産で運用する場合、為替が円安に動くと利益が出る一方で、円高に動くと損失につながります。今年1月17日時点の円ドル為替レートは1ドル=147円台ですが、3年前の2021年1月には1ドル=103円程度で推移していたため、過去3年間で大幅に円安が進んだことになります。10年前の2014年1月も平均で1ドル=104円程度だったため、過去10年間でみても基本的に円安の流れは変わりません。
これだけ円安が進むと、外国株式投信では当然のことながら為替ヘッジなしコースの方が運用成績は良くなります。例えば成長期待が大きい米国株でアクティブ運用を行う『アライアンス・バーンスタイン・米国成長株投信』の年1回決算タイプは、Aコースが為替ヘッジあり、Bコースが為替ヘッジなしで、過去の収益率はそれぞれ以下のようになっています。
*いずれも2023年12月末時点のトータルリターン(分配金は再投資、信託報酬は控除済み)、年率表示。
今年はFRB(米連邦準備理事会)による利下げや、日銀によるマイナス金利の解除が予想されており、日米金利差の縮小を通じて為替が円高に動く可能性も考えられます。これから外国資産で運用する場合には、為替ヘッジありコースを選んだ方がいいようにも思えますが、ひとつ注意しておきたいことがあります。為替ヘッジにはコストがかかるのです。
2国間の短期金利差が為替ヘッジコストとしてかかる
為替ヘッジでは「為替予約」という手法を用いて、将来の換金時における為替レートを固定するのが一般的です。外国株式投信などの運用会社が為替ヘッジを行う場合は、1カ月や3カ月といった短期で為替予約の契約を結び、それを随時更新していくことになります。
話を分かりやすくするために、為替レートが「1ドル=147円」の時に1ドル(147円)を米国株に投資し、1年後に同じく「1ドル=147円」で米国株を換金して、円を買い戻す為替予約を行ったと仮定してみましょう。為替予約では、日本と相手国(この場合は米国)の短期金利にしたがって、円と相手国通貨(この場合は米ドル)でそれぞれ一定期間、運用した場合の収支が同じになるようにレートが調整されます。
短期金利は各国の政策金利に準じるため、日本の短期金利を0%と考えると、投資した147円は1年後もそのままです。ところが米国の短期金利は5.25%程度なので、投資時の1ドルは1年後には1.0525ドルまで増える計算となります。1年後の換金時には「147円÷1.0525ドル=約139.7円」しか戻ってこないため、為替予約には結果として約7.3円分のコストがかかるわけです。
147円に対して7.3円は約5%に相当します。このように日本より金利が高い国の資産で運用する場合の為替ヘッジには、おおむね2国間の短期金利差がコストとしてかかってきます。逆にいうと2国間の短期金利差がゼロに近ければ、ヘッジコストはほとんどかかりません。実際に2020年春から約2年間は、米国もコロナ禍対応として事実上のゼロ金利政策を導入していたため、米ドルのヘッジコストは年率換算で1%を下回っていました。
これからFRBが利下げを行い、日銀がマイナス金利の解除に動くと、日米の短期金利差が縮小して米ドルのヘッジコストは低下に向かいます。ただ、それでもしばらくは一定程度のコストがかかってくると考えられるため、投信で為替ヘッジありコースの選択を検討する際には、運用する期間や外国資産の種類に合わせて判断することが大切です。
若年層や現役世代など運用期間を長期で設定できる人は、為替ヘッジなしコースを選ぶのが基本となります。外国資産で運用する目的のひとつに、将来的な円の価値低下に備えた「保有通貨の分散」がありますが、為替ヘッジを行うとその意義が失われてしまうからです。為替変動リスクは積み立て投資など、購入時期の分散によっても軽減できるので、余計なコストをかけずに対処することが可能です。
高齢層や近い将来の資金使途が決まっている人のなかには、5年程度の比較的短期間で安定したリターンを実現するため、外国債券投信の為替ヘッジありコースを検討するケースも多いかもしれません。しかしながら、外国債券投信は元々の期待リターンが相対的に低いため、為替ヘッジコストによって運用実績がマイナスになっている事例も見受けられます。
短期的な収益を重視する人や、どうしても円高の影響を避けたいという人が為替ヘッジありコースを選択する場合でも、為替ヘッジコストが十分に低下するまで当面の間は、外国株式や外国REIT(不動産投資信託)、新興国の高利回り債券など期待リターンが高い資産で運用するタイプの投信に限定して考えた方がいいかもしれません。