いま聞きたいQ&A

投資信託の運用成果は、事前に分からないという認識を

投資信託を選ぶにあたっては、各商品を比較・検討する段階で「分かる内容」と「分からない内容」があります。投資家にとって肝心かなめの将来的な運用成果は、事前に分からない商品スペックといえます。分からないなりに、どのような商品選びのアプローチが可能なのか、株式投資信託を例にとって考えてみましょう。

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Q.投資信託はどのような観点で選べばいいのですか?

2024年から始まる新NISA(少額投資非課税制度)では、「つみたて投資枠」はもちろん「成長投資枠」においても、投資信託がメインの投資対象として注目されています。実際の運用をプロにお任せできる利便性と、100円や1000円といった少額から積み立て投資を行える手軽さは、特に投資経験の浅い資産形成層にとって大きなメリットといえるでしょう。

問題があるとすれば、選択肢となる投資信託の商品数が非常に多いことです。新NISAが始まる時点で、つみたて投資枠には200本以上、成長投資枠には約2000本の対象商品が用意される見込みです。個人が新NISAの専用口座を開く金融機関によって取り扱う投資信託の数は異なるため、一概にはいえませんが、具体的な商品選びには結構多くの人が頭を悩ますことになるかもしれません。

そもそも私たちは、どのような観点で投資信託を選べばいいのでしょうか。投資信託のタイプは、指数への連動をめざすインデックス型と、ファンドマネジャーと呼ばれる投資のプロが自らの判断で銘柄を売買するアクティブ型の2つに大別されます。いずれについても私たちが各商品を比較・検討しながら選ぼうとする段階で、分かる内容と分からない内容があることを、はっきり認識しておくことが大切です。

事前に分かる投資信託の商品スペックとして注目したいのが、信託報酬と純資産残高です。信託報酬は運用にかかるコストを、純資産残高は運用の規模をそれぞれ表します。これらに関しては、ひとつ参考になりそうな目安があります。

現行のつみたてNISA(24年からつみたて投資枠に移行)では、長期の資産運用に適する投資信託として、金融庁が対象となる商品にいくつかの選定条件を課しています。例えばアクティブ型の投資信託では、「信託報酬が一定水準以下」「純資産残高が50億円以上」などが条件となっています。

投資家にとって信託報酬は運用期間中、毎年かかってくるコストなので、低ければ低いに越したことはありません。純資産残高が小さすぎると投資信託の総経費率(∗)が上昇したり、運用の継続に支障が出る可能性があるため、一定以上の規模があった方が安心です。

すなわち、私たちがどのようなタイプの投資信託を選ぶにあたっても、できるだけ信託報酬が低く、できるだけ純資産残高の大きい商品を選ぶことが基本になるわけです。

(∗)総経費率:信託報酬以外のコストも含めた「運用の総経費」を純資産残高で割った値

どの指数を選ぶべきか分からないなら全部に投資する

一方で、投資信託の将来的な運用成果は、最も重要な内容であるにもかかわらず、事前に分からない商品スペックといえます。

インデックス型の株式投資信託では、連動をめざす株価指数が同じならば、どの商品でもコストを除いた運用成果にそれほど違いは生じません。そのため私たちがインデックス型の株式投資信託を選ぶ場合には、「どの株価指数を選ぶか」が大きなポイントとなります。

例えば米国のS&P500種株価指数は過去15年近くにわたって上昇基調にありますが、2000年~09年の10年間では騰落率がマイナスでした。当時はリーマン・ショックという非常事態が影響したとはいえ、今後もこうした停滞期が訪れないとは限りません。これから20~30年の長期にわたって株価指数連動型の運用を行う場合に、選ぶべきは米国株なのか日本株なのか、あるいは新興国株なのか、誰にも分からないのが現実なのです。

その意味では、いささか消極的ではあるものの、どうせ分からないなら全部に投資しておくというアプローチが合理的といえそうです。インデックス型の株式投資信託については、「日本を含む先進国から新興国まで世界全体をカバーする株価指数」への連動をめざすタイプの商品が、有力な選択肢のひとつになると考えられます。

アクティブ型の株式投資信託では、私たちは実際の運用をファンドマネジャーの腕に託すことになります。残念ながら、これから20~30年にわたって上手に運用してくれるファンドマネジャーを正確に見抜くことはできません。もちろん過去の運用実績が参考にはなりますが、本当に運用の腕が優れていたのか、あるいは偶然に左右された部分も大きいのか、数字を見るだけの「定量評価」では判別できないからです。

運用のうまさを検証するためには、ファンドマネジャーが過去にどのようなタイミングで、どのような株式銘柄の売買を行ったのかという「定性評価」が必要になります。一般個人がそんな検証をすることは困難だし、たとえ検証できたとしても、例えば過去10年でうまくいった運用が今後の20~30年でも再現されるという保証はありません。

これらを踏まえてアクティブ型の株式投資信託を選ぶポイントを挙げるとしたら、「過去の運用実績ができるだけ長期間にわたって当該市場の株価指数を上回っていること」となります。過去のさまざまな投資環境に対応しながら、市場の平均値といわれる株価指数を安定的に上回る運用が実現できていれば、今後の再現性もそれなりに高いと期待が持てるからです。

いずれにしても、アクティブ型の株式投資信託がどのような運用を行うかについては、一般個人にとっていわばブラックボックスです。投資経験の浅い人が少しでも分かりやすさを求めるなら、組入銘柄の情報を入手しやすい日本株に投資するタイプの商品が、最初の選択肢としてふさわしいのではないでしょうか。

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