投資のリスクは、リターンとの関係によって定義されている
投資においては「リスク」や「リターン」という言葉が、私たちの日常的な感覚とは異なる意味で使われています。投資のリスクとは、元本が損なわれるか否かにかかわらず、結果として将来的に得られるリターンが大小にぶれることを指します。まずはこうしたリスクとリターンの関係をきちんと整理することが大切です。
Q.投資のリスクについて分かりやすく教えてください。
「リスク」という言葉を私たちが日常生活で使うとき、そこには「危険(危険度)」や「損害を受ける可能性」といった意味が込められています。これらをそのまま投資に当てはめれば、投資のリスクは「元本を損なう恐れ」を指すことになります。
そのせいでしょうか。初心者など投資に不慣れな人たちは、相対的にリスクが大きいと言われる株式に対して、他の金融商品よりも元本を大きく損なう可能性が高い、つまりは大きな損失を被りやすいというイメージを抱きがちです。
こうした印象は間違いとは言い切れないものの、リスクについての理解としては正しくありません。投資のリスクとは「将来的に得られるリターンが大小にぶれること」、あるいはその「ぶれ幅」を指すからです。
ちなみに投資のリターンとは、「投資の結果として生じる損益」を意味します。投資成果がプラス(収益)の場合だけでなく、マイナス(損失)の場合もリターンに含まれ、「マイナスのリターン」と呼ばれます。
投資のリスクは、いわばリターンとの関係によって定義されているわけですが、これは日常的な感覚とは大きく異なるため、何だかふに落ちないという人も多いかもしれません。分かりやすい例として、国債に投資する場合と、株式や投資信託に投資する場合を比べながら、それぞれのリスクについて考えてみましょう。
私たちが国債を購入して満期まで持ち続けると、最初に決められた利率にしたがって毎年一定の金利収入を受け取ることができ、償還時には元本も戻ってきます。国債を発行した国が破綻した場合には、金利が受け取れなくなったり、元本が戻ってこなくなる可能性もありますが、日本や米国などの先進国が破綻することは一般論としてほぼ考えられません。
日本や米国が発行した国債は、私たちがそれらを購入した時点で「満期まで持ち続けた場合のリターン」が確定し、償還時には実際にそのリターンが得られることになります。当初に見込んだリターンの大きさが最終的に変わるようなことはありません。
日本や米国の国債は「無リスク資産」と呼ばれています。その理由について「事実上、元本が保証された安全資産だから」という説明も見かけますが、投資におけるリスクとリターンの関係からすると、この説明は不十分です。正確には、将来的に得られるリターンが大小にぶれないからこそ、日本や米国の国債は「リスクが無い」と言えるのです。
なお、これは固定金利の国債に限った話です。日本の「個人向け国債」には、固定金利タイプに加えて変動金利タイプも用意されており、世の中の金利動向に合わせて半年ごとに利率を見直す決まりになっています。運用の途中で利率が変更されれば、将来的なリターンは変わってくるため、変動金利タイプにはリスクがあることになります。
実際のリターンが平均リターンからどの程度ぶれるか
私たちが株式や投資信託を購入した場合は、例えば3年後のリターンがプラス30%になるのか、プラス5%になるのか、はたまたマイナス20%になるのか、まったく分からないのが現実です。リターンがマイナス20%ならば元本割れですが、プラス5%なら元本は割れていません。それでもプラス30%になる可能性があったのだとしたら、結果としてリターンはかなり小さくなったと考えられます。
このように、元本が損なわれるか否かにかかわらず、結果として得られるリターンが大小にぶれることが株式や投資信託のリスクなのです。株式のリスクが大きいと言われるのは、他の金融商品に比べてリターンのぶれ幅が大きいからです。
ところで投資のリスクの大きさは、どのようにして割り出されるのでしょうか。まず、さまざまな金融商品について過去のデータを検証し、例えば1年間や3年間など一定の期間中に得られた「リターンの平均値」を求めます。次に、リターンの平均値から見て、過去に記録された「実際のリターン」が大小にどれぐらいぶれていたかを検証し、そのぶれ幅についても平均値を求めます。それを「標準偏差」という統計的な数値で表したものが、各金融商品のリスクとなります。
標準偏差が小さい金融商品では、過去に記録された実際のリターンが、平均リターンの周辺に多く存在していることになります。この金融商品に投資した場合には、将来的に得られるリターンがおおむね平均値に近くなると考えられます。
反対に標準偏差が大きい金融商品では、過去に記録された実際のリターンが、平均リターンから遠く離れたケースが多く存在することになります。この金融商品に投資した場合には、将来的に得られるリターンが平均値を大きく上回る可能性も比較的高いし、逆に平均値を大きく下回る可能性も比較的高いと考えられるわけです。