いよいよ日銀も政策転換、円安は最終局面へ
歴史的な円安の主因となっていた米欧による利上げと日銀の金融緩和政策が、いずれも近いうちに転換へ向かいそうです。2024年は円高が進むと予想され、その度合いによっては日本株相場への影響も気になりますが、需給面の変化がブレーキ役となって、もはや極端な円高は考えにくいのが実情のようです。
Q.歴史的な円安に変化の兆しはあるのでしょうか?
外国為替市場では相変わらず円安傾向が続いています。対米ドルでは今年(2023年)11月13日に一時1ドル=151円91銭を付けて、あと一歩で33年ぶりの円安というレベルまで迫りました。対ユーロでも11月15日に一時1ユーロ=164円30銭を付け、15年ぶりの円安水準となっています。
ただし、こうした歴史的な円安も最終局面に近付いているという見方が広がっています。要因は大きく分けて2つあり、ひとつは米国やユーロ圏が近いうちに利上げから利下げに転じそうなこと。もうひとつは、これまでかたくなに金融緩和を続けてきた日銀が、いよいよ政策転換に乗り出しそうな点です。
米国ではここにきて雇用市場の弱さを示すデータが相次いでいるうえ、11月14日に発表された10月の消費者物価指数(CPI)上昇率が市場予想を下回り、インフレ鈍化が鮮明になってきました。市場は「FRB(米連邦準備理事会)の利上げが終了した」との確信を強め、24年半ばにも利下げに転じると見る向きが増えています。
ユーロ圏では米国と同様にインフレが鈍化する一方、ドイツで7~9月の実質国内総生産(GDP)改定値がマイナス成長となるなど、景気の落ち込みが目立ちます。米国に比べると圏内の経済が全体的に弱いことから、「ECB(欧州中央銀行)はFRBに先んじて利下げに踏み切る」と予測する市場関係者が多いようです。
日銀は10月31日の金融政策決定会合で、長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)の再修正を決めました。長期金利の上限のめどを従来の0.5%程度から1%に引き上げ、今後は1%を一定程度超えることを容認します。
イールドカーブ・コントロールは、日銀が短期金利と長期金利の両方を目標の水準に誘導する金融緩和の枠組みです。短期金利(当座預金の一部に適用する金利)をマイナス0.1%、長期金利の誘導目標をゼロ%程度とし、金利を抑え込む手段として市場から大量の国債を購入しています。
今回の修正により長期金利の厳格な上限がなくなったことで、市場では日銀が今後、金融政策の本丸である短期金利に手を付けるとの見通しが強まってきました。すなわち、マイナス金利政策の解除です。
日銀がマイナス金利を解除する2つの条件
マイナス金利の解除を巡っては、新型コロナウイルス禍で生じた2つの“ねじれ”の解消がカギを握るといわれています。
ひとつは「物価と賃金のアンバランス」です。日本の消費者物価指数(生鮮食品を除く=コアCPI)上昇率は今年10月まで、19カ月連続で日銀が物価目標とする2%を上回っています。一方で、賃金上昇分から物価上昇分を差し引いた実質賃金は今年9月まで18カ月連続のマイナスであり、物価上昇に賃金上昇が追いついていません(コアCPIと実質賃金は前年同月比)。
もうひとつのねじれは、エネルギーや穀物など原材料輸入価格の高騰によって生じた「輸入物価と輸出物価のアンバランス」です。日銀の企業物価指数によると、21年春から23年春にかけて輸入物価の上昇率が輸出物価の上昇率を上回る状態が続きました。現在は正常化したものの、このところ中東情勢が深刻化しており、北半球の冬場の需要期に向けて原油などの資源価格が再び急騰する恐れもあります。
こうした懸念材料が解消されれば、日銀は政策転換に動きやすくなります。特に日銀が賃金動向を注視していることから、マイナス金利の解除時期は早くても24年4月という説が有力です。4月であれば春季労使交渉による賃上げ率が大筋で把握できているうえに、日銀が中期的な経済・物価見通しをリポートにまとめて公表する「経済・物価情勢の展望」で最新の物価見通しを示せるからです。
大幅な利上げで日本との金利差を広げてきた米欧が利下げに向かい、長らく動かなかった日銀が本格的な金融引き締めに乗り出すと、これまでの円安傾向が円高傾向に転じる可能性は大きいでしょう。ある市場関係者は日米金融政策の変化を踏まえたうえで、24年の前半は140~150円、後半は1ドル=130~140円のレンジへと緩やかに円高が進んでいくと予想しています。
円高によって懸念されるのは株式市場への影響です。日経平均株価は今年11月20日に一時3万3853円台を付け、33年ぶりの高値水準となりました。3月期決算企業の4~9月期決算発表が一巡し、業績の堅調な改善ぶりが投資家から評価された格好ですが、日経平均株価を構成する主要77社について営業利益の増加額をみると、実はその半分が円安による押し上げ効果となっています。
以前から海外投資家の間では、「為替の影響を除いた日本企業の実質的な業績を知りたい」という声が多く聞かれます。円高が想定以上に進んだ場合、株価の足を引っ張ることにもなりかねません。
円相場を動かす基本的な要因として、内外金利差以外にもうひとつ、貿易や海外投資に伴うお金のやり取りがあります。日本企業が海外で稼いだ利益は、円に戻すことなく外貨のまま、成長市場である海外への投資に使われるケースが増えてきました。近年では米国企業が日本市場でインターネット広告やクラウドサービス、経営コンサルティングなどのシェアを拡大し、円資金の国外流出も膨らんでいます。
こうした需給面の変化は、24年以降に円高反転が進んだとしても、それに一定程度のブレーキをかける役割を果たしそうです。もはや極端な円高は考えにくいのが実情ならば、株式投資家もそれほど神経質になる必要はないのかもしれません。