先行きが見えないなら、運用資産の中身を点検する1年に
米欧の利上げはどこまで続くのか、世界経済はリセッション(景気後退)に陥るのか――。さまざまな臆測が飛び交うなか、2023年の株式市場は値動きの荒い展開が予想されます。一方で債券の収益性が高まるなど、昨年までとは異なる投資環境も見えてきました。それらを参考に、運用資産の中身を点検してみるのも一考です。
Q.今年の株式市場はどのような展開になりそうですか?
ここにきて、世界経済がリセッションに陥る可能性が高いという報道が増えてきました。背景には米欧の中央銀行が昨年来、物価の高騰にブレーキをかけるために大幅な利上げを続けてきた影響があります。OECD(経済協力開発機構)が22年11月に発表した世界経済見通しでは、米国とユーロ圏の今年(23年)の経済成長率はともに0.5%と、ほぼゼロ成長に近い予想となっています。
米国では今年1月に発表された「ニューヨーク連銀製造業景況指数」や、22年12月の「小売売上高」「鉱工業生産」といった経済指標が、軒並み市場予想を下回って前月比マイナスを記録しました。米ダウ工業株30種平均は1月17日から19日にかけて1258ドル(3.7%)下落するなど、年初から荒い値動きとなっており、投資家のリセッションに対する警戒感がうかがえます。
とはいっても、まだ米国の景気後退が確定したわけではありません。ここから先の見通しについては、市場でさまざまな臆測が飛び交っており、よく分からないのが実情でしょう。
市場関係者の意見を総合すると、FRB(米連邦準備理事会)は少なくとも今年前半いっぱいはペースを緩めながらも追加の利上げを実施し、その後もインフレ抑制に確信が持てるまで金融引き締め政策を維持する可能性が高いようです。その過程で米国の景気後退は避けられないと予想して、「今や問題は景気の谷が深くなるか、浅くて済むかだ」(米紙ウォール・ストリート・ジャーナル)といった見解も出てきています。
一方で、すでにインフレの頭打ち感が強いため、FRBは政策金利を5%程度まで引き上げた後、利下げに転じるという見方も根強くあります。これは利上げ継続によって米国景気の減速感がいっそう強まるため、今年の後半には「利上げ不況対策」として利下げ転換を余儀なくされるというもの。いわばFRBがインフレ退治に手心を加えるだろうという見立てですが、どちらかというと市場の希望的観測としての側面が大きいような気がします。
欧州株については、22年11月ごろから上昇基調が目立ちます。例えば欧州の主要600社で構成される「ストックス欧州600指数」や英国の「FTSE100種総合株価指数」は、このところ過去最高値に迫るレベルで推移しています。記録的な暖冬によって天然ガス価格が下落し、ユーロ圏や英国でインフレの上昇ペースが鈍化したことが、株式市場にはプラスに働いた格好です。
ただし、欧州ではドイツや英国などを中心にストライキが頻発するなど賃金上昇圧力が強まっており、ECB(欧州中央銀行)もいまだに大幅な利上げ方針を変えていません。米国と同様に欧州でも、インフレ退治は一筋縄では行かないもようです。
利上げの効果(インフレ抑制)と景気動向がある程度はっきりするまでは、投資家の楽観と悲観が交錯して、米欧の株式市場はボラティリティ(価格変動率)の高い展開が予想されます。その影響は日本株にも及ぶと考えられ、個人投資家はもちろん、機関投資家にとっても今年は株式の取り扱いが難しい1年となりそうです。
投資適格債はリセッションに強いのが特徴
そんななか、債券の投資魅力が高まってきたという指摘があります。ソブリン債(各国の政府や政府関係機関が発行する債券)や高格付け社債などの投資適格債は、特に景気後退局面において価格が上がりやすく、リセッションに強い資産と言われています。
米10年国債のトータルリターン(金利収入と価格変動を合わせた収益)は、22年がマイナス17.83%、21年もマイナス4.42%でした。ニューヨーク大学のアスワス・ダモダラン教授のデータによると、1928年以来、米10年国債のトータルリターンが2年連続でマイナスを記録したのは今回の事例を含めて3回しかなく、3年連続のマイナスは一度もありません。
米国債の利回りと米国株の益回りを比較したデータからは、米国債が過去10年間で最割安圏にあることも確認できます。つまり、ここ数年で米国債は売られ過ぎており、リセッションへの警戒感が強まるにつれて、大きな反発が期待できるというわけです。今年は米国債をはじめとする投資適格債が、グローバル株式を上回るリターンをもたらすと予測する専門家もいます。
株式関連では、アクティブ運用に注目すべきだという意見もあります。金利上昇や景気後退の局面では、企業業績が悪化するなかで、コスト対応などに企業経営の巧拙が表れやすいと言われます。すなわち、株式投資においては銘柄選別が重要になるわけです。
日本でも昨年12月に日銀が、長期金利の変動許容幅を従来のプラスマイナス0.25%程度からプラスマイナス0.5%程度へ拡大して、事実上の利上げに踏み出しました。これを受けて今年1月6日、長期金利は約7年半ぶりに0.5%まで上昇しています。これまで超低金利の事業環境に胡坐(あぐら)をかいてきた企業は今後、金利上昇に伴って淘汰されていくかもしれません。
どのみち先行きが見通しにくいのなら、今年は「運用資産の中身を点検する1年」と割り切ってしまう手もありそうです。例えば資産では外国株に、投資手法ではインデックス運用に偏っているような人は、国内外の債券やアクティブ型株式投信に目を向けてみるのも一考ではないでしょうか。