“タイパ的”に見合わない思考プロセスが投資では重要になる
投資の初心者が多い若年層を中心に、日本の個人には米国株中心の運用を志向するケースが目立ちます。そこには米国株の成長性が相対的に高いという実績に加えて、リターンという結果を手っ取り早く求めたがる心理も見え隠れします。いまこそ私たちは、投資という行為の意味をじっくり考えてみるべきかもしれません。
Q.米国株に偏った投資の背景として、どのような要因が考えられますか?
ここ数年、日本の個人の資産運用における顕著な傾向として、「米国株への投資偏重」が挙げられます。なかでも投資の初心者が多い20~30歳代の若年層で、その傾向が特に強いと言われています。
歴史的なインフレと、それを抑えるための利上げの影響から、長年にわたり上昇相場が続いた米国株もさすがに今年(2022年)は調整局面が目立つようになりました。それでも「長期で米国株は成長し続けているので価格は気にしない」と、米国の株価指数に連動する投資信託を積み立てるなど、米国株中心の運用を志向する人が多いようです。
リーマン・ショックや新型コロナウイルス禍など、さまざまな危機を乗り越えて米国の経済と企業は成長を続けており、そうした過去の実績に信頼を寄せる姿勢には、それなりの説得力があることも確かです。一方で、日本の若年層がコスパはもちろん“タイパ”(タイム・パフォーマンス)も重視するという話を聞くにつけ、危うさを感じてしまうのも正直なところです。
例えば分散投資という考え方の要諦は、値動きの性質が異なる(相関性が低い)複数の資産を同時に保有することで、資産全体として価格変動率を平均化するところにあります。極論するならば、さまざまな投資環境において「価格が上昇しやすい資産」と「価格が下落しやすい資産」をあえて同居させることにより、将来的にどのような投資環境になっても一定の運用益が期待できるような、柔軟性の高い資産構成をつくっておくわけです。
こうした考え方は若年層にとって、コスパ的にもタイパ的にも「無駄」に映るのかもしれません。過去に大きな相場の下落を経験していないため、わざわざ現時点でリターンが見劣りする他の資産を取り入れてまで、分散投資を行うことの意義が実感できないという事情もあるでしょう。しかしそれ以上に、何かにつけて結果や結論を手っ取り早く欲しがる心理が影響しているのだとしたら、ゆゆしき問題といえます。
レバレッジ型投資は「もみあい相場」でも損失が出やすい
実は今年、そうした危惧を抱かせるような事例がありました。「レバレッジ型」と呼ばれる種類の投資信託のうち、特に日本の個人の間で人気が高かった、米国ナスダック100株価指数に連動するタイプの基準価額が大きく下落したのです。
ナスダック100指数は、構成銘柄が2000超のナスダック総合指数から金融セクターを除いたうえで、時価総額と流動性が高い100銘柄程度をピックアップして構成される株価指数です。騰落率は19年末~21年末の2年間で85%超のプラスを記録しましたが、今年は30%近いマイナスとなっています(11月28日時点)。
レバレッジ型の投資信託では2倍や3倍などの倍率を設定してレバレッジ(てこの原理)を効かせ、連動する株価指数などの値動きに対して、基準価額が2倍や3倍の値動きをする仕組みになっています。すなわちレバレッジ型の投資信託に投資すれば、単純にいって株価指数の上昇率の2倍や3倍といった大きなリターンが期待できるわけです。
ところが株価指数が下落する局面では、基準価額の下落率も株価指数の2倍や3倍となるため、損失は大きく膨らむこととなります。しかも、株価指数が下落と上昇を繰り返すような、いわゆる「もみあい相場」においても損失が出やすいという特徴があります。
例えば2倍のレバレッジをかけたケースについて考えてみましょう。ある日に、指数の値が10000から8000に下がったとします。これは20%の下落率にあたるので、投資信託の基準価額は2倍の40%下落します。当初の基準価額が1万円だったとすれば、6000円まで下がるわけです。
翌日に指数の値が8000から10000に戻った場合、これは25%の上昇率にあたるので、基準価額は2倍の50%上昇して、6000円から9000円になります。指数が2日間で当初の値を回復し、騰落率が±0%なのに対して、基準価額の騰落率はマイナス10%です。このように、レバレッジ型の投資信託では基準価額がいったん大きく下落すると、その後にかなり大きな上昇を記録しない限り、損失を取り戻すのが難しくなるのです。
果たしてどれだけの人が、こうしたレバレッジ型の商品特性をきちんと理解していたのでしょうか。そもそもレバレッジをかけるということは、資産の中身(米国企業)の成長性に期待するというよりも、価格の動きそのものに資金を投じる側面が大きいわけで、投資ではなくギャンブルに近いと言えそうです。
もちろん、米国株への偏重投資とレバレッジ型の投資を同列で語ることはできません。しかしながら、若年層を中心に米国株信仰が強い日本の個人にとって、これはひとつの教訓になると思うのです。
手っ取り早く結果(リターン)を求める前に、さまざまな角度から投資という行為の意味を考え、最低限のセオリーや自分なりの解釈能力を身につける――。そうした非常に面倒な、まさしく“タイパ的”に見合わない思考プロセスこそが投資においては重要であることを、できるだけ多くの人に理解してほしいものです。