「当たりか外れか」にお金を投じる行為は投機的である
投資と投機はそれぞれについてさまざまな解釈が可能なため、明確に区別するのは難しいのが現実です。「何にお金を投じるのか」「リターンの原資は何なのか」といった点に注目してみましょう。自分では投資だと思っていた行為が、実は限りなく投機に近かったなど、意外な気付きが得られるかもしれません。
Q.投資と投機の違いは何によって判断すればいいですか?
「投資」と「投機」の違いを考えるにあたって、ここでは(1)何にお金を投じる行為か(2)何がリターンの原資になるのか――という2点に注目しながら話を進めてみたいと思います。
まずは一般に投機の代表格といわれる、宝くじや競馬などのギャンブルについて考えます。
私たちが払い戻し(リターン)を得られるのは、宝くじでは購入した番号が「当選した場合」であり、競馬では購入した馬券が「的中した場合」です。宝くじは抽せんによって決まり、競馬はレース結果によって決まるという違いはあるものの、購入した宝くじや馬券が運営者(胴元)の提示した条件に合致すれば「当たり」になるという点では同じです。
すなわちギャンブルとは、決められた条件に合致する「当たり」を引くか、あるいは合致しない「外れ」を引くかのどちらかにお金を投じる行為を指すわけです。外れを引いた場合には、投じたお金はゼロになってしまいます。
リターンの原資が限定されていることも、ギャンブルの特徴のひとつです。宝くじでは、当選金として当選者に支払われる金額は売り上げ全体の46.2%に過ぎません。残りの53.8%は公共事業費や印刷代、販売手数料、広報費などに使用されています(2021年度実績、宝くじ公式サイトより)。
ギャンブルの売上金のうち、参加者へ還元せずに運営者が自ら取得する割合のことを「控除率」と言います。宝くじでは控除率が53.8%なので、運営者によって売上金から半分以上が差し引かれた後に、残りが当選者へ分配されていることになります。競馬では馬券の種類によって20.0~30.0%と控除率が異なり、売り上げ全体の70~80%が的中者に分配されます。
次に、株式投資について考えてみましょう。
私たちが株式投資によって得られるリターンには、大きく分けて配当(インカムゲイン)と売買差益(キャピタルゲイン)の2種類があります。いずれも基本的には企業の利益成長に応じて大きくなる傾向があることから、株式投資は将来的な「企業価値の向上」にお金を投じる行為と言うことができます。
例えば配当に着目すると、企業が純利益(税引き後の利益)のうち、何パーセントを配当の支払いに充てるかを示す指標を「配当性向」と言います。いま仮に純利益が50億円、配当性向が30%の企業があったとすると、15億円が配当として株主に支払われる計算です。
純利益が3年後に100億円、5年後に150億円まで増えたら、どうなるでしょうか。配当性向が当初の30%のままでも、配当に回される金額は3年後が30億円、5年後が45億円という具合に増えていきます。企業が投資家への利益還元を重視して、配当性向が3年後に50%、5年後に60%とアップした場合には、配当に回される金額は3年後が50億円、5年後には90億円まで増えることになります。
このように配当性向がそのままでも純利益が増えるか、あるいは純利益と配当性向の両方が増えると、株主にとってのリターンの原資はどんどん大きくなっていきます。株式投資では、そこに株価変動による売買差益も加わることになるため、株価が上昇を続ける限り、期待できるリターンは無限に拡大する可能性があるわけです。
株価変動を追いかけると株式投資は投機的になる
注意したいのは、自分では投資を行っているつもりでも、知らず知らずのうちに投機的なスタンスになっている場合があることです。
例えば、ある銘柄の株価が上昇し始めたのを見て、さしたる根拠もなく「もっと株価は上がりそうだ」と考えて自分も購入に走るケース。そこでは企業価値の向上ではなく、株価変動そのものにお金を投じることになるため、思惑どおりに株価がこれから上昇するか、あるいは下落するかという、いわば「当たりか外れか」の勝負になってしまいます。これではギャンブルと、さほど変わらないでしょう。
同じような意味合いで投機的なのが、外国為替取引です。FX(外国為替証拠金取引)などを用いて、2つの通貨間の金利差をリターンとして得る方法もありますが、外国為替取引は基本的に「ある通貨の相対的な価値が、これから上がるか下がるか」にお金を投じる行為です。
投資家Aがある為替レートで円を買って米ドルを売った場合、市場のどこかに同じ為替レートで同じ金額だけ円を売って米ドルを買った投資家Bがいることになります。その後に円安が進むと、投資家Aは為替差損を被りますが、投資家Bは同じ金額だけ為替差益を得ます。つまりは投資家Aと投資家Bのどちらが「当たりか外れか」を競う勝負なのです。
株式投資も外国為替取引も、企業の倒産や国家の破綻など一部の例外を除いて、最初に投じたお金がゼロになることはほとんどありません。その点ではギャンブルとは異なりますが、「何にお金を投じるのか」という観点から見ると、場合によっては株式投資が投機的になることもあるし、外国為替取引はもともと投機的な色合いが濃いと言えるわけです。