• いま聞きたいQ&A
  • 株式投資は自分に執着しすぎても、周囲に流されすぎてもダメ
いま聞きたいQ&A

株式投資は自分に執着しすぎても、周囲に流されすぎてもダメ

保有銘柄の株価が下落した際などに、人は心理的な落とし穴にはまりやすいようです。銘柄の将来性に疑問を感じているのに、損切りに踏み切れなかったり、悪材料がないのに慌てて売ってしまったり――。自分の心理と向き合い、コントロールできるかどうかが、株式投資の成否を左右するポイントなのかもしれません。

メインビジュアル

Q.株式投資で失敗しやすい人の傾向を教えてください。

株式投資で失敗しやすい人は、心理的な落とし穴にはまって投資判断を誤る傾向が強いと言われています。例えば、こんなケース。

――新型コロナウイルス禍で社会環境が変化し、企業に対する世の中のニーズも変化した結果、保有銘柄の株価は買値を下回るところまで下落した。そこであきらめきれずに保有を続けたところ、株価はさらに大きく下がってしまった。――

株価が下がって含み損(投資の途中経過としての損失)を抱えたとき、その銘柄に見切りをつけて売却する「損切り」という方法があります。上記のケースでは、コロナ禍によって企業を取り巻く環境が変化したのだから、その銘柄を今後も保有し続けるべきかどうか、検討の必要があることを投資家は理解していました。しかし結局は損切りに踏み切れなかったわけです。

損切りを実行するのは、誰にとっても簡単なことではありません。むしろ多くの人が「もう少し待てば株価が買値あたりまで戻るのではないか」と思い、売却をためらいがちです。

そこには私たち人間の心理が影響しています。心理学を経済分野に応用した行動経済学によれば、利益と損失の金額が同じ場合、人は利益を得る喜びよりも、損失を被る悲しみの方が2〜3倍も大きくなるそうです。だからこそ、人は株式投資において損切りを先送りし、さしたる根拠もなく株価の戻りに賭けようとします。こうした心理傾向は「損失回避バイアス」と呼ばれています。

そもそも株式投資では、保有銘柄がどれだけ含み損を抱えても、売却しなければ実際の損失は確定しません。言い換えるならば、株式投資の最終的な損失は、売却によって投資家本人が決めることになるわけです。

投資家にとって損切りとは、自身の銘柄選択が結果として誤りであったことを認め、自ら損失を確定させるという非常に辛い行為です。いわば自分の「いたらなさ」を受け入れる必要があるわけで、そうした辛さを避けようとする心理も、損切りを先送りしやすい要因と考えられます。

現実問題として、損切りにはいくつかのメリットがあります。まず、株価がさらに下落して損失が拡大するのを防げること。売却によって現金が手に入るので、その資金で新たな株式銘柄に投資することも可能になります。保有銘柄の将来性に疑問を感じるような場合には、いったん冷静になって投資のあり方を見つめ直す意味でも、損切りを実行する意義は大きいのではないでしょうか。

あなたは相場の暴落時に積極的な買いを入れられるか?

反対に、自ら損失を確定させて失敗した、以下のようなケースもあります。

――株式相場が大きく下落した際に、保有銘柄の株価も大きく下がり、怖くなったので、すべて売却して損失を確定した。その後の相場回復に合わせて株価も戻ったが、すでに売却していたため株価上昇の恩恵を受けられなかった。――

株式相場の急落時には、多くの投資家が保有銘柄の売却を急ごうとします。そんな周囲の動きにつられて、自分も保有銘柄を慌てて売ってしまったという事例が過去には目立ちます。

行動経済学では、個人が安心を得たいがために、大多数の人々の行動に追随したり、周囲に同調しやすい傾向があることも知られています。こうした群集心理は「ハーディング現象」と呼ばれ、バブル相場の発生などもその一種と言われています。

株式相場の急落時に考えたいのは、自分の保有銘柄に大きな変化があったのかということです。業績が急激に悪化したなどの悪材料が特に見当たらないにもかかわらず、株価が下落した場合には、主としてハーディング現象の影響によって売られたものと推測できます。長期の視点で見れば、そこで保有銘柄を売るべき理由は何もないことになります。

業績とは関係ない理由などで株価が下がった銘柄については、従来よりも安い価格で買うチャンスが来たと考えることもできます。実際に株式投資で成功している人には、「株式相場の暴落時に積極的な買いを入れる」という共通点があるようです。

2020年のコロナショック時には、日経平均株価(終値、以下同様)が2月6日から3月19日にかけて30.7%も急落しました。同時期には、いわゆる国際優良銘柄(グローバルに事業を展開する優良銘柄)の多くでも株価の急落に見舞われています。

同年2月6日〜3月16日の期間中、例えばトヨタ自動車は24.9%の下落、ソニーグループは28.2%の下落をそれぞれ記録しました。3月16日の底値で両社の株式を購入していれば、そこから今年(22年)9月6日までにトヨタ自動車は72%、ソニーグループは91%も上昇したことになります(トヨタ自動車の20年の株価は株式分割後の調整値を使用)。

こうしてみると、株式投資は自分の選択や判断に執着しすぎてもダメだし、周りに流されすぎてもダメなことがよく分かります。あるときは自分を疑ってみる、またあるときは大多数の意見を疑ってみるという、勇気や大胆さが求められます。自分の心理といかに向き合い、いかにコントロールしていくかが、株式投資の成否を決めるポイントなのかもしれません。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。