これから株式投資を始めるのに適した方法があれば教えてください(前編)
多くの投資家は株式相場の上昇に乗りたがっている
米国と中国の貿易戦争をきっかけに、投資家の間では世界的な経済鈍化リスクが強く意識されるようになりました。加えて金融市場には現在、米国の金利上昇や中国経済の減速、新興国の通貨安、欧州不安の再燃など数多くの懸念材料が渦巻いており、投資環境とりわけ株式相場の行方はいよいよ見通しづらくなってきたと言わざるを得ません。
相場の先行きが不透明になると、投資経験の浅い・深いにかかわらず、投資家の多くは株式への投資を躊躇(ちゅうちょ)しがちになります。このとき、投資家のなかではどのような心理が働いているのでしょうか。例えば今年(2018年)10月以降、米国ダウ工業株30種平均や日経平均株価がたびたび急落し、株式市場ではボラティリティー(変動率)の高まりに注目が集まっています。このように株式市場全体の値動きが荒くなると、それ自体をリスクと感じて投資を控えようと考える人も出てきます。
振り返ってみると、ちょうど6年前の今ごろ(12年11月中旬)はいわゆるアベノミクス相場が本格化する前の時期にあたり、日経平均株価は8,000~9,000円台のボックス相場が続いていました。ある意味で株式市場は非常に安定していたわけですが、当時を日本株の「買い時」と見て、積極的な買いを入れた投資家は決して多くはなかったはずです。すなわち、厳密に言えば、人びとの投資行動にとって変動率の大きさはさほど関係ないことになります。
仮にこの先、数カ月にわたって日経平均株価が下落し続けたとしたら、どうでしょうか。株式をできるだけ割安な価格で仕込むという観点に立てば、買い場が次々に訪れることになりますが、株価が上昇に転じる気配が見られない場合、やはり投資を躊躇する人が多いかもしれません。
結局のところ、「株式相場の上昇に乗りたい」というのが投資家の本音であり、「株式相場が安定して上昇基調にあること」を確認したうえで投資に臨みたいのだと思います。幸か不幸か、過去数年の株式相場はそうした希望をかなえやすい状態にありました。逆に言えば、多くの投資家がそのような恵まれた投資環境はもはや長くは続かないと感じているからこそ、株式投資に対して弱気になりつつあるのでしょう。
実際に一部の市場関係者は、最近の相次ぐ株価急落について次のように指摘しています。「背景にはグローバルな景気後退への懸念がある。今まで株価が上昇していた銘柄が急落した後、戻り局面での反応が鈍いのは、売りたい投資家が多くいるからであり、マーケットに質的な変化が起きている。後から振り返れば、景気後退の始まりだったと気付くかもしれない」
配当利回りに着目したシンプルな割安株投資法
株式市場が転機に差しかかっている現在は、人びとが株式投資に対する考え方を変えてみる良い機会なのかもしれません。これまで相場を追いかける傾向が強かった人ならば、ここはひとつ株式投資の基本に立ち返って、銘柄選びに力を入れてみてはどうでしょうか。
誰でも簡単に実践できる銘柄選びの方法として、米国で有名になった「ダウの犬」と呼ばれる戦略があります。この戦略ではまず、ダウ平均を構成する30銘柄のなかで配当利回りの高い上位10銘柄を選び、それらに同じ金額ずつ投資します。1年後に30銘柄の配当利回りを調べ直し、上位10銘柄から外れた銘柄は売却して、新たにランクインした銘柄を買い足します。こうした作業を機械的に続けるだけのシンプルな手法ですが、年によっては投資成果がダウ平均を上回ることも多かったため、投資家の注目を集めることとなりました。
配当利回りは「年間の予想配当額÷株価」で表されます。配当額が変わらない場合、株価が下がると配当利回りは高くなる関係にあるため、配当利回りの高い銘柄は株価が下落して割安になったとみなすことができます。「ダウの犬」はこの点に着目した割安株投資の一手法であり、ダウの犬とは正確には「ダウの負け犬」、すなわち株価が下がった銘柄群を指しています。
配当利回りはあくまでも予想配当額から割り出した見込みの値なので、企業の業績が悪化すれば減配や無配になる恐れがあるほか、それが影響して株価も下がってしまう可能性があります。配当利回りの高い銘柄に投資する際には、できるだけ財務内容が良好で配当原資にも余裕のある大企業を選ぶことが基本的な条件となります。
日本株でダウ平均に相当するものとして、東証1部上場企業のなかで特に時価総額が大きく流動性の高い30銘柄から構成される「TOPIXコア30」という株価指数があります。この指数を用いてそれぞれ投資額が近くなるように購入株数を調整すれば、日本株においてもダウの犬と同様の割安株投資を行うことが可能です。
今年11月14日現在、TOPIXコア30の配当利回り上位10銘柄には日産自動車(利回り5.57%)や日本たばこ産業(同5.31%)など日本を代表する大企業が並んでいます。ひとつ注意したいのは10銘柄のうち情報通信が3銘柄、商社が2銘柄、銀行が2銘柄という具合に、業種の重なりが結構あることです。それが気になる人は、重複している業種で利回りが下位にあたる銘柄を4つ省き、各業種1銘柄ずつ6銘柄に絞ってみてもいいかもしれません。
次回は引き続き、これから株式投資を始める方法について、さまざまな角度から検証してみたいと思います。