いま聞きたいQ&A

少子化問題を本気で「国家存亡の危機」と捉えられるか?

出生数が6年連続で戦後最少記録を更新するなど、日本の人口減少は急速に深刻さを増しています。出生率が低迷する背景としては、新型コロナウイルス禍の影響で婚姻数が減ったことに加えて、経済的な問題から若者が出生への意欲を失いつつあるという現実も見逃せません。新たな局面に対応した、本気度の高い少子化対策が求められます。

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Q.日本の人口減少はどれほど深刻なのですか?

厚生労働省が今年(2022年)6月に発表した人口動態統計によると、1人の女性が生涯に産む子どもの数を示す合計特殊出生率が、2021年には前年より0.03ポイント低下して1.30となりました。記録が残る1947年以来、過去4番目に低い数字となり、史上最低だった05年の1.26にも迫りつつあります。

21年の出生数は81万1604人と、前年比2万9000人以上の減少となり、6年連続で戦後最少記録を更新しました。第1次ベビーブーム期のピークだった1949年に比べると、21年の出生数はわずか30%にすぎません。さらに21年は、出生から死亡を引いた日本の人口自然減が62万8205人と、過去最大の減少数となっています。

総務省の人口推計によると、21年10月1日時点の日本の総人口は1億2550万2000人で、11年連続の減少となりました。前年比64万4000人という減少幅は、比較が可能な1950年以降で最大の数字です。また、22年4月1日時点で子どもの数(15歳未満人口)は過去最少の1465万人となり、41年連続して減少を記録。総人口に占める子どもの割合は11.7%で、48年連続の低下となっています。

今年5月には米国の起業家イーロン・マスク氏が、「出生率が上がらなければ日本はいずれ消滅する」といった内容のツイートを行い、大きな反響を呼びました。その発言も、上記のように人口減少の激しさを示す数字のオンパレードを見るにつけ、あながち大げさとは言えないような気もしてきます。

人口学者の間では、合計特殊出生率が1.3を下回ると、深刻な「超少子化」とみなされます。日本でもかつて03~05年は超少子化の状態が続いていました。そのさなか、将来の人口を推計する国立社会保障・人口問題研究所(社人研)によって、以下のような驚くべき見通しが提出されています。

——04年の出生率1.29が将来にわたって変わらないうえに、移民の流入もないなどと仮定した場合、日本の総人口は約200年後に1000万人を割る。そして2340年には100万人を、2490年には10万人を割り、3300年には列島が無人になる——

こうした「日本消滅」の可能性は内閣府の有識者会議でも取り上げられ、当時の小泉純一郎首相は少子化対策に傾注することとなります。合計特殊出生率は05年に1.26まで下がった後、団塊ジュニア世代が出産適齢期に入ったこともあって回復に転じ、12~18年は1.4台を保っていました。それがいま再び低迷しつつあるのは、なぜでしょうか。

子どもを産んだ後ではなく、前段階への支援が必要に

21年には婚姻数が50万1116組と、戦後最少記録を更新しました。前年比で2万4000組ほど少なく、新型コロナウイルス禍前の19年と比べると10万組近く減った計算です。一因として、コロナ禍に対応した断続的な行動制限が、若者から出会いや交流の機会を奪ったことが挙げられます。

欧米主要国に比べると、日本では結婚した夫婦が子どもをもつ例が圧倒的に多く、コロナ禍の影響による婚姻数の減少が、妊娠数や出生数の減少も招いたと考えられるわけです。だとすると、コロナ禍さえ収まれば事態は改善に向かうようにも思えますが、問題はそう単純ではなさそうです。

日本労働組合総連合会(連合)は今年3月に、非正規社員として働く女性に関するインターネット調査の結果を公表しました。それによると、初めて就いた仕事が正社員の女性では「配偶者がいる」が63%、「子どもがいる」が57%に上ったのに対して、非正規の女性ではそれぞれ34%、33%となり、両者の間で大きな差が表れています

東京大学では男性を年収別のグループに分けて、それぞれ40代時点における平均的な子どもの数の推移を調べました。それによると、2000年以前に40代を迎えた人(生まれ年が1948~52年まで)は年収によって子どもの数に大きな差はなかった一方で、直近の40代(生まれ年が71~75年)では年収が低いグループの子どもの数が、高いグループの半分以下になっています

前出の社人研による調査では、男性が結婚相手の条件として考慮・重視する項目のうち、女性の「経済力」を挙げる割合が、1992年の27%から2015年には42%へ増加していました。

これらの調査結果をみる限り、男女を問わず就労・収入環境の悪化を理由に結婚をあきらめたり、出生への意欲を失いつつある人が増えていることは明らかです。ここにきて日本の少子化問題は新たな局面に入ったと考えるべきでしょう。

従来の少子化対策は、子どもは欲しいけれども育児環境の不備によって出産をためらう夫婦への支援が中心でした。例えば待機児童対策として保育園を増やす、父親の子育て参加を促すために育児休業の取得を奨励するといった施策です。これらの多くは子どもを産んだ後の支援であり、その前段階への意識が薄かったことは否めません。

今後は若い世代への雇用対策やキャリア形成支援などが必要となりますが、これもまた例によって「言うは易く行うは難し」ではないでしょうか。欧米をはじめ先進国の8割では、21年の出生率が前年に比べて上昇しています。これら世界の改善例に学ぶという方法もありますが、結局は国の衰退や消滅の可能性も含めて、日本がどこまで本気で少子化問題を「危機」と捉えられるかにかかっていると思われます。

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