人口減少の現実と、それが日本経済に及ぼす影響について教えてください。(前編)
少子化は将来的な経済成長率の低迷につながる
厚生労働省が発表した2020年の人口動態統計によると、同年に生まれた子どもの数(出生数)は前年から2.8%減り、過去最少の84万832人となりました。1人の女性が生涯に産む子供の数を示す合計特殊出生率は5年連続で低下し、1.34まで落ち込んでいます。
厚労省に設置された社会保障と人口問題の政策研究を行う機関として、国立社会保障・人口問題研究所(社人研)があります。社人研は17年の時点で、20年の合計特殊出生率について、最も可能性が高いとされる「中位推計」で1.43と見込んでいました。今回発表された現実の数値はそれより小さく、むしろ可能性が低いとされる「低位推計」の1.27に近いものです。
合計特殊出生率は05年に1.26まで下がった後、団塊ジュニア世代が出産適齢期に入ったこともあり、15年には1.45まで上昇していました。ところが16年以降は再び出生率の低下傾向が続いており、少子化が政府の想定を上回るペースで進んでいることが分かります。
同じく20年の婚姻件数は前年比12%減の52万5490件となり、戦後最少を更新しました。厚労省がまとめている妊娠届などをもとに複数のシンクタンクが試算した結果によると、今年(21年)の出生数は80万人を割り込む可能性がありそうです。実際に80万人を割れた場合、現行の統計をさかのぼれる1899年以降で初の出来事であり、社人研が17年に示した推計と比べると、約10年も前倒しで80万人割れが現実化することになります。
日本の人口は08年をピークに減少へ転じていますが、さらに出生率の低下が恒常化することで、将来の人口構造にも大きな影響をもたらします。例えば生産年齢人口(15~64歳)は、1995年には最多の8700万人を数えましたが、2030年には7000万人を下回る見込みです。
日本は1960年代に、生産年齢人口が平均1.8%で増加し、実質国内総生産(GDP)の伸び率は年度ベースの単純平均で10%程度の高い水準にありました。90年代後半から生産年齢人口が減少を始め、2000年代以降もマイナス幅を広げた結果、経済成長率も2000年代以降の平均値は0.5%程度と低迷が続いています。
よく言われるように日本は生産性が高まらず、近年は高齢者など働き手の増加で経済成長力をなんとか保ってきたという側面もあります。少子高齢化と人口減少がこの先いっそう加速すれば、こうした流れの維持も危うくなるかもしれません。
人口減少について国の見通しも施策も甘さが目立つ
ここにきて少子化のペースが上がった背景には、新型コロナウイルスの感染拡大で結婚・妊娠を手控える人が増えたという、いわば想定外の要因が影響していることも確かです。しかし、それを差し引いても政府の見通しは甘いと言わざるを得ません。
政府は14年に閣議決定した骨太方針で、「50年後も1億人程度の安定的な人口構造を保持できる」と公言しました。その年に同じく閣議決定した「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」では、20年に出生率1.6程度、30年に1.8程度、40年に人口置き換え水準2.07程度に高めれば、60年に人口1億人程度を確保できるとしています。人口置き換え水準とは、人口が減らないために必要な出生率を指し、外国からの移民は考慮しません。
前述のとおり、20年の出生率は1.34となり、政府が見込んでいた1.6程度にはほど遠いものでした。加えて問題なのは、30年の出生率1.8程度が実は「希望出生率」を意味しているということです。希望出生率とは結婚を望む人がすべて結婚し、希望どおりの数の子どもが生まれるという状態で実現するもので、各種の調査結果からその数値は1.8とされています。
コロナ禍の影響が及ぶ以前から、若い世代における将来不安、育児支援策の不足などにより、結婚や出産をためらう人は確実に増えていました。だとすれば、希望出生率1.8を見込むこと自体に無理があるのは明らかです。
ましてや40年の2.07程度を実現するには、結婚を望まない人も結婚し、希望する以上の数の子どもが生まれることが条件になります。国がこうした非現実的な将来設計にこだわる限り、あらゆる施策が後手に回るのはなかば必然といえるでしょう。
政府・与党では現在、子育てに関する施策を一手に担う「子ども庁」の創設を目指していますが、これについても期待薄と指摘する専門家が多いのが実情です。日本の少子化対策が長年にわたって効果を発揮できなかったのは、場当たり的に新しい司令塔を乱立させてきたことが一因であり、子ども庁もよほど覚悟を決めて権限移譲や人員移管をしなければ、霞が関に重複した組織をまた一つつくるだけに終わる、というわけです。
さて、このように国の想定を上回るペースで進みつつある少子化および人口減少は、将来的に日本の経済や金融市場にどのような影響を及ぼすのでしょうか。そのなかで、私たち一般個人はどのような心構えで投資や資産形成に臨めばいいのでしょうか。次回、考えてみたいと思います。