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いま聞きたいQ&A

人口減少の現実と、それが日本経済に及ぼす影響について教えてください。(後編)

将来的に国債をどのように消化していくのか

少子高齢化にともなって生産年齢人口が減少したことにより、日本が海外との間で行う経済取引の構造にも大きな変化が生じています。日本の対外経済取引の収支内訳をみると、かつてはモノの輸出入を表す「貿易収支」の黒字が目立っていました。ところが2011年ごろからは、海外保有資産が生み出す利子や配当金といった「所得収支」で黒字を稼ぎ、それによって全体の収支(経常収支)も黒字を維持するという構造へ転換が進んでいます。

一般に生産年齢人口が減少すると、供給面での制約が大きくなって生産も輸出も減少するため、貿易収支は赤字になりやすくなると言われます。とりわけ今日のように世界経済の低成長が続くなかでは、対外直接投資による所得収支の黒字も伸びづらく、将来的に貿易赤字が大きく膨らむようなことになれば、日本において経常収支の赤字が恒常化する可能性も出てきます。

そのように国内で資金が不足した際に懸念されるのが、国債をどのように消化するかという問題です。日銀の「資金循環統計」によると、日本国債の保有者のうち、海外投資家の比率はまだ7.2%に過ぎません(20年12月末速報値)。しかし今後、国債の消化を海外の資金にも頼らざるを得ない状況になれば、これまでのような低い表面利率で国債を発行することは難しくなるでしょう

世界銀行は20年6月にまとめたリポートで、民間の海外投資家による国債の保有比率が全体の2割を超えると、金利上昇リスクが高まると分析し、それを「許容できない債務」と表現しました。仮に日本の経常収支が悪化して許容できない債務が生じた場合、市場は日本の「稼ぐ力」が著しく弱化したとみなすため、円に強烈な売り圧力がかかることも予想されます。

現実的には、許容できない債務が生じる前に海外保有資産の取り崩しや対外債権の回収を進め、それを国債の消化に充てるという手段も残っています。ただし、そうしたなりふり構わぬ行為もやはり円の売り材料であることに変わりはありません。円安が進んで輸入物価が上昇し、「悪いインフレ」につながりかねないわけです。

経済問題には個人が自助努力で対処する必要も

一部の専門家は、日本の人口減少はもはや避けられないものであり、今後はその現実を踏まえながら、国を挙げて「スマートシュリンク(賢く縮むこと)」を目指すべきだと指摘しています。具体的な施策としては、経済面では成長分野への選択と集中および生産性の向上が、社会面では人口構造の変化に耐え得る社会保障の仕組みづくりがスマートシュリンクの肝になるとのこと。しかしながら、これらはいずれも何年も前から国の重点戦略に挙げられてきたことではなかったでしょうか。

非常に残念ではありますが、人口減少という国家規模の問題について、国の施策がほとんど当てにならないということを、私たちはそろそろ本気で受け入れるべきなのかもしれません。前述した国債や為替のリスクも含めて、将来的に露呈する恐れのある経済問題には私たち個人が自分自身で考え、自助努力で対処していく必要がありそうです。

その意味では、「つみたてNISA(少額投資非課税制度)」や「iDeCo(個人型確定拠出年金)」などを通じて20~30歳代の若者の間で積立投資を始める人が増えていることは、ひとつの光明として注目に値します。金融庁のデータによると、例えばつみたてNISAでは、口座の開設者全体に占める30歳代以下の比率は20年末時点で45.1%となっており、18年末の39.6%から5.5ポイント増加しています

30歳代以下の世代には08年のリーマン・ショックと世界金融危機以降に社会人になった人が多く、いわゆるバブル崩壊による「負の体験」が少ないため、どちらかといえば投資に積極的なのではないかという分析があります。一方で、実際に積立投資を始めた若者に動機を聞くと、老後資金をはじめとする将来不安を挙げる人も少なくありません。

いずれにしても自分で何らかの必要性を感じて積立投資を始めた人は、投資の初心者とはいえ、自助努力という観点でみれば一歩進んでいると評価できるでしょう。ただし、そこにはひとつ大きな問題があります。こうした投資の初心者たちは、積立対象となる商品を自ら選んではいるものの、投資信託を通じて実際に投資している「株価指数」や「外国債券」などがどういうものなのか、すなわち自分が行っている投資の実態をよく理解していないケースが散見されます。

日本国民の金融リテラシー(知識や判断力)向上の必要性が叫ばれて久しいですが、大きな進歩があったかというと判断が難しいのが実情です。投資において「値動き」以外の情報にそれほど関心を示さないのは、若年層だけでなく、投資経験の長い高齢層とて同様でしょう。これは裏を返せば、日本の金融教育がまだまだ浸透していないことの表れではないでしょうか。

折しも日本の高校では、来年(22年)春から新科目として「公共」の授業が始まり、そのなかで金融教育がカリキュラムに加わります。これを機に教育を授ける側は、個人にとって最低限必要な金融リテラシーとは何なのか、改めて考えてみるべきでしょう。徹底的に分かりやすい教育を通じて、少なくとも個人が「投資の中身」をもっと知ろうとする機運が生まれることを、切に願うばかりです。

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