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海外発のインフレと金利差による円安。ダブル効果で価格上昇へ

海外で始まったインフレ(物価高)の波が日本にも押し寄せ、円安と相まって国内で物価上昇が続いています。日銀による金融緩和策の変更を求める声も増えてきましたが、結局のところ、それは対症療法にすぎません。将来的には人口減少を通じた国力の低下から、「日本売り」を招くリスクもくすぶっています。

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Q.日本国内の物価はなぜ、上昇に転じたのでしょうか?

昨年(2021年)の半ばごろから、米国ではインフレ傾向が高まっていました。新型コロナウイルス禍からの経済正常化が進んでモノの需要が増えるなか、人手不足や流通停滞による供給不足もあって、物価も賃金も上昇が続いたからです。

欧州では昨年の夏以降、気候異変によって風力発電などの電力供給が減少したため、火力発電への回帰の動きを強めていました。ちょうど世界的に経済活動の再開が広がってエネルギー需要が高まっていたことから、原油や天然ガスなどの資源価格が高騰し、欧州でもインフレが進むことになります。

今年に入ると、ロシアによるウクライナ侵攻の影響も重なって、食糧も含めた原材料および資源価格が軒並み上昇することとなりました。世界的なインフレ傾向がいよいよ鮮明になってきたのです。

米国では5月に消費者物価指数の上昇率が8.6%と、40年5カ月ぶりの高水準を記録。これを受けてFRB(米連邦準備理事会)は6月15日に0.75%の利上げを決定し、米国の政策金利は1.50~1.75%となりました。今後のさらなる利上げによって、今秋には14年ぶりに3%を超える見通しです。ユーロ圏でも足元のインフレ率が8%に達しており、ECB(欧州中央銀行)は7月中にも11年ぶりの利上げに踏み切る方針を掲げています。

原材料やエネルギー資源を海外からの輸入に頼る日本にも、インフレの波は押し寄せていますが、問題はそこへ急激な円安も加わったことです。円安は輸入価格の上昇を意味するため、日本はいわばダブルで価格上昇に見舞われることとなりました。

これまで少々のコスト上昇ならば、それを最終商品の価格に転嫁してこなかった日本企業も、さすがに今回は相次いで商品価格の引き上げに踏み切っています。長らくデフレに慣れ切っていた日本国民が、いま久方ぶりにインフレを経験しつつあるわけです。

日本の消費者物価指数の上昇率は今年4月と5月がいずれも2.5%と、およそ7年ぶりに2%を超えたものの、米欧に比べればそれほどではありません。ただし、米国などとは異なり賃金の低迷が続く日本では、インフレは家計への大きな打撃となります。個人消費が落ち込めば、売り上げ減によって企業業績への悪影響にもつながります。

こうした懸念から、インフレ対策や円安対策を求める声が、7月の参院選を控えた政治家を中心に日本国民の間で高まっているのが現状です。

円安はひとえに日米欧の金融政策の差によるもの

今年6月21日の外国為替市場では、円・ドル為替レートが一時1ドル136円71銭をつけて、1998年10月以来およそ24年ぶりの円安水準となりました。年初には1ドル115円台だったため、わずか半年ほどの間に18%程度も円安が進んだことになります

急激に円安が進んだ要因について市場関係者の意見を総合すると、「ひとえに米欧と日本における金融政策の差によるもの」ということになります。前述したように、米欧が利上げに乗り出す一方で、日銀はいまだに金融緩和の姿勢を崩していません。

相対的に金利が高くなった米ドルやユーロは投資先としての魅力が増して買われやすくなるため、結果として円売り(円安)につながります。実は、米国が22年にも利上げに踏み切ることが明確になった21年秋の段階で、すでに円安は進み始めていました。その意味では、今年に入ってさらに円安が進むことは、日銀のなかでは既定路線だったと考えられます。

日銀が金融緩和に固執する背景には、いくつか根拠らしきものがあります。例えば、生鮮食品とエネルギー価格の影響を除いた消費者物価指数をみると、米国の6%やユーロ圏の4%程度に対して、日本は1%未満にすぎません。実質国内総生産(GDP)を見ても、米欧が21年中にコロナ禍前の水準を上回った一方で、日本は22年1~3月期が年換算の実額で538兆円と、コロナ禍前の19年10~12月期を下回っています。

日本経済は新型コロナウイルス禍からの回復途上にあり、いま利上げに踏み切れば、債務が膨らんだ中小企業の経営を圧迫する恐れがあるほか、ローン負担の増加などによって家計にも悪影響が及びます。日銀としては「利上げができないというより、そもそも必要な局面ではない」というわけです。

一連の流れをみると、各人がそれぞれの立場でバラバラな主張を行うケースが目立ちます。個人と企業は目先の暮らしぶりや経営に影響する物価上昇を気にかけ、政治家は選挙対策としてインフレや円安の是正をアピールし、日銀はあくまでも景気回復と日本経済の地力強化にこだわる。さらに一部の専門家は、今回の円安がいわゆる「日本売り」の兆しではないかと懸念する——。

本来ならば、この国の将来的な方向性をもう少し明確にしたうえで、そこへ向けて全国民が納得しやすい政策が打ち出されてしかるべきではないでしょうか。今後の人口減少が避けられそうにないなか、数十年後の日本売りやキャピタルフライト(資産逃避)こそが最悪のシナリオとも思えますが、そこまでの深謀遠慮はどうにも日本国民にはなじまないようです。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。