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いま聞きたいQ&A

世界で広がるインフレ懸念はどの程度、深刻なのでしょうか?

FRBが「一時的」という従来の見方を撤回した

まずは現状のインフレ懸念について、例えば米国と日本では、その意味合いが大きく異なることを確認しておきたいと思います。

米国では新型コロナウイルス禍から経済が正常化へ向かうなか、耐久消費財などモノの消費が急増しています。米国の消費者物価指数(CPI)の上昇率は今年(2021年)10月に前年同月比6.2%と、1990年11月以来、約31年ぶりに6%台に達しました。上昇率は9月の同5.4%から加速しており、上昇幅が5%以上を記録するのは6カ月連続となります。

賃金の上昇も目立ちます。アトランタ連銀による賃金の伸び率に関する調査では、労働者構成の比重を調整した前年比上昇率(3カ月平均)が9月に4.7%と14年ぶりの大きさを記録。続く10月も4.4%と高止まりの状態にあります。モノや人手の不足という供給制約の長期化に加えて、賃金やエネルギー価格などの上昇が米国の物価全体を押し上げていく、いわば構造的なインフレへの懸念が広がりつつあるわけです。

日本でも10月に企業物価指数が前年同月比8.0%と、40年ぶりの上昇率を記録しました。ただし、こちらは消費者物価指数の上昇率が0%台にとどまっており、川下の最終製品やサービスまでは十分に値上げが広がっていません。日本で進むインフレは、原材料や資源価格の上昇による「輸入コストプッシュ型インフレ」としての性格が強いといえます

賃金が上がらないから需要が弱く、企業はコストの上昇分を製品に転嫁できないため、利益が伸びない。だから賃金も上げられない――。そんな悪循環が続くなか、米国が金融緩和の縮小へ動いているため内外金利差から円安が進みやすくなっており、今後は輸入物価のさらなる上昇も予想されます。こうしたジレンマが、日本におけるインフレ懸念の内実ではないでしょうか。

国によって懸念の中身が異なるとはいえ、基本的にはインフレの継続期間によって、世界の経済・社会に及ぼす影響の深刻さは変わってきます。この点について最近、市場を混乱させるような事態が相次いで起こりました。

一つは、FRB(米連邦準備理事会)のパウエル議長が「高インフレは一時的」という従来の見方を事実上撤回し、テーパリング(量的緩和の縮小)の終了を急ぐ意向を表明したこと。もう一つは、新型コロナウイルスの新たな変異型「オミクロン型」の感染が世界で広がり始めたことです。

オミクロン型の感染拡大で事態はさらに混沌へ

FRBのパウエル議長は11月30日の議会証言で、オミクロン型の影響について「インフレ抑制」と「インフレ促進」の両方向に言及しました。「雇用と経済活動に下振れリスクをもたらす一方で、労働市場の改善の遅れや供給網の混乱を増幅する可能性がある」と、インフレの不確実性が高まっていることを認めています。

それでもFRBが当面はインフレ鎮圧の方向へカジを切る姿勢を強めた背景として、まず米国で深刻化する供給制約の問題が挙げられます。米国ではコロナ禍を機に早期退職したり、今後も賃金上昇が続くとみて仕事にいますぐ就くのを控える人が多く、仕事を探している人も含めた労働参加率の低迷が人手不足につながっています。

労働力の観点からみたインフレ率の低下については、ちまたの賃金上昇を受けて人々が労働市場へ戻り、結果として賃金の上昇圧力が一定範囲内に収まるかどうかがカギを握ります。

しかし、オミクロン型の感染状況によっては接客など対面サービスの職場への復帰をためらう人や、在宅で子どもの世話に専念せざるを得ない人が増え、人手不足がさらに深刻化する可能性もあります。それはインフレを一段と長引かせる要因になるため、FRBとしては早めに手を打たざるを得ないという理屈です。

もうひとつ、バイデン米大統領が11月22日にパウエル議長の再任を決めたこととも無関係ではなさそうです。中間選挙を来秋に控えたバイデン政権にとって、高インフレは支持率の低迷に直結する大問題です。FRBの唐突ともいえる「変節」の背景には、政治的な配慮も少なからずあったと考えるのが自然ではないでしょうか。

FRBがインフレ鎮圧に注力しても、思惑どおりに事が運ぶとは限りません。オミクロン型などの感染拡大によってコロナ禍がなおも長期化し、人の往来や経済活動の制限が広範囲に及べば、労働市場での求人需要が鈍り、高インフレが収まらないうちに雇用と景気が悪化に転じる恐れもあります。場合によっては、1970年代~80年代初めに世界を襲ったスタグフレーション(物価上昇と景気停滞の同時進行)に近い状況に陥りかねないわけです。

他方、世界がコロナ禍に見舞われる以前に先進国を覆っていた低成長・低インフレという経済基調が、コロナ禍を経たことで一気にインフレ時代に舞い戻るとは考えにくいという指摘が、市場に少なからずあることも事実です。コロナと同じく影響の深刻さを非常に読みづらい、というのが今回のインフレの特徴といえるのかもしれません。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。