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いま聞きたいQ&A

ロシアによるウクライナ侵攻は、世界の経済・社会にどのような影響を及ぼしますか?(前編)

ロシアに対する金融制裁は、資源価格の高騰を招き、その結果、さまざまな商品価格が急激に上昇しています。世界が限られた一部の国、特に強権型国家に依存するリスクを目の当たりにして、世界で脱炭素の動きが加速することも考えられます。

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金融制裁の副作用として資源価格が高騰

今年(2022年)2月24日にロシアがウクライナへの侵攻を開始して以降、経済的な影響としてまず目立つのは、さまざまな商品価格が急激に上昇していることです。

原油価格の国際指標のひとつであるロンドン市場の北海ブレント原油先物は、日本時間の3月7日に一時、前週末比で2割高い1バレル139ドル台まで上昇しました。約13年8カ月ぶりの高値となり、08年7月に付けた史上最高値(147.5ドル)に近づいています。

同じく3月7日に、欧州の天然ガスの指標価格であるオランダTTF(翌月物)は一時、前週末比で63%高い1メガワット時あたり335ユーロを付けて、史上最高値を大幅に更新しました。これは1年前の取引価格と比べて20倍強にあたる水準です。ICEフューチャーズ・ヨーロッパの石炭先物(ロッテルダム先物)の3月物も、3月2日に期近物の過去最高値を記録しています。

英国BPの統計資料をもとに丸紅経済研究所が作成したデータによると、エネルギー資源の世界輸出量(2020年)に占める国別シェアで、ロシアは原油が2位(12%)、天然ガスが1位(25%)、石炭が3位(18%)となっています。なかでも地理的に近い欧州は、天然ガスの4割、石炭の5割をそれぞれロシアからの輸入に頼っています。

米欧日などはロシアへの金融制裁として、国際銀行間通信協会(SWIFT)の決済網からロシアの主要な金融機関を排除しました。その際、欧州が抱えるエネルギー事情などに配慮して、一部の金融機関を制裁の対象から外し、ロシアとの「資源取引の道」は残す形となっています。しかし、ロシアがいまだに侵攻を止めないため、米英はさらなる制裁強化策としてロシア産原油の輸入禁止を決定しました。

ロシアの外貨獲得の柱であるエネルギー輸出を制限することは、ロシアに対する国際的な包囲網を強めるのに効果的な一方で、供給減を通じてエネルギー資源価格の高騰を招くという副作用もあります。昨年(21年)来のインフレ対応に追われている米欧をはじめとして、日本を含む消費国にとっては痛しかゆしといったところでしょう。

今後はむしろ脱炭素の動きが強まる?

3月7日にはパラジウムやアルミニウム、銅など非鉄金属の先物価格が相次いで史上最高値を更新しました。パラジウムは需要の8割がガソリン車などの排ガス浄化触媒用で、世界生産に占めるロシアのシェアは42.8%にも上ります。

パラジウムの代替品として、主にディーゼル車などの排ガス浄化に使われるプラチナ(白金)も、3月7日に先物価格が約9カ月ぶりの高値を記録しています。実はロシアがウクライナに侵攻する以前から、価格が高いパラジウムをプラチナに代替する動きは強まっていました。そのプラチナも世界生産の14.2%をロシアが占めており、ロシアからの調達が困難になれば、さらなる価格上昇の可能性があります。

半導体製造装置のレーザー光源に使われる希少資源のネオンは、世界生産の約7割をウクライナが占めています。大半が海上輸送で、ウクライナ南部のオデッサから黒海を経て需要地に届けられますが、現状ではオデッサにある精製工場の稼働は停止し、オデッサ港も閉鎖されています。需給ひっ迫への懸念から、例えば中国でネオンのスポット価格は年初から3月初旬にかけて65%上昇しました。

小麦価格の国際指標である米シカゴ商品取引所の小麦先物(期近)価格は3月4日、14年ぶりに史上最高値を更新しました。ウクライナは「欧州のパンかご」とも呼ばれる農業大国で、ロシアと合わせると小麦は世界輸出の3割を占めています。ウクライナの港湾閉鎖や、ロシアの商船が一部で運航停止になった影響で、小麦の供給減少が懸念されています。

こうしてみると、今日の世界がエネルギー・産業資源や食糧資源の調達を、いかに限られた一部の国に依存しているかがよく分かります。そこには資源を通じた相互依存の関係が、安全保障上も有効に働くという期待が込められていたはずです。結果として今回、その期待は裏切られることになりました。

ここ数年、世界は先進国がいわば先導する形で「脱炭素」の方向へと大きく舵(かじ)を切りつつあります。油田などの開発投資がスローダウンした結果、化石燃料を簡単には増産できない状態となりました。今回のように産油国や資源国が紛争を起こすと、それがただちに商品相場の高騰へつながるという図式は、ある意味で先進国などが招いた必然といえるのかもしれません。

専門家のなかには、今後はむしろ脱炭素の動きが加速するという見方もあります。エネルギーを強権型国家に依存するリスクを先進国が目の当たりにして、化石燃料からの脱却を進める意志が強まるというわけです。

いずれにしても、今後しばらくは世界的にインフレ圧力が強まると予想されます。そんななか、企業や家計も含めた社会には、どのような影響がもたらされることになるのか。紛争の行方を見守りながら、次回も引き続きこの問題を考えます。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。