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いま聞きたいQ&A

投資における「インカムゲイン」と「キャピタルゲイン」の位置づけは、どう考えればいいですか?

株式投資では配当の存在感が増している

まず簡単なおさらいですが、インカムゲインとは、投資家が「金融資産を保有すること」によって得られる収益のことです。株式では配当金が、債券では利息(金利収入)が該当し、投資信託の分配金や不動産の家賃収入、預貯金の利息などもインカムゲインの一種です。

キャピタルゲインとは、投資家が「金融資産を売買すること」によって得られる収益のことです。基本的には株式や債券、投資信託などの価格が動く金融資産を、安く買って高く売ることにより得られる収益を指します。株式の信用取引のように、高く売って安く買い戻すことにより得られる収益もキャピタルゲインの一種です。

投資にあたってどちらを重視するかは、投資家によって好みが分かれるところかもしれません。時期によっても注目の度合いは変わってくると思われます。

例えば株式では、今年(2021年)10月18日までの過去10年間でTOPIX(東証株価指数)が2.6倍強に、米国のS&P500種指数が3.6倍強にそれぞれ上昇したことから、キャピタルゲインの威力を再認識した人も多いのではないでしょうか。

ただし、日本国内で債券の利回りなどと比較した場合、株式投資におけるインカムゲイン(配当)の存在感はむしろ大幅に向上してきています。長引く金融緩和によって債券金利が著しく低下するなか、日本企業の間では株主還元の一環として配当を重視する動きが広がってきたからです。

日本取引所グループの統計資料で東証1部上場企業の平均配当利回り(加重平均)をみると、1998年1月~2007年7月の期間には0.62~1.17%で推移していました(月中平均)。ところがその後、07年8月~21年9月の期間には1.29~3.01%で推移しており、明らかに水準が切り上がっていることが分かります。

日本の長期金利の指標となる新発10年物国債利回りは、98年1月末には1.765%、07年7月末には1.790%と、いずれも東証1部上場企業の平均配当利回りを上回っていました。その後は08年のリーマン・ショックなどを経て低下の一途をたどり、16年2月末には-0.065%とマイナス圏に突入。今年10月18日の時点でも0.093%と、極めて低い水準となっています。

配当利回りは株価の下落によっても上昇するので個々の株式銘柄について検証が必要ですが、全般的に配当が増えることは、私たち一般個人が株式投資を行ううえで強力な武器になります

米国ペンシルベニア大学のジェレミー・シーゲル教授は著書「株式投資の未来」のなかで、次のような研究成果を公表しています。「1871~2003年における米国株の累積リターンの97%は配当の再投資がもたらしたものであり、キャピタルゲインが生み出した部分は3%にすぎない(インフレ調整ベース)」。

シーゲル教授は、株式相場の下落時においても配当を再投資しておくことで、その分だけ投資元本が大きくなるため、いざ相場が回復に転じた際には獲得リターンが加速度的に増えていくと指摘しています。

あまりに金利が低下しすぎて、債券の金利収入に資産運用のバッファ的な効果を期待しにくくなった今日では、株式の配当にそうした役割を担わせながら、配当を再投資して将来的なキャピタルゲインも膨らませていくという考え方に、改めて注目すべきなのかもしれません。なお、配当の再投資による複利効果については以前に紹介したことがあるので、そちらも参照してください(21年7月29日20年6月10日掲載)。

未分配ファンドが投資信託のあるべき形?

日本の個人投資家について前々から気になるのは、投資信託のインカムゲインとキャピタルゲインを、どのように捉えているのかという点です。

投資信託の分配金はインカムゲインに分類されてはいるものの、株式や債券のインカムゲインとは性質が異なります。分配金は運用益から支払われる「普通分配金」と、投資元本を取り崩して支払われる「特別分配金」に大別されますが、いわば前者は株式の値上がり益を配当に回しているようなものであり、後者は債券の元本を取り崩して金利に回しているようなものです。

長期投資が前提の投資信託では、複利効果を重視して分配金はすべて再投資に回すか、あるいは分配金をいっさい出さないというのが本来のあるべき形ではないでしょうか。その意味では、現在の投資信託は本来の形とゆがんだ形が混在していると言うことができます。

QUICK資産運用研究所の調査によると、過去に一度も分配金を支払ったことのない「未分配ファンド」が投資信託全体に占める割合は、11年末の7%弱から今年8月末には約45%まで増加してきています。投信を利用する投資家が、かつて毎月分配型ファンドを好んだ高齢層から、分配金には魅力を感じない若年層へと徐々にシフトしつつあることなどが背景として考えられます。

一方で最近、「予想分配金提示型」と呼ばれる投信にも人気が集まっています。これは基準価額の水準によって分配金が決まるもので、国内外の成長株で運用するアクティブ型の株式投信が中心です。

債券など安定運用における利回りが低下するなか、「株式の値上がり益を分配金に反映する仕組み」が高齢者などに受けているもようですが、インカムゲインとキャピタルゲインを混同しているのか、それともあくまでも分配金という定期収入にこだわりたいのか、投資家の真意は定かではありません。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。