株式投資は今後も中断せずに続けた方がいいのでしょうか?
配当と積み立ての効果で収益回復が早まる仕組み
新型コロナウイルスの感染拡大は、一般個人の投資や資産運用にも大きな影響を及ぼすこととなりました。特に2008年のリーマン・ショックと金融危機以降に投資を始めた人にとって、今回の事態は初めて経験する世界規模の経済的有事といえます。金融市場の先行きが見通しにくいなか、株式投信などの積み立てを中断して、保有資産をいったん現金化すべきではないかと考えている人も多いかもしれません。
IMF(国際通貨基金)では20年の世界経済の成長率がマイナス3.0%になると予測していますが、これは1年間のマイナス成長率としてはリーマン・ショック時よりも悪い数字です。IMFによれば、コロナ危機が世界経済に及ぼす影響は今から90年前の世界大恐慌以来、最悪になる見込みです。
1929年に始まった世界大恐慌では、米国の代表的な株価指数であるS&P500が同年8月の高値から最大で9割弱の下落を記録し、元値を回復するのに25年もの年月を要しました。この事実だけを見れば、なるほど人々が株式投資を躊躇(ちゅうちょ)したり、中断したくなったりするのも分かるような気がします。
ただし、上記のデータは「配当なし」の指数でみた場合であり、「配当込み」の指数では元値回復が15年5カ月後まで早まります。配当が積み重なって投資元本が大きくなることで、いざ株価が上昇に転じた際には獲得リターンが増大し、収益回復のスピードも速くなっていくわけです。投資対象にもよりますが、配当収入が安定して期待できる場合には、株式投資は途中で一時中断するより、むしろ長期投資を心がけた方が有利な側面があることが分かります。
投資する資産を株式と債券に分散して、なおかつ積み立てによる時間分散も行うと、収益回復はさらに早まります。29年8月から米国株式(配当込み)と米国債券に50%ずつ、毎月一定額を積み立てたと仮定すると、3年9カ月後の33年5月には投資収益がプラスに転じていました。現在は大恐慌当時とは債券投資の環境が大きく異なるため、今後も資産分散の効果が十分に得られるかどうかは不透明ですが、定期定額購入による時間分散の効果は変わらず期待できるのではないでしょうか。
例えばコロナ危機の影響が長引いて、しばらく株式市場の低迷が続いた場合には、相対的に安い価格で多くの株式を購入できることになります。そうした「安値仕込み」の機会が多ければ多いほど、株式の平均購入単価は低く抑えられるため、将来的に株価が上昇した際の収益率は高まります。つまり、積み立て方式で株式を購入する人は、これから株価が下がりそうな局面においては投資を中断するどころか、逆に投資の好機が継続して訪れると考えていいわけです。
リターンが得られる機会は想像以上に限られている
個人投資家にとって身近な日経平均株価の値動きについても検証してみましょう。
2014年末~19年末の5年間で、日経平均株価は1万7450円から2万3656円まで6206円(約36%)上昇しました。5年間は週に直すと260週にあたりますが、この間の週間変動幅をみると、上昇は累計で5万0880円、下落は同4万4674円となっています(差し引き6206円)。
260週のうち日経平均株価が週間で700円以上の上昇を記録したケースは17週あり、その17週の上昇幅を合計すると1万4800円となります。これは5年間のなかの7%ほどという短い期間に、累計上昇幅の3割近くが集中していることを意味します。また、全体の約3分の1に当たる89週では、日経平均株価の変動率は上下とも1%程度にとどまっています。89週を合計した変動幅は300円に満たないレベルで、5年間の騰落率にほとんど影響を及ぼしていません。
このように、相場が実際に動いてリターンが得られる機会は、私たちの想像以上に限られているのです。逆説的な言い方をするならば、その限られた期間がいつなのか予測できない以上は、株式市場に資金を置き続けること、すなわち長期投資が求められることになります。5年という比較的短い期間ですら、これが現実なのですから、10年後や20年後の将来に向けて資産運用を行う場合にはなおさらでしょう。
専門家の間では、運輸業や一部の小売業などコロナ危機で株価が大きく下がった業種を中心に、いまこそ割安な銘柄をピックアップして投資すべきといった声も聞かれます。しかしながら、感染の第2波・3波への懸念がいまだ払拭できない上に、いわゆる「アフター・コロナ」の世界では、社会の在り方や人々の生活様式が従来とは大きく変わっていく可能性があります。個別銘柄への投資に力を注ぐのは、業種や企業を取り巻く環境の変化がある程度はっきりしてからでも遅くはないかもしれません。
配当収入を継続して得ることや、無理のない範囲内で粘り強く投資を続けるという点を重視すると、より多くの銘柄に分散できるインデックス型の株式投信などを定期定額購入で積み立てながら、できる限り長期投資をめざすというのが、差し当たっては最も無難な選択といえそうです。