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いま聞きたいQ&A

米国の長期金利上昇について、どのように考えればよいのでしょうか。

米国における長期金利上昇の背景として大規模な経済対策や新型コロナウイルスのワクチン普及による景気回復への期待が高まったことが挙げられます。一方で短期金利との差が広がっているため、やがては景気の良し悪しに関係なくインフレ率が上昇して、米国の金利上昇に歯止めがかからなくなる可能性もあります。

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景気を過熱させかねない3回目の現金給付

米国の長期金利がここにきて上昇基調を強めています。長期金利の指標となる米10年物国債利回りは2020年末に0.9%台でしたが、今年(21年)2月下旬には1.6%台と1年ぶりの高水準を記録。その後は一時低下に向かったものの、FRB(米連邦準備理事会)のパウエル議長が金利上昇の抑制策について具体的な言及を避けたことで、3月4日には再び1.5%台まで上昇してきました。

パウエル議長は「米国内の物価上昇は一時的で長続きしない」との見解を繰り返し示していますが、市場ではFRBが金利上昇を受けて年内にもテーパリング(量的金融緩和の縮小)の検討に入るのでは、との観測が広がり始めています。市場の疑心暗鬼は株価の不安定化を招き、米国ダウ工業株30種平均は2月25~26日に合計1029ドル、3月2~4日の3日間に合計611ドル、それぞれ下落しました(ダウ平均の価格は終値ベース)。

米国における金利上昇の背景としては、大規模な経済対策や新型コロナウイルスのワクチン普及によって景気回復と経済正常化への期待が高まり、消費拡大を通じたインフレ率上昇が意識されるようになったことが挙げられます。大型の経済対策は国債増発をともなうため、国債需給の悪化も金利上昇につながります。

バイデン米大統領が提案した1.9兆ドル(約200兆円)規模の経済対策は、失業給付の特例措置が失効する3月14日までに成立する見通しです。この追加対策は名目国内総生産(GDP)の9%分に相当する巨額なもので、米国における需要不足を大きく上回ることから、景気を過熱させかねないリスクが指摘されています。

追加対策の柱は国民1人当たり1400ドル(約15万円)の現金給付ですが、米政権・議会は過去2回にわたって国民1人当たり1800ドル(約20万円)を給付済みです。ニューヨーク連銀の調査によれば、過去の給付分のうち消費に回ったのは26%にすぎず、そこに今回さらなる給付が追加されるわけです。ゴールドマン・サックスの試算では、21年半ばまでの過剰貯蓄は2.4兆ドルに達する見込みで、コロナ禍の終息にある程度のメドが立てば、こうした過剰貯蓄が一気に消費へ向かう可能性は十分に考えられます

その予兆はすでに表れています。今年1月に米国の小売売上高は5682億ドルと、月間の最高記録を更新しました。百貨店や家電量販店が2ケタの売上増となり、1月の消費者物価指数を見ると、主要家電は価格が1年前から15.8%上昇しています。米国では現在、レストランなど店舗営業の規制が段階的に解除されつつあり、制約の多い生活が続いた反動で今後は外食なども大きく増えることが予想されます。

長期国債だけに売り圧力がかかるのはなぜか?

金融仲介会社タレットプレボンによると、米10年物国債と金融政策の影響を受けやすい同2年物国債の利回り格差は、今年2月23日に約4年ぶりの水準まで広がりました。今回は償還までの期間が長い10年物国債に売り圧力がかかる(価格は下落、利回りは上昇)ことによって長短金利差が拡大しており、こうした現象は「ベア・スティープ」と呼ばれています

経済の教科書的に見れば、ベア・スティープは市場の景気拡大予想を反映した「良い金利上昇」と解釈されます。景気が拡大してインフレ率が上昇すると、それに合わせて市中金利も上昇するため、相対的に金利が低い既発国債の価格は下落することになります。反対に利回りは上昇しますが、それはあくまでも「これからその国債を買う人にとっての利回りが過去よりも上昇する」という意味です。

すでに国債を保有している人には「償還まで持ち切る」という選択肢もありますが、市場にもっと有利な利回りの国債がある以上、さっさと保有国債を売却してそちらに乗り換えたいと思うのが投資家の心情というものでしょう。将来的に景気拡大が予想される場合、償還までの期間が長い国債ほど、そのような心理が働きやすくなって売り圧力がかかるというわけです。

しかし現実を振り返ると、米国では過去50年間にベア・スティープはほとんど確認されていません。長短金利差が拡大したケースの大半は、景気悪化時に金融緩和が進められる過程で、政策金利と関係が強い短期国債の金利が押し下げられた結果でした。今回は極めて異例の事態といえますが、長期国債の売り要因となるインフレ予想の高まりについて市場では、必ずしも景気回復期待によるものとは限らないといった見方も出てきています

前述した人間心理を持ち出すならば、長引く金融緩和とコロナ禍における大盤振る舞いによって、人々の心理もさまざまに緩みきってしまったと言えるのかもしれません。低成長・低インフレが常態化するなか、投資家はFRBがそう簡単には利上げに踏み切れないことを見透かし、事実上の財政ファイナンス政策をなかば容認する。度重なる現金給付を受けた米国の一般個人は、将来的な増税による回収を考えずに消費へとまい進する――。

その結果として短期金利が上昇せず、長期金利だけに上昇圧力がかかっているのだとしたら、やがては景気の良しあしに関係なくインフレ率が上昇して、米国の金利上昇に歯止めがかからなくなる可能性もあります。FRBが想定よりも早く利上げ圧力にさらされる公算は大きく、株式投資家ならずとも、FRBの政策動向からしばらくは目が離せない日々が続きそうです。

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