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いま聞きたいQ&A

日本における投資信託の利用状況と、そこから見えてくることを教えてください。(後編)

個人の間で目立つ投信への“無頓着ぶり”

前回、日本でパッシブ投資信託(投信)の純資産残高が、2019年末に初めてアクティブ投信を上回ったというデータを紹介しました。実はその対象を主として個人が保有する株式投信に絞ると、話はずいぶん変わってきます。

投信評価会社モーニングスターが同じく19年末に、日銀が大量に購入しているETF(上場投資信託)を除いた上で株式投信の純資産残高を集計したところ、インデックス型(パッシブ投信)は全体のわずか17%に過ぎませんでした。若者や現役層でインデックス型の活用が増えつつあるものの、日本の個人の間では高齢層を中心に、いまだにアクティブ型の株式投信が圧倒的な支持を集めているわけです。

いささか厳しい指摘になりますが、前回の内容に即して言うならば、日本の個人は運用コストが相対的に高く、その影響もあって統計的に7割以上は市場平均に負けると判明しているタイプの投信を、わざわざ好んで購入していることになります。

こうした個人の投信に対する“無頓着ぶり”は、いったいどこから来るのでしょうか。投信を販売する金融機関が、過去に自己都合を優先して顧客に「今売りたい銘柄」ばかりを推奨してきたという問題も、もちろん関係していることでしょう。ただし一方では、それ以上に気になる点があります。個人は自らの資産運用に際して、投信という金融商品を十分に活用できているのか、あるいは本気で有効活用する気があるのかという問題です

一つの投信銘柄について保有者全体の損益を平均化した「インベスター・リターン」という指標をみれば、その投信の購入者が実際にどれぐらいの収益を上げているのかを推計することができます。前出のモーニングスターによると、19年までの5年間で株式投信全体のリターン(*)は平均で年率2.5%のプラスを記録していました。対してインベスター・リターンの平均は年率1.7%のプラスとなっており、株式投信の保有者がいわば「もうけ損ねている」ことが分かります。

ある日本株のアクティブ投信は、19年までの5年間に年率17%のプラスという好成績を上げたものの、インベスター・リターンは若干のマイナスでした。この投信では基準価額が過去最高値を記録した18年初頭に買いが集中していて、いわゆる「高値づかみ」に陥った投資家が多かったと考えられます。

アクティブ型の株式投信では、同じく基準価額の騰落率とインベスター・リターンの差が大きいケースが目立ちます。これはタイミングを計って投信を売買しようとする個人が、相変わらず多いことの証しではないでしょうか。運よく優秀なアクティブ投信にめぐり合うことができても、高値づかみや「安値売り」によって、個人が自ら投信の運用能力を十分に活用できない状態をつくってしまっては元も子もありません。

(*)ETFや確定拠出年金専用投信を除く/リターン=基準価額の騰落率

一度に全額を投信の購入に充てる理由などない

そもそも個人にとって、株式の個別銘柄ではなくアクティブ型の株式投信を購入する動機とはいったい何でしょう。

投資資金を一度にそれほど多く捻出できない若者や現役層なら、少額から分散投資できるメリットを挙げる人が多いと思われます。しかし、リタイアして手元に退職金などのまとまった資金があるような人にとっては、売買する銘柄の選択や売買時期の決定をプロにお任せできる点の方が大きいのではないでしょうか。

個別銘柄の売買タイミングで失敗したくないからこそ投信を利用しようとする個人が、投信そのものの売買に際してタイミングを計っているのだとしたら、本末転倒といわざるを得ません。むしろ、まとまった資金の運用ニーズがある人ほど、タイミングを計るのとは逆のことが求められてきます。すなわち投信の購入時にも売却時にも時間分散を意識して、高値づかみや安値売りを極力避ける工夫が必要になってくるわけです

仮に今65歳の人が手元資金の3000万円を使って一つの投信銘柄を購入しようとする場合、冷静に考えれば、どうしても一度に全額を購入に充てなければばらない理由などないはずです。とはいえ若年層のように20~30年といった長い投資期間を設定して積み立てを行うのは、年齢からみて現実的とはいえません。

例えば2年(24カ月)程度に投資期間を限定して、毎月125万円ずつ積み立てるという手があります。投資に2年も時間をかけるのは「まどろっこしい」という人ならば、半年の投資期間で、2カ月ごとに1000万円ずつ3回に分けて投資してもいいでしょう。たとえ大ざっぱな積み立てになっても構わないので、高齢層は高齢層なりにアレンジを施して、とにかく少しでも時間分散を実践してみることが大切です。

注意しておきたいのは、時間分散は決して万能な投資法ではないということ。それは高齢者に限らず、どのような年代の誰にとっても同様です次回は売却時における具体的な方法も含めて、時間分散の基本的な効果と限界について改めて整理してみたいと思います。

ご注意:「いま聞きたいQ&A」は、上記、掲載日時点の内容です。現状に即さない場合がありますが、ご了承ください。